第72話 顔合わせには波乱が付き物で
「お疲れ様です!〘ディアレスト〙所属、柊彩香です!今回の舞台では、主演の麻生リコを演じさせていただきます!よろしくお願いします!!」
「お疲れ様です。同じく〘ディアレスト〙所属、如月由芽です。よろしくお願いします」
私達のそんな挨拶に、拍手やよろしく~って声が返って来てくれる。
由芽ちゃんは大前提として、私もそれなりに知名度は上がったようだし!
ああ、良かったぁ。
これで冷ややかな反応が返ってきてたら、泣いちゃうもんね!!
「彩香先輩、もう緊張は良いんですか?」
「ぐぬぬ、あんまり揶揄われたら再発しちゃうよ!?かなみちゃんに迷惑かけていいの!?」
「あたし巻き込まれる側なんですか……」
まったく!普段は私も余裕があるからいいけど、今は本当にやばいんだよ!?
そんな緊張を心の奥底に押し戻しながら周囲を見渡せば、知ってる人も沢山いて。
というか、キャスト表を見た限りは知ってる人の方が多かったよね?
例えば───
「凛ちゃん!ひなのちゃん!」
由芽ちゃんと同格で、初舞台では凄くお世話になったこの2人とか!
「彩香さん!かなみさんも、お久しぶりです!」
「久しぶり!同じ事務所なのに、ひなのちゃんとは全然会えないね~!」
「ひなの、本当に忙しいですからねぇ」
「あはは、同じ仕事が回ってきませんからね。ですから、今回の舞台では沢山彩香さんのお芝居を見ることが出来ますね!」
「う、うーん……!お、お手柔らかに……!」
ほ、本当にひなのちゃんと同じ役を演じるんだ……。
それはつまり、由芽ちゃんや凛ちゃんレベルと競うようなもの……!
「ほ、本当に、お手柔らかに……」
「柊さん、謙遜のし過ぎはダメよ?貴女はこの舞台の主演なんだから、もう少し堂々としていないと」
「凛ちゃん……!」
「彩香さんへの態度、私とゆーちゃんへのものよりも優しくないですか!?」
「貴女達が優しくさせてくれないんでしょう!?」
あ、あはは、本当に仲がいいんだね……。
何度か由芽ちゃんと3人でお泊りもしているというし、ちゃんと親友なんだなぁ。
……お、お泊りって事は、一緒にお風呂に入ったりしたのかな?
ま、まさかね!!普通の同性の親友と、一緒にお風呂だなんて!!
…………よし、かなみちゃんと計画立てなくちゃ!
「そうとなれば……って、由芽ちゃんがいない……?」
さっきまでいた場所には居ないね?
えーっと、あ、居た…………けど。
「……お知り合い?」
白色、というよりは銀色?
そんな綺麗な髪色のセミロングヘアが特徴の、綺麗な人と一緒だった。
かと思えば、私の目線に気づいた由芽ちゃんは笑顔で歩いてきてくれる。
うん!当たり前だけど、由芽ちゃんが宇宙一可愛くて綺麗だよね!!
「あーやかっ♪少し紹介したい人がいるから、一緒に来てほしいな!」
「かわいい!(もちろんいいよ!)」
「……えと、やっぱり緊張は継続中?」
「だ、大丈夫!しょ、紹介したい人だよね!!」
もしかして、心の中の声が出ちゃってた!?
で、でもでも、可愛すぎる由芽ちゃんは反則だと思うんだけど!!
「お待たせ、愛!彩香もありがと!2人に紹介するね!」
連れられてきたのは、さっきの女の子の前。
白色に近い銀色のロングヘアに、無表情気味な整った綺麗な顔。
身長こそかなみちゃんより低いくらいだけど、それがまたお人形さんっぽい。
ううん、改めて近くで見ると本当に綺麗……。
ん?この子、なんだか見覚えがあるような…………?
「まずは愛の事からね!彩香、こちら鳴海 愛。わたしとかなみの中学の同級生で、演劇部では副部長だったの!」
「初めまして、鳴海です」
「あ、あーっ!そうか、だから見覚えが!」
私が擦り切れるほど見た、由芽ちゃんの中学での舞台。
その中で全ての舞台に出てて、時々由芽ちゃんとW主演とかもしてた子!!
