7.演出と裏切り
名を呼ばれた男は私に気づくと嬉しそうに目尻を下げ、長い足でこちらに歩いてくる。
「あれ〜?怜ちゃんだ。相変わらず可愛い〜。」
「青葉、どうしてここにいるの?もしかして清水の協力者ってあなたのこと?」
「怜ちゃん、会えて嬉しいよ〜。半年ぶりじゃない?俺のこと覚えててくれるなんてさすが俺のお気に入り。
こんなとこで会うなんて運命感じちゃうな〜。ねねね、この半年間俺に会えなくて、寂しかった?俺のことちゃんと思い出してくれた?あ、もしかして今日もそのために来てくれたとか?」
青葉は私の問いかけを無視し、楽しそうに話し始める。
「あなたを捕まえるという意味では会いたかったわね。」
「ふーん。つまんないの〜。それよりも、ど〜お?半年ぶりの再会を祝して少し派手な演出にしてみたんだけど、白馬の王子様が来てくれたって感じぃ〜?」
「白馬のっていうか・・・っつ!」
「あーあ。てか、お姫様がボロボロじゃん。だあれ〜?こんな酷いことしたの。」
青葉は私の格好を見ると途端に機嫌が悪くなり、眉間の皺を深く刻みながら殺気と共に後ろの2人に問いかける。
さっきまでヘラヘラ笑っていた清水が青ざめガタガタと震えるので、横にいる私も怖くなり身震いがとまらない。
「どっち?どっちがやったの?俺、自分のものが傷つけられるの嫌いって言わなかった?てか、お前怜ちゃんに触んなよ。」
ガッと清水が掴んでいる腕を強引に引き剥がし、私を自分の方に引き寄せる青葉。
「ヒッ!そ、それは・・・そ、そこのあなたの部下ですよ。私は何もするなって言ったんですが、そいつが!!」
「ふーん。そうなんだ?ショウちゃん?」
「いえ、清水様が気が動転されており、放った1発が黒崎様に当たった形となります。私は言い付け通り、黒崎さんに当たらぬようお持ちの銃に狙いを定めたのですが、、、どうやら射撃はとことん苦手なようです。」
「そうなんだ。清水くんさ、ショウちゃんのいい分ではアンタがやったようだけど。怜ちゃんもアイツにやられたんだよね?」
いつもの青葉と違う低い声で尋ねられ、何も答えずにいると青葉は沈黙を肯定と受け取ったようで、笑みを深くした。
「ちがう!!!本当にこいつが!!俺はほんとに」
「まあいいや〜。俺、予定が狂うのとお気に入りが傷つけられるのが1番嫌いなんだ。あんたはもうここでバイバイしよっか?」
ニコリと青葉は笑みを作るが、目の奥は全く笑っていない。
「お前まさか、俺を元々使い捨てる気で・・・ちくしょう!!こんなとこで俺は死にたくない!やめてくれ、死ねないんだーーーー!」
清水は青葉に向けて、銃を乱射する。が、闇雲に放った弾丸は1発も青葉に当たらない。
青葉は焦る様子もなく、ニコニコしながらショウという名の男に顎をしゃくる。
ショウはこうなることがわかっていたのか、はあーと大きなため息をつくと、「俺はこっちの分野苦手って言ってるんですけどね。」とつぶやいて素早い動きで清水の頸動脈をナイフで一突きする。
「ぐああああああ!」
清水は大声を上げながら、地面に転がり、しばらくして首の血を抑えながら動かなくなった。
青葉は冷たい目でそれを見下ろし、ショウに何の気なく話しかける
「あーあ。ショウちゃんさ、苦しまないようにしたでしょ?悶え苦しんだ末に死んだ方が楽、死なせてくれ〜ってなってからじゃないと、殺してる意味ないよ。そんな優しさうちにはいらな〜い。」
まるで苦しませることが殺しの本文だとでもいう言い方に青葉の冷酷さを垣間見て身震いするが、同時に怒りも湧いてくる。
「なんで殺したの。まだ厚生の余地があったかもしれないのに。清水はまだ生きたがってた。」
「ん〜?だって怜ちゃんにベタベタ触ってたし、それに元々そいつはあとで処理する予定だったの。ここで殺しても、後で殺しても一緒でしょ?まあでも、君を傷つける気はなかったんだ。怖い思いさせちゃってごめんね?」
青葉が心配そうな顔をで私の手をふわりと握ってくるが、勢いよく振り払う。
「やっぱり、あんたみたいな悪党はこれ以上被害者を出さないためにここで捕まえておくべきだわ。例えここでくたばってもね。」
「被害者を出す・・・か。君さ、清水が詐欺やってた証拠探しにきたんだよね?だったら、清水が今まで騙してきた人たちがその後どんなに苦しんできたか見てきたはずだ。清水は騙した金でこーんな大きいビルを買って、夜にクラブで遊び呆けて、寄ってきた女たちにクソみたいな詐欺の自慢話をしてるようなクズだよ?どっちが悪党だろうね〜?」
「だからって、殺していいわけない!清水が悪党かどうかは法律で決まるの。私たちは悪党かそうじゃないか司法に判断してもらうために犯人を追ってるのよ。」
「ふーん。これだから警察は話が通じないから嫌い。司法の判断なんて待ってたら、時を逃しちゃうよ。被害者は今すぐに清水に報復を与えて欲しいかもよ?」
青葉との会話は平行線だ。青葉も清水と同じ確保対象なのに、なぜか青葉にはどうしても私の正義を理解してほしいという気持ちが湧いてきて、言い返してしまう。平行線な会話が続き、青葉の漆黒の瞳を無言で見返していると、ショウが口を挟んできた。
「ボスわかってると思いますが、下に警察が続々集まってきてます。清水だけでなく、俺らもここでのんびりしてる時間はありません。」
「わかってるよ。ショウちゃん。珍しく女の子が言い返してきたからさ、怜ちゃんに意地張っちゃった。ショウちゃん、あれ、その面妖な仮面とったの?似合ってたのに〜」
ショウを振り返ると腰まで伸びたサラサラの銀髪を気怠げに払う碧眼の男が立っていた。
この世のものとは思えない、まるで天使のような見た目に目を見開いていると、青葉が目を覆ってこようとする。
爽やかなシトラスの香りが鼻を掠め、半年前も薄れゆく意識の中でシトラスの香りがしたなと思案しつつ振り払うと
「怜ちゃん、あんまショウちゃん見ないで〜。ショウちゃんのこの見た目で女の子はみ〜んな好きになっちゃうんだから。」
「黒崎さん、ボスのことは置いておいて、俺の顔は覚えておいてください。またすぐに会うことになるので。」
「何か事件を起こすってことね・・・」
ショウの言葉に怪訝な顔を向けながら、私は一番気になっていたことを青葉に問いかける。






