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2 恋人

読んでくださって有難うございます

 キャロラインとカイトは友人から恋人になり順調にデートを重ねていった。


春は優しい空気の中を桜の下を手を繋いで歩き、青空を立ち止まって見上げた。青い葉の下から見る青空が綺麗な事に改めて気がついた。


遠出すると花畑を見られる所もあり、楽しい時間を過ごし、二人でいられる幸せを噛み締めた。



夏は強い日差しを感じながら暑さに喘ぎ、湖の近くで涼を感じて二人で顔を見合わせて笑いあった。

祭りに行き串焼きのお肉を食べ合ったり、フルーツ飴を食べたり、暗い空を彩る花火や星を見て楽しんだ。



秋は空気が澄み渡り空が高くなり木々が色付くようになった。色付いた公園を手を繋いで歩くのは幸せな時間だった。




陽射しの短い冬がやって来て冷たい空気に変わって来た。

二人はお互いの温もりを逃さ無いように手を繫いで歩くようになり、キャロラインの部屋で甘い物を食べ、お茶を飲んでまったりするようになった。


カイトが暖房用の魔石を沢山プレゼントしてくれ籠に入れてキッチンの隅に置いてくれた。



これで部屋は暖かくなり快適な空間だ。

二人は身体をくっつけ、手を絡ませたりキスをし合う幸福な時間の中にいた。


二人の仲は深まっているとキャロラインは疑う事はなかった。

騎士だけあって正義感が強く困っている人に手を差し伸べる彼を尊敬していた。







毎日幸せに過ごしている時に故郷の友人のシルベーヌ゙から手紙が来た。

男爵令嬢だが田舎なので身分の差を感じる事なく友情を育んでいた。

三人姉妹の末娘なので伯爵家のメイドとして働く事になったとの事だった。



礼儀を学んで箔付けをし、良い縁談を望んでいるのだとキャロラインは思っていた。もうすぐ働くとういう時に王都に出て来るので会いたいと連絡が来た。


故郷の友だちに会うのが楽しみだった。

顔も見たいし皆の話も聞きたかったのだ。


安全を考えて人目の多い街中のカフェで会う事になった。

一応令嬢なので護衛が念の為付き添って来るそうだが、宿に送り届けたら帰るそうだ。


お互いに久しぶりなので話が弾んだ。帰りにキャロラインの働いているパン屋を見たいと言ったので、場所を教えた。

「そのうち仕事に慣れたら来てね、美味しいから」

「道を覚えるのは得意だから、お休みを貰ったら行ってみるわね」

「都会は怖いから油断しては駄目だよ。道をしっかり覚えてからにして。心配だから」

「わかったわ、お嬢様付きになるといいんだけど」

「配属は決まって無いんでしょう。きっと雑用からよ」

「行儀見習いに行くのよ。下働きはしないと思うわ」

「私にはお貴族様の事は良くわからないからそうかも知れないわね」

「貴族の奥様になったら雇ってあげる」

「せっかくだけどお断りよ、今の仕事が気に入ってるんですもの。私達は違う道を行くの。平民と貴族様では生きる道が違うわ。明日からお仕事頑張ってね」

「何か雰囲気変わったわね。都会に慣れた感じがするわ。恋人でも出来た?私も明日から仕事を頑張るわ」



✠✠✠✠✠



一年半くらい見ない間にシルベーヌは綺麗な女性になっていた。彼女なら貴族令息に見染められるのも早いかもしれないと思いながらアパートに帰った。



半年くらいたったある朝シルベーヌがパンを買いに来た。キャロラインの恋人を一目見ようと思ったらしい。カイトは騎士服でいつもの様に三個買うと急いで仕事に出かけていった。

「おはよう、今日も可愛い。行ってくるよ」

「行ってらっしゃい」


「騎士様ってこんなに近くで見たの初めて、格好良い人ね。あの人が恋人?」

「そうよ、今日はお休みなの?」

「ええ、買い物に出て来たの」

「楽しんでね。いらっしゃいませ。お待たせ致しました」

キャロラインは次のお客の接客に意識を変えた。

「また来るわね」

「ありがとうございました」



シルベーヌは人気のパンを三個買って帰ることにした。仕事は雑用だった。

十四歳のお嬢様専属のメイドは昔から決まっていたそうで、姉妹のように仲が良かった。いつかお茶を上手に淹れられたりドレスを選んだりしてみたいと思っているがシルベーヌにその役が回ってくるのかどうか分からない。



屋敷の掃除が主な仕事だ。男爵家とは規模が違いすぎていくらやっても終わりの見えない所が恐ろしい。

しかし使用人の質は良いようで虐められたことはない。多分皆低位貴族なのだろう。侍女長がきちんとした人で良かったと思った。



仕事中にシルベーヌはキャロラインの恋人の事を思い出していた。

田舎にはあんなに素敵な人はいなかった。最初はただの憧れだった。都会にはあんな格好良い男の人がいるんだと思っていただけだったのだ。




ある日お嬢様の専属メイドに用事ができシルベーヌがお使いを頼まれた。

刺繍糸が足りなくなったので買って来て欲しいと言われたのだ。


歩いて二十分の所にあり、二回ほど行った事があった。

お嬢様は婚約者が出来、ハンカチに刺繍をしてプレゼントするために毎日頑張っておられる。


刺繍は貴族令嬢の嗜みなので自分の糸もついでに買う事にした。休みの日の楽しみが出来た。いつも街に出かける訳にはいかないのだから。



刺繍糸を買いそのまま帰ろうとしたその時破落戸に絡まれた。

「綺麗なメイドさん、ちょっと遊んで帰らない?」

「急いで帰らないと叱られますので、手を離してください」

「そんな事言わずにちょっと付き合ってよ」



上から下までねっとりした視線で見られ気持ちが悪く怖くなった。もう逃れられないのかと思った時「何をしている、手を離せ。叩き切るぞ」と声がした。


何人かいた騎士の中で一番に助けに来てくれたのは、キャロラインの恋人のカイトだった。あっという間に破落戸は取り押さえられ他の騎士達に引っ張っていかれた。何故かカイトの知り合いだと勘違いした騎士団の仲間は、その場をまかせて次の仕事に向かった。



怖くてカタカタと震えていたシルベーヌに糸の入った袋を渡し

「大丈夫か、この辺にも破落戸が出るから気を付けて。どこまで帰るの。送って行こう」

と言った。

「その先の伯爵様のお屋敷が務め先でございます。キャロラインの知り合いの騎士様でいらっしゃいますね。助けていただきありがとうございました」


キャロライン以外に興味のないカイトは軽く聞き逃した。



屋敷に着いたカイトは門番にメイドが破落戸に襲われそうになっていたので、送って来たと告げ帰っていった。


この時にシルベーヌの心は一瞬で鷲掴みにされてしまった。キャロラインの恋人だけど、勝手に想っているだけなら良いだろうと、愚かにも自分を納得させたのだった。


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