「……そっか、彩香はわたしのファンだもんね♪中学の舞台を見てたなら、見覚えあるよね」
「う、うん!」
「えへへっ……♪それじゃあ、今度は愛に!こちら、柊彩香。わたし達より1つ歳上で、わたしの愛弟子なんだ!」
「ま、愛弟子……っ!!」
確かに、私達が恋人だって事は言えないから仕方ないけど!!
私が由芽ちゃんの弟子であることは事実だから、弟子と紹介する事は合ってるけども!!
そ、それだけで満足せずに、"愛"弟子だなんて!!
由芽ちゃんって、私の事好きすぎないかな!?
「は、初めまして!柊彩香です!えっと、今回の舞台ではよろしく──」
「由芽、弟子とか作ってたの?」
お願いします、って言おうとして、その低い声音に止まってしまった。
由芽ちゃんや凛ちゃんよりも鋭い目は、酷く冷たく見えて。
その緑の瞳の中には、暗い感情が見えたような気がした。
「うん」
「………………柊さん?」
「は、はい」
「今回の舞台、私は貴女サイド。由芽の弟子なら、期待してます」
そう言う鳴海さんは、どうしてか酷く動揺しているように見える。
勿論、私の勘違いならそれでいいんだけど。
〖如月由芽と高崎凛。この2枚のジョーカーを活かすも殺すも、柊さんと笹森さん次第よ〗
少し前の打ち合わせで、私とひなのちゃんは祥子さんにそう言われた。
祥子さんは、その2人以外に関しては言及していない。
つまりは、この舞台での演技力のトップはその2人。
ひなのちゃんはともかく、真琴さんや長崎さんも由芽ちゃん達には敵わない。
「うん。精一杯、頑張ります!」
由芽ちゃんは、中学1年の頃から飛び抜けた演技力を持っていたらしい。
その状況で、鳴海さんは副部長の立場で部長の由芽ちゃんと競い続けた。
美浜中学の演劇部は実力主義だと聞いてるし、きっと鳴海さんも凄く芝居が上手な人。
そんな由芽ちゃんと競い続けた彼女と芝居をすることは、私にとって得難い経験になる。
由芽ちゃんに追いついて、追い越せるように。
せなさんと同じ才能を持っている私だからこそ、妥協はしちゃだめなんだ。
「…………それより由芽、本当に久しぶり」
「えっ?あ、うん。まさか、愛とまたお芝居できるなんて──」
「もう、一生離さない」
…………え?
鳴海さん今、私の由芽ちゃんにとんでもない事言わなかった?
「ん?愛、何か言った?」
「ううん、なんでも。由芽、この顔合わせの後時間ある?」
「えーっと、ちょっと待ってえぇぇぇ!?」
由芽ちゃんはきっと、無意識で今の鳴海さんの言葉を弾いてる。
何故なら、さっきの鳴海さんの呟きには”色”があったから。
私とかなみちゃんとせなさんを愛している由芽ちゃんは、他の人からの恋愛感情に鈍感になっていて。
かなみちゃんは、それを防衛本能のようなものだと言ってたっけ。
「ごめんなさい。由芽ちゃんは、私との用事があるので」
「あ、彩香?急に抱きしめたりして……、どうしたの?」
由芽ちゃんは、私とかなみちゃんの恋人。
その由芽ちゃんに、ちょっかいなんて出させない。
私の行動に鳴海さんも少しピリッとしてるみたい。
だけど、それは私だって同じだから。
「…………私は、由芽に聞いてる」
「知ってるよ?でも、私も当事者だから。答えても問題ないと思うんだ」
「え、えっと、彩香?愛?」
困惑して私を見上げる由芽ちゃんはとても愛おしいけど、今だけは何も言わずに私に抱きしめられていてほしいな。
初めてだよ、ここまで初対面の人を警戒してるの。
「おー、久しぶりじゃん愛。……って、なにこれ?どういう状況なの?」
「…………久しぶり、かなみ。元気そう」
「かなみ~……!」
「そっか。かなみちゃんも、鳴海さんの事当然知ってるよね」
「えぇっと…………、由芽が何かした?」
「何もしてないのですが!!」
────
「今日は皆さんの貴重なお時間を頂いて、本当に感謝しています。今回の舞台の、総合演出兼監督の高崎祥子です。よろしくね」
初対面の時よりも柔和な顔での祥子さんの挨拶に、わたしも含めた皆が拍手する。
凛との関係が改善してから、ほんとによく笑うようになったなぁ、祥子さん。
祥子さんが来てから、わたし達は改めて顔合わせの自己紹介に移ることに。
彩香と愛のさっきの一幕はよくわからないけど、なんとかお開きに。
ただ、今も机の下で彩香に手を握られているわけで。
かなみは席の関係で祥子さんの隣だし、愛がわたしの隣だから彩香と愛に挟まれてる感じだし……。
ほ、本当になんだろう?さっきの一瞬で、この二人の関係が悪くなる事あった??
