魔法が使えない魔導士……だけど、最強でした
高井 想生です。
ハイファンタジー作品です。宜しくお願いします。
この世界では、十歳になると将来就くジョブの適性を調べる。
その日、私は生まれ故郷の小さな村で、占い師のお婆さんに適性を見てもらった。
「お……お主の適性は……みゃちょ……てぃ……じゃ」
正直、何を言っているのか分からなかった。歯が全部抜けているから、発音がふにゃふにゃだ。村の大人たちが何度も聞き返した末、「魔導士」だろう、ということになった。
なんだかテキトーな気もしたけど、これまでも上手くいっていた。だから私も、素直に信じることにした。
ただ――父は、がっかりしていた。父の落胆には、二つの理由がある。一つは、一人娘を遠く離れた「王立トゥアレッタ魔法学院」に入学させなければならないこと。もう一つは、自分の道場の跡継ぎがいなくなることだった。
私の父は、村一番の武闘家だ。そして、私も幼いころから父に鍛えられてきた。
赤ん坊の頃には一キロ以上の重さのおもちゃを与えられ、歩けるようになると父の全力疾走にロープで引きずられ、三歳を過ぎると毎日三時間の正拳突き。
村の近くにモンスターが出れば、「経験だ」と言われて単身討伐に行かされた。
何度も死にかけた。……いや、正直、死んでた。教会で何度も生き返らされたのを覚えている。
そんな私は十歳にして、村の大人たちよりも強く、父すら越えていた。だから、自分には「武闘家」の適性があると思っていたのに――結果は魔導士。
少し残念だったけど、正直、嬉しくもあった。
だって、あの地獄のような修行から解放されるのだから。
◇
二年後。
十二歳になった私は、王立トゥアレッタ魔法学院に入学した。
魔導の基礎、呪文理論、詠唱練習。
みんなが次々と初級魔法を覚えていく中、私は一年経っても、二年経っても何も発動できなかった。
火球を出そうとしたら、プスプスと煙だけ出た。氷魔法を練習したら、じんわり手が冷たくなるだけ。雷を呼ぶつもりで詠唱したら、なぜか腹がゴロゴロ鳴った。
「た、たぶん魔力の制御が難しいタイプなんだね」と先生たちは言っていたが、私は内心分かっていた。――私、魔法の才能ないんじゃない?
それでも学力面は優秀だったので、どうにか卒業できた。
卒業式の日、担任の先生が笑顔で言った。
「まあ、急に魔法が使えるようになるかもしれないしね」
……その言葉を信じて三年。
私は、魔導士として冒険者パーティーに所属していた。
◇
パーティーメンバーは四人。
剣士のレオン、タンクのボルグ、ヒーラーのカミラ。そして、“魔導士”の私――リアン。
……私はいまだに一発も魔法を使えない。にもかかわらず、誰にも気づかれていない。
理由は簡単だ。
私は“それっぽい何か”を出せるのだ。
「リアン! 前方のゴブリン! 魔法で倒してくれ!」
「ま、任せてください!」
私は深呼吸し、気を練る。
父の修行で叩き込まれた“気の集中法”。
空気が震え、肌がピリピリする。
そして――。
「《エアー・インパクト》ッ!!」
ドゴォォォォンッ!!
ゴブリンたちがまとめて吹っ飛んだ。地面が抉れ、煙がもうもうと立ちこめる。
「す、すげぇ……! いつ見てもリアンの魔法は桁違いだな……!」
「そ、そうですか? ちょっと出力を抑えたんですけどね……えへへ」
――違う。
今のは“気功弾”だ。魔法の要素なんて一切ない。でも、爆風と土煙さえ上がれば、みんな納得するのだ。
そう、魔法は見た目が大切なのだ。
その後も私は、気功や拳圧を使って“魔法使いっぽい攻撃”を繰り返した。
《フリージング・ブラスター》と称して空気を圧縮して吹き飛ばせば、巻き上がった粉塵が冷気っぽく見える。
《サンダー・スパーク》と叫んで拳で地面を叩けば、衝撃波で岩が弾け、雷鳴のような音が響く。
こうして私は、“強力な魔法を使う魔導士”として名を馳せていった。
◇
ある日。
私たちは森の奥でミノタウロスに遭遇した。
体長三メートル、全身を漆黒の魔鋼で覆った、上級モンスター。
「こ、こんなの勝てるわけ……っ!?」
カミラの声が震えた次の瞬間、ミノタウロスの咆哮が爆風のように吹き荒れた。
三人とも、衝撃で吹き飛ばされて気絶――残ったのは、私ひとり。
(……今しかない)
私は、パーティーメンバーに見られていない隙に、物理攻撃でミノタウロスを倒すことにした。
拳を握りしめ、深く息を吸い込む。
「私の拳を受けてみろ!!」
叫ぶと同時に、地面を蹴った。
大地が裂け、空気が悲鳴を上げる。
拳がミノタウロスの胸甲を貫き、背中から突き抜けた。
ドガァァァァァンッ!!
私が放った拳の衝撃で森が吹き飛び、ミノタウロスは跡形もなく消え去った。
……静寂。
「ふぅ。ちょっと“本気”を出し過ぎちゃったかも」
私は服についた土を払って笑った。
仲間たちが目を覚ましたとき、地平線の向こうにはクレーターだけが残っていた。
◇
その夜、宿で一人つぶやいた。
「……なんか、人生って、案外どうにかなるもんだなぁ」
父が見たら、きっとこう言うだろう。「お前、結局“拳”で天下取ったな」って。
私は小さく笑い、枕に顔を埋めた。
――“最強の魔導士リアン”
彼女の本当の適性は“魔闘士”
格闘家として最強を目指せる、未だ誰にも発見されていない新たなジョブだった。
しかし、誰もそれに気づかないまま、リアンは世界に平和をもたらすのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。




