2.今宵月はせせら笑う
時刻は25:00
早瀬をマンションで拾い、警部から指示があった廃倉庫へ到着する。
まだ密売人がいないことを確認し、急いで配置につく。
廃倉庫の中が月明かりで照らされてるのを見て、今夜は満月ということに気づく。
早瀬は廃倉庫正面から、西森は廃倉庫裏口から
私は廃倉庫全体が見渡せる数十メートル先の5階建てビル屋上から対象を待つ
格闘技が警視庁でもトップクラスの西森、早瀬と比べ、
私は格闘技は公安では下の下だ。それでも世間一般ではかなり強い方に分類される。なぜそんな私が公安に配属されたかというと射撃の正確さだった。1600メートル以内なら命中率9割、
400メートル以内で実戦で外したことはない。
そのため任務では遠距離ライフルで射撃援護を行うのが私の役割だ。
時刻26:00
予定の時刻。耳につけてる無線がジジと音を立てた。
「こちら早瀬です。対象まだ誰もいません。対象近づいてきたらご指示をお願いします。」
「こちら西森。早瀬、堅いなあ。もっと気楽にやろうよ。相手ボコボコにしてとっ捕まえるのが俺らの役目なんだし、楽しんだもん勝ちっしょ。」
「こちら黒崎。西森あんたはもっと緊張感持ちなさいよ。
仕事を格闘ゲームと勘違いしてんのよ。」
「そう?それぐらいじゃないとやってけないと思うけどな〜この仕事は。」
この男のこういう面をいつも群がってる女子たちにも教えてやりたい・・・
そんなことを思いながらスコープを覗いていると視界右端に密売人らしき男3人が廃倉庫へやってくるのが見えた。
早瀬、西森に報告しようと口を開いたその時
「へぇ〜。なるほどね〜。こんな遠距離から見張られてたからこの前は失敗したのか。あいつらもこんな若い子にやられるなんてまだまだだね。」
突然耳元で聞こえた声にハッとして振り返ると
そこには全身黒ずくめな長身の男が月夜に照らされニヤつきながら立っていた。