「脚本家に関しては、高速の渋滞に巻き込まれて送れるそう。彼女も悪気はないから、許してあげてね」
脚本家……。ええっと、確か千早麗奈さんだっけ?
聞いたことない名前だから色々調べたけど、確か北海道の作家さんだよね。
渋滞に巻き込まれてとはいえ、わたしなら胃がキリキリしそうな状況だなぁ。
まぁ、わたしは今別の意味で胃が痛いですが!!
「そして、今回は演出家として私の下に1人ついてもらう事にしたの」
「か、葛城かなみです。この舞台では、祥子さんの下で皆さんの力になれればと思います。よろしくお願いします」
んふふ、緊張してるのはかなみもかな♪
せんせと祥子さんから聞いてはいたけど、この大舞台で演出家として雇われるなんて凄いよかなみ!!
せんせの弟子だし、何よりかなみがずっと勉強してたのは知ってるし!!
祥子さん直々の指名だというし、わたしの幼馴染は凄いなぁ♪
「葛城さんには、私より貴女達に近い場所で演出の仕事をして貰うつもりよ。そして、葛城さんの能力は私が保証するわ」
「祥子さんっ!?」
実際に始まれば差異はあると思うけど、かなみは現場での演出トップって事なのかな。
あんまり負担をかけるのもあれだけど、この布陣なら彩香の事も少しは任せられるよね。
「さ、ここからは演者の自己紹介をお願い。そうね、まずは柊さんサイドから」
「は、はいっ!」
「彩香、深呼吸してからね?」
「う、うんっ!」
ありゃ、折角薄まってた緊張がまた出てきたかな。
でも、プレッシャーに慣れるのも必要なことだし!仕方ないよね!
「あ、改めまして!麻生リコ役の、柊彩香です!主演を演じるのは初めてですが、精一杯頑張ります!よろしくお願いします!」
若干震え声だけど、それでも彩香は言い切った。
いつの間にか、わたしが面倒を見続けなきゃいけない彩香じゃなくなってる。
少し寂しいけどとても誇らしいから、ちゃんと拍手で盛り立てなきゃね!
皆の反応も…………、愛以外は良い感じ!
それじゃあ、次はわたしっぽいね!
「東スミ役、如月由芽です。よろしくお願いします」
わたしは今回主演ではないし、挨拶は簡潔に。
まばらな拍手にお礼をして、席に座りなおした。
「黛ノエル役、鳴海愛……です」
それだけ言って、愛は座りなおす。
拍手の音も、愛が座ってからまばらに起きてくれた。
もー、こういう所は相変わらずだね!?
お芝居にしか興味ないというか、無口気味であんまり集団が得意じゃないところ!
中学の時も、いつもわたしとかなみにしか興味なさげだったしさ!
「えっと、次はあたしかな!二階堂サナ役、長崎千奈ですっ!もう23歳なので、女子高生に違和感があったらごめんね!」
そうやって笑いながら、千奈さんは場を明るくしてくれた。
もうって言うけど、千奈さんって滅茶苦茶感性若いし大丈夫でしょ!
あ、真琴さんが対面でめっちゃ千奈さん睨んでる。
ふふっ、ほんと仲いいなぁこの二人!羨ましいくらい!
