遠足騒ぎ
零「今回は校外学習だね。」
海「いやぁ、行けて良かったねえ。」
鋼「変なことしないでくださいよ。」
海「はーい。」
零「それでは、」
全員「どうぞ!」
「遠足だぜぇ。ヒャッハー。」
海の様子がおかしい。そこまでテンションが上がるものだろうか。
「そんなにハイにならなくて良いでしょう。」
鋼君と同意見だ。そんなに慌てなくて良いだろうに。
「甘いよ。2人とも。」
チッチッチと言いながら、ドヤ顔をする。
「今回はなんと、陽炎の森に行けるんだよ。」
陽炎の森とは、魔法界でも有名な観光地であり、その抽選倍率からほぼ行く事が出来ない場所である。考えてもいなかった行き先に、僕も鋼君もガタッと音を立てて席を立つ。
「「まじで!?」」
その声に周りの人がビクリとする。
「静かに、しーっ。」
海君も口に手を当て、静かにというポーズを取る。
「はーい、今日も授業を始めるぞ。」
蓮さんが冊子を持って教室に入って来た。指の鳴る音
がして、冊子が机の上に転移する。
「授業始めるぞ、と言いたい所だが、今日は社会科見学の説明をする。」
遠足じゃないんだ。
「行き先は〜、陽炎の森だぁ!よっしゃあ!」
教室中がその声を聞いて、お祭り騒ぎになる。
「あ、ちなみに日程は明後日だぞ。」
マジで?
2日後、僕たちはバスに乗っていた。
「いやぁ、まさかうちの学校うちの学校の社会科見学で人間界に来るとは思わなかったねぇ。」
海はガタガタ揺れるバスの窓から外の景色を眺める。
「本当にその通りだよ。」
鋼君は顔が真っ青になっている。バス苦手だったのか。
「そろそろ着くぞ、準備しろよ~。」
蓮さんがワイワイと騒がしいバス車内に響く声で話す。
「降りたは良いけど、ただの山道じゃん。」
右も左も山、木、岩、マジもんの山奥である。
皆ざわざわする中、蓮さんは近くの木をペタペタ触ったり、コンコン叩いたりしている。
「あったあった、みんな、こっちに集まって!」
なにかを見つけたのか、手を振ってクラスの全員を呼び集める。
「どうしたんだろうねえ。」
海が後ろから背筋を伸ばしたり爪先立ちになったりして、蓮さんの手元を覗き込もうとする。
「それじゃ、行くぞ、陽炎の森に。」
ある老木のへこみに杖を差し込み、右に半回転させる。
周りの景色が歪み、引き伸ばされていく。しばらくすると、ポータルの向こうにまた別の森が見えるようになった。
「そんじゃ、出発!」
蓮さんも浮かれている。
「いいとこだねぇ。」
しばらくして、三人は森の中を歩いていた。
「てかこんな所来てよかったのかな。」
鋼は少しオロオロしている。
「あはは…」
零は2人の後ろを苦笑いしながらついて行く。どんどん日が射さないようになり、辺りが暗くなる。
「しかし、綺麗だねぇ。あ、なんだろあれ。」
海はまだ呑気である。何か見つけたのか。
「気をつけろよ、…え?」
突如、海の頭上に暗い影が出来る。
「なんだよ、あれ。」
よく分からない、わけの分からないほどの数のドラゴンが空に、地面にと向かって来ていた。
「危ないッ!」
咄嗟に零は全員が守れるくらいのサイズの防御魔法を展開する。そこにドラゴンの炎が当たり、すぐに割れてしまう。
「先生に連絡して!」
『師匠に教わってて良かった。無かったら即死だった。』
そうは言っても、この状況で助けを呼ぶことなど出来ない。
その頃、蓮は森に居る人を守りながら、ドラゴンを捕縛し続けていた。
「めんどい、なんだコイツら。」
植物を操るという魔法の都合上、火を吐くドラゴンとはやや相性が悪く、捕縛がし辛い。
『いっそ避難だけに絞るか?でも、もし結界から外にこいつらこいつらが出てしまったら、マズイ事に…』
耳の発信機に手を当て、シャドーに援軍を要請する。
「こちら蔦屋、陽炎の森にてドラゴンの異常発生、援軍求む、どうぞ。」
少しして、シャドーの本部から連絡が返ってくる。
『こちら本部、只今各地にて同様の異常発生、現在派遣出来る者無し、どうぞ。』
どうやら異常だったのはここだけではないらしい。
「マジかよ。」
冷や汗をかきながら、捕縛したドラゴンを別のドラゴンにぶつけ、地面に落とす。
そんな事を考えていると、後ろから生徒の声がする。
「あれ、零は?」
蓮は全身の血の気が引いたような感覚を覚えた。
「まさか、な」
遠くで大きな土煙が上がる。
「くそっ。」
自分の失態に気づき、走ろうとするが、何百匹ものドラゴンに阻まれ、進むことができない。
(どうするどうするどうする)
何も出来ない自分にイラつきながら、少々乱雑にドラゴンを植物で捕縛し、投げ飛ばして行く。
遠くに、ボロボロになった三人が走って来るのが見える。
「先生!!」
こちらに気付いたのか、走る速度が速くなる。
「こっちだ!」
蔓を三人の方に伸ばそうとする。
海と鋼はそれを掴み、蓮にキャッチされる。しかし、零に届く事は無かった。
「零!」
急に横から現れたドラゴンに脚で胴体を鷲掴みにされ、空高く飛んでいく。
「黒龍!?」
しかも、そのドラゴンは、数千匹に一体しか居ない、他のドラゴンの比にならないほど大きく、体が黒く輝く黒龍だった。
伸ばした蔓や枝も、まるで藁の様に燃え尽き、近づくことすら出来ない。
そこに、蓮のインカムからノイズが流れ、音声が聞こえてくる。
「蔦屋さん、一人居ました!今から向かわせます。」
「無理だ、たかが一人で…」
半ば諦めながらも、しかし、蓮はこうも考えていた。あの人なら、もしかしたら、
そこに、眩い光が差し込んできた。
「俺の弟子に手ぇ出してんじゃねえよ。」
何処からとも無く人影が現れ、黒龍の顔面を蹴り飛ばす。その影響で脚の力が緩み、零が真っ逆さまに落ちる。すぐさま零を抱え、地面に降り立つ。
「悪い、遅れた。」
「先輩!?」
最速の魔術師、望月満がそこに立っていた。
「海、鋼、2人は零を頼む。」
2人で意識を失っている零を支える。
「蓮、これ。」
竜の方を向いたまま、頑丈な素材のポーチ付きのベルトを懐から取り出し、投げ渡す。
「足場、頼んだ。」
「了解しました。」
蓮はポーチから植物の種をいくつか取り出し、成長させる。今までのものとは段違いに頑丈な、最早木に近い質感のそれは、一瞬で後ろに攻撃がいかないように、一部が壁のように変形した。
「「さて、ドラゴン退治だ。」」




