天才の苦手なもの
放課後、僕は寮の机の前で頭を抱えていた。
「箒なんて持ってねえよぉ。」
すると、扉の向こうから何やら重い物を引きずる様な音がしたので、不思議に思い、扉を恐る恐る扉を開ける。
そこには、身長よりでかい紙包みを抱えた師匠が立っていた。
「どうしたんですか?」
余りの重さに扉を破壊しそうだったので、部屋に入るように勧める。すると、へろへろになりながら部屋になだれ込む。
「いやぁ、助かった。」
腕が疲れたのか手を伸ばし、壁にもたれかかる。
「あ、そうだそうだ、はいこれ。」
紙包みを剥がし、中の物を床に広げる。
「じゃじゃーん。」
零は中を覗き込む。
「箒、ですか。」
箒の柄をそっと撫で、まじまじと眺める。
「良いでしょう。これ。」
満面の笑みを浮かべながら、師匠も魔法陣から自分の箒を取り出す。
「僕もコレなんだよね。」
それはやはり新品に比べて色褪せていたが、丁寧に手入れされている事が分かる。
「懐かしいなぁ、僕も先生に貰ったんだっけ。」
昔の事を想いながら、箒を眺める。
「さて、用も済んだし、帰りますか。」
そう言うと、窓を開け、箒に乗り、床を蹴ってふわりと空へ飛び立つ。
「それじゃあ、次の授業で箒忘れないでね。」
大きく手を振り、何処かへ飛び去っていく。
その頃、蓮はシャドー本部で書類を読んでいた。
突然、本部に凄い勢いで箒が突っ込む。
凄まじい音に、その場にいた全員が杖を構える。
しかし、その正体に気づき、蓮は一歩前に出る。
「あれ、先輩、いきなりどうしたんですか?」
土煙が晴れた後、そこには先程はカッコつけていた満が伸びていた。
「だ、大丈夫。」
親指を弱々しく立て、手を上げるが、直ぐに音を立てて元に戻る。
「あ、また零君にカッコつけようとしたんですね。」
弱々しく頷く。
「先輩箒だけは苦手ですもんね。」
その場にいる全員で地面から引きずり出す。
「そんなんで次の授業大丈夫なんですか?」
首を縦に振ろうとする満の頬をつまみ、そのまま伸ばす。
「ふぁふぃふふんはほ(何するんだよ)」
「こんなんで授業できるわけないでしょ。」
手を頬から離す。
「大丈夫大丈夫、何とかなるよ。」
ぼろぼろのまま箒に乗り、また空に飛び立つ。
「大丈夫なんですか?主任。」
側にいたシャドーの一員が蓮に話しかける。
「いや、無理だな。」
上からガラスが壊れる音がする。
「ほらね。」
親指でその方向を指し示す。
先輩はこれで全治一カ月の大怪我を負ったそうです。