「最後はわたくしですわね。西城ミサ役、葉月蘭と申します。何卒、宜しくお願い致しますわ」
水色に近い髪色のゆるふわパーマを腰まで伸ばした、目鼻立ちがくっきりとした美人。
物腰は柔らかくて、常に余裕を持った綺麗な笑み。
うん、何度か映画やドラマで見たことがある人。
凛ほどじゃないけど、それなりに名前の売れている役者さんだよね。
確か、ご両親も役者の家系なんだよね。
いつだったかの彩香とのデートでせんせの舞台を見に行った時、会釈をしたっけ。
祥子さん、前も思ったけど人選ガチガチに固める人だよね。
「それじゃあ、次は笹森さんサイド。お願いできる?」
「はい。それじゃあ、わたしから」
今回の舞台はダブルキャスト方式。
つまりは、わたし達はお客さんや色んな人から比較される立ち位置になる。
うーむ、あんまり競争みたいなことはしたくないんだけどなぁ。
「麻生リコ役、笹森ひなのです。私も初主演ではありますが、精一杯頑張りますので、お力添えを宜しくお願い致します」
ぺこりと頭を下げるひなのは、彩香と違って緊張はなさそう。
席に座りなおしても、にこやかにわたしに手を振るくらいだしね!
「東スミ役、高崎凛です。よろしくお願いします」
んふふ、凛も最初にあった時とは全然違うなぁ♪
表情こそ笑顔じゃないけど、凛の素で喋ってるんだなってわかっちゃう♪
「それじゃあ席順で、次はアタシかな!三宅京子です!二階堂サナ役だけど、ちなっちと同じで、女子高生に違和感があったらごめんね!」
前の舞台でも一緒だった京子さん!
キャスティング表を見て、わたしがまた共演出来て嬉しいと思った人の一人!!
うん、今日もめっちゃ可愛い!!
「あ、あはは……。黛ノエル役、細川真琴です。高校生役は私も大変だけど、近くにいてくれる後輩たちを見て勉強するね。よろしくお願いします」
真琴さんだって、滅茶苦茶可愛くて綺麗なのに!!
なんて言ったらまた怖い目されそうだから、ここは拍手だけにしておこう……。
あ、千奈さんすんごい睨まれてる……。
「最後は私ですね!西城ミサ役、朝雲依です!経験は浅いですが、精一杯頑張ります!ご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします!」
げ、元気な人だなぁ。
黒髪のウルフカットの似合う、どことなくわんこ系の可愛い人。
聞いたことも見たこともないし、ネットで検索してもこの人だけ見つからなかったんだよねぇ。
でもキャスティング表には劇団シラユキ所属って書いてたし、新人さんなのかな?
彩香と同い年だし、そう言う事もあるのかな。
「これで全員かしらね。今回の舞台では、ダブルキャスト方式を採用しているわ。私はこの舞台で──」
「お、遅れてすみません!!」
「──はぁ。ギリギリ遅刻ね、千早。渋滞でも、皆さんを待たせた事には変わりないのよ?」
「ほ、本当に申し訳ございません!!以降このような事はないようにしますので、何卒……!!」
……はっ!あ、呆気にとられてた!
祥子さん、いま千早って呼んだよね?
ということは、この人が千早麗奈さんなんだ。
作家さんだから、もう少しクールな人かと……。
ううん、わたしのお母さんもお父さんもだけど、作家業でもクールな人ばかりじゃないよね!!
「騒々しくてごめんなさい。ほら、まずは自己紹介よ遅刻作家さん」
「うぐぅ……っ!は、はい……」
祥子さん、めちゃ雑に扱うなぁ。仲がいいのかな?
なんて考えていれば、千早さんは顔を上げた。
重そうな黒髪に、すらっとした黒縁のメガネ。
だけど彼女の瞳は、綺麗な青色の光を灯しているように見えた。
「初めまして!今回の舞台の脚本を務めます、千早麗奈と申します!……ええっと、遅刻した分際で厚かましいとは思うのですが」
「”ウチの子達”を、どうぞよろしくお願いします!」




