第三話
「こんにちは」
「いらっしゃい」
わたしがやってきたのは、城下町にある薬屋。
「店主さん、虹をくれません?」
「・・・ああ、わかった。少し待ってろ」
虹=魅惑の毒
薬屋での隠語の一つで、この方法でヒロインも魅惑の毒を購入していた。
ちなみに唯一、この国で魅惑の毒が購入できるのはここのみだ。
しばらく待っていると、店主が小箱を持ってきた。
「これがお望みの商品かな?」
「ええ。・・・ちょっとお願いがあるのだけど」
「なんだ?」
「この薬を、私以外に売らないでくれる?」
「・・・どうしてだ?」
「どうしてもわたしのものにしたい人がたくさんいるの。だから、たくさん必要でしょう?」
「そうか・・・。例えば誰だい?」
わたしの計画はこのような感じ。
愛に飢えた令嬢という設定で魅惑の毒を大量購入し、一週間後にこの薬屋へ来るヒロインの「攻略対象攻略への道」の一部を潰す。
「お母様にお父様、お兄様に友達の婚約者さん、わたしの幼なじみに異国出身の美少年・・・」
「そんなに沢山も。」
「ええ。わたしだけを見て欲しいの。」
「・・・わかった。しっかり取っておこう」
「ありがとう、店主さん!じゃあ、とりあえず・・・今日は四個欲しいな」
「わかった。・・・合計で4万ゴールドだ」
「はい」
4万ゴールド。
庶民には少し値が張るが、一応わたしも貴族令嬢。
「毎度あり。」
店を出る前に、店主の方を振り返る。
「店主さん、ちょっとこっちに来て」
店主を上手く誘導して、屈ませる。
「どうしたん・・・っ」
店主の首筋を狙ってチョップを入れ、気絶させる。
「さて。少し嫌だけど・・・」
仕込んでいた短剣で指先を少し切り、垂れてきた血を瓶の中へ入れ、軽く振り混ぜる。
その薬を口の中へ少し含み、口移しで店主の口の中へ薬を流し込む。
「んんっ・・・よし。」
すぐに水道へ口を洗いに行く。
先程店主に飲ませたのは・・・魅惑の毒をわたしの唾液で少し薄めたもの。
原液は強い効果を発揮するが、少しでも水やエタノール、唾液などが入ると効果が弱まる。
ちなみに、薬に血を垂らすだけでその血の持ち主の言うことは絶対になり、意思も無くなるから、禁忌の毒となっている。
「じゃあ、店主さん。よろしくね!」
気絶した店長に声をかけ、店を出る。