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人殺しのわたしは、今日もわたしを演じきる       旧タイトル〖放課後、10分だけ。わたしは貴女に恋をします〗  作者: 上里あおい
第3章 両極の天才役者編

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第72話 顔合わせには波乱が付き物で


「お疲れ様です!〘ディアレスト〙所属、柊彩香です!今回の舞台では、主演の麻生リコを演じさせていただきます!よろしくお願いします!!」

「お疲れ様です。同じく〘ディアレスト〙所属、如月由芽です。よろしくお願いします」


 私達のそんな挨拶に、拍手やよろしく~って声が返って来てくれる。

 由芽ちゃんは大前提として、私もそれなりに知名度は上がったようだし!


 ああ、良かったぁ。

 これで冷ややかな反応が返ってきてたら、泣いちゃうもんね!!


「彩香先輩、もう緊張は良いんですか?」

「ぐぬぬ、あんまり揶揄われたら再発しちゃうよ!?かなみちゃんに迷惑かけていいの!?」

「あたし巻き込まれる側なんですか……」 


 まったく!普段は私も余裕があるからいいけど、今は本当にやばいんだよ!?


 そんな緊張を心の奥底に押し戻しながら周囲を見渡せば、知ってる人も沢山いて。

 というか、キャスト表を見た限りは知ってる人の方が多かったよね?


 例えば───


「凛ちゃん!ひなのちゃん!」


 由芽ちゃんと同格で、初舞台では凄くお世話になったこの2人とか!


「彩香さん!かなみさんも、お久しぶりです!」

「久しぶり!同じ事務所なのに、ひなのちゃんとは全然会えないね~!」

「ひなの、本当に忙しいですからねぇ」

「あはは、同じ仕事が回ってきませんからね。ですから、今回の舞台では沢山彩香さんのお芝居を見ることが出来ますね!」

「う、うーん……!お、お手柔らかに……!」


 ほ、本当にひなのちゃんと同じ役を演じるんだ……。

 それはつまり、由芽ちゃんや凛ちゃんレベルと競うようなもの……!


「ほ、本当に、お手柔らかに……」

「柊さん、謙遜のし過ぎはダメよ?貴女はこの舞台の主演なんだから、もう少し堂々としていないと」

「凛ちゃん……!」

「彩香さんへの態度、私とゆーちゃんへのものよりも優しくないですか!?」

「貴女達が優しくさせてくれないんでしょう!?」


 あ、あはは、本当に仲がいいんだね……。

 何度か由芽ちゃんと3人でお泊りもしているというし、ちゃんと親友なんだなぁ。


 ……お、お泊りって事は、一緒にお風呂に入ったりしたのかな?

 ま、まさかね!!普通の同性の親友と、一緒にお風呂だなんて!!

 …………よし、かなみちゃんと計画立てなくちゃ!

 

「そうとなれば……って、由芽ちゃんがいない……?」


 さっきまでいた場所には居ないね?

 えーっと、あ、居た…………けど。


「……お知り合い?」


 白色、というよりは銀色?

 そんな綺麗な髪色のセミロングヘアが特徴の、綺麗な人と一緒だった。


 かと思えば、私の目線に気づいた由芽ちゃんは笑顔で歩いてきてくれる。

 うん!当たり前だけど、由芽ちゃんが宇宙一可愛くて綺麗だよね!!


「あーやかっ♪少し紹介したい人がいるから、一緒に来てほしいな!」

「かわいい!(もちろんいいよ!)」

「……えと、やっぱり緊張は継続中?」

「だ、大丈夫!しょ、紹介したい人だよね!!」


 もしかして、心の中の声が出ちゃってた!?

 で、でもでも、可愛すぎる由芽ちゃんは反則だと思うんだけど!!


「お待たせ、愛!彩香もありがと!2人に紹介するね!」


 連れられてきたのは、さっきの女の子の前。

 白色に近い銀色のロングヘアに、無表情気味な整った綺麗な顔。

 身長こそかなみちゃんより低いくらいだけど、それがまたお人形さんっぽい。


 ううん、改めて近くで見ると本当に綺麗……。

 ん?この子、なんだか見覚えがあるような…………?


「まずは愛の事からね!彩香、こちら鳴海 愛(なるみ あい)。わたしとかなみの中学の同級生で、演劇部では副部長だったの!」

「初めまして、鳴海です」

「あ、あーっ!そうか、だから見覚えが!」


 私が擦り切れるほど見た、由芽ちゃんの中学での舞台。

 その中で全ての舞台に出てて、時々由芽ちゃんとW主演とかもしてた子!!


