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3 陰謀

よろしくお願いします

 シルベーヌはお嬢様に随分心配をおかけしてしまった。

「刺繍糸を頼んだばかりに怖い思いをさせたようでごめんなさいね。今度から配達して貰うようにしなくてはいけないわね」

「とんでもない事でございます。騎士様に助けていただき何ともありませんでした。お嬢様のお役に立てて良かったです」

「この辺りも風紀が悪くなったのかしら、困ったものだわ。でもこれから刺繍の続きに取り掛かれるわ、ありがとう」



シルベーヌは自分もお礼を込めてカイトにハンカチに刺繍をしようと思っていた。何人かいた騎士の中でも目立って格好良かった。


友達の恋人を取ろうという気持ちはこの時はなかった。これはお礼だと自分に言い聞かせた。

小さな犬を刺繍した。同じ部屋のメイドに

「随分上手なのね、好きな人でも出来たの?」

と聞かれ破落戸に絡まれた時に助けて貰った騎士様へのお礼だと答えておいた。

同じ部屋で隠し事は中々出来ない。


刺繍は出来たがどうやって渡そうか、もっぱらの悩みがそれになった。

キャロラインに渡して貰うことは流石に出来なかった。騎士団に出かけて行って渡すのはどうだろう。


直接渡せなくても受付に預けよう。キャロラインの店でパンを買って騎士団に来るころに会えればちょうど良い。

シルベーヌは休日の日の朝に行動を起こすことにした。




 カイトは今日もキャロラインの店のパンを買い騎士団に出勤していた。騎士団の寮に住んでいるし朝食も食堂があるのだが、朝食とは別にパンを食べることに決めていた。キャロラインの笑顔と行ってらっしゃい付きなのだから。



カイトは走ってパン屋から帰る途中で声をかけられた。若い女性だった。こういう事はよくあるので通り過ぎようとしたら「この間はありがとうございました。あの、これお礼です」と言って紙に包まれたものを渡された。

「仕事で助けたのでこういう事はしないでください。受け取ってはいけない決まりなので」

と受け取らないで行き過ぎようとしたのだが

「キャロラインの友達なんです。今回だけです。受け取ってください」

と泣きそうな顔で言われた。カイトはどこで助けた女性なのかさえ覚えていなかったが、キャロラインに聞けば良いだろうと取り敢えず受け取っておいた。

心の中では面倒くさい事になったと思いながら。



 騎士団で女性の扱いが上手いアランにハンカチの返し方を聞いたら、キャロラインに返して貰おうなんて考えるなと言われた。その辺のゴミ箱に捨てておけばいいのだそうだ。厄介ごとの元になると言われそんなものかと感心した。



アランもキャロラインの事は知っている。狙っている奴は多いともう一度脅された。騎士団で彼女は人気があった。カイトが恋人になったと聞いた奴等が自棄酒を飲んだと噂が伝わって来たくらいだ。




気を付けていたのに、朝パン屋へ行く道の途中で出会うことが多くなってしまった。挨拶程度だから問題はないだろうと甘く考えていた。


いつの間にか朝デートの噂がパン屋界隈でも騎士団でも聞こえるようになっていた。

キャロラインに変な噂が伝わったら大変だと、事実ではないからと話をした。


「出勤前に親しく話をしている女性がいるという噂は根も葉もない嘘だから。キャロの友達だっていうから挨拶を返してただけだ。信じて。

もう挨拶はしないし、パン屋に買いに来るのもキャロの笑顔も、行ってらっしゃいも辛いけど我慢するよ。三ヶ月位で諦めてくれると良いんだけど。でも休みの日のデートは我慢しない」


そう聞いたキャロラインは複雑そうな顔をした。

シルベーヌがカイトを狙っているのだ。いい気持ちはしない。カイトがモテることは知っていたが、上手く躱しているだろうと信頼を寄せていた。

彼女は美人だった。にっこり微笑めば男が振り向く。胸も大きい。キャロラインが可愛いタイプならシルベーヌは妖艶な美人だ。


心変わりをされれば勝ち目がないと、キャロラインは自信を無くし気味だった。



どうして知りあったのと聞いたら破落戸に狙われているところを助けたそうだ。女の子が一番恋に落ち入りやすいシチュエーションだ。

いつもは無視しているがキャロラインの友達だと言ったので挨拶くらいならと隙を見せてしまったのだとか。


どうして人の恋人を取ろうとするのか理由が分からないが、友達では無かったという事だ。シルベーヌは店を出禁にしてもらった。店全体で対応して貰う事になり少し安心した。




✠✠✠✠✠


 騎士団の中にキャロラインに想いを寄せる者がいた。シルベーヌの噂を聞き、どんな女か確かめようとこっそり朝の買い出しに行くカイトの後を付けて行った。

綺麗な女の子だった。何でカイトばかりモテるんだ。悔しくなったのでカイトを酔い潰して安い宿に寝かせカイトの名でシルベーヌを呼んだ。危機感のない女だった。



服を脱いでベッドに入れば君たちは結ばれると囁いて、睡眠薬を飲むように言った。これで既成事実が出来上がるという訳だ。ベッドに滑り込んだシルベーヌは眠っているカイトに釘付けになった。綺麗な顔だった。髪に触れたり唇にそっとキスをした。身体が熱くなって来た頃眠けが襲って来て意識がなくなった。





朝カイトはどんな顔をするだろうか。

男は楽しみだった。






カイト君貞操の危機でした。助かって良かったです。

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