「……そっか、彩香はわたしのファンだもんね♪中学の舞台を見てたなら、見覚えあるよね」

「う、うん!」

「えへへっ……♪それじゃあ、今度は愛に!こちら、柊彩香。わたし達より1つ歳上で、わたしの愛弟子なんだ!」

「ま、愛弟子……っ!!」


 確かに、私達が恋人だって事は言えないから仕方ないけど!!

 私が由芽ちゃんの弟子であることは事実だから、弟子と紹介する事は合ってるけども!!


 そ、それだけで満足せずに、"愛"弟子だなんて!!

 由芽ちゃんって、私の事好きすぎないかな!?


「は、初めまして!柊彩香です!えっと、今回の舞台ではよろしく──」

「由芽、弟子とか作ってたの?」


 お願いします、って言おうとして、その低い声音に止まってしまった。


 由芽ちゃんや凛ちゃんよりも鋭い目は、酷く冷たく見えて。

 その緑の瞳の中には、暗い感情が見えたような気がした。


「うん」

「………………柊さん?」

「は、はい」

「今回の舞台、私は貴女サイド。由芽の弟子なら、期待してます」


 そう言う鳴海さんは、どうしてか酷く動揺しているように見える。

 勿論、私の勘違いならそれでいいんだけど。


〖如月由芽と高崎凛。この2枚のジョーカーを活かすも殺すも、柊さんと笹森さん次第よ〗


 少し前の打ち合わせで、私とひなのちゃんは祥子さんにそう言われた。


 祥子さんは、その2人以外に関しては言及していない。

 つまりは、この舞台での演技力のトップはその2人。

 ひなのちゃんはともかく、真琴さんや長崎さんも由芽ちゃん達には敵わない。


「うん。精一杯、頑張ります!」


 由芽ちゃんは、中学1年の頃から飛び抜けた演技力を持っていたらしい。

 その状況で、鳴海さんは副部長の立場で部長の由芽ちゃんと競い続けた。

 美浜中学の演劇部は実力主義だと聞いてるし、きっと鳴海さんも凄く芝居が上手な人。


 そんな由芽ちゃんと競い続けた彼女と芝居をすることは、私にとって得難い経験になる。

 

 由芽ちゃんに追いついて、追い越せるように。

 せなさんと同じ才能を持っている私だからこそ、妥協はしちゃだめなんだ。


「…………それより由芽、本当に久しぶり」

「えっ?あ、うん。まさか、愛とまたお芝居できるなんて──」


「もう、一生離さない」


 …………え?

 鳴海さん今、()()()()()()()にとんでもない事言わなかった?


「ん?愛、何か言った?」

「ううん、なんでも。由芽、この顔合わせの後時間ある?」

「えーっと、ちょっと待ってえぇぇぇ!?」


 由芽ちゃんはきっと、無意識で今の鳴海さんの言葉を弾いてる。


 何故なら、さっきの鳴海さんの呟きには”色”があったから。


 私とかなみちゃんとせなさんを愛している由芽ちゃんは、他の人からの恋愛感情に鈍感になっていて。

 かなみちゃんは、それを防衛本能のようなものだと言ってたっけ。


「ごめんなさい。由芽ちゃんは、私との用事があるので」

「あ、彩香?急に抱きしめたりして……、どうしたの?」


 由芽ちゃんは、私とかなみちゃんの恋人。

 その由芽ちゃんに、ちょっかいなんて出させない。


 私の行動に鳴海さんも少しピリッとしてるみたい。

 だけど、それは私だって同じだから。


「…………私は、由芽に聞いてる」

「知ってるよ?でも、私も当事者だから。答えても問題ないと思うんだ」

「え、えっと、彩香?愛?」


 困惑して私を見上げる由芽ちゃんはとても愛おしいけど、今だけは何も言わずに私に抱きしめられていてほしいな。

 初めてだよ、ここまで初対面の人を警戒してるの。


「おー、久しぶりじゃん愛。……って、なにこれ?どういう状況なの?」

「…………久しぶり、かなみ。元気そう」

「かなみ~……!」

「そっか。かなみちゃんも、鳴海さんの事当然知ってるよね」

「えぇっと…………、由芽が何かした?」

「何もしてないのですが!!」


 

 

────




「今日は皆さんの貴重なお時間を頂いて、本当に感謝しています。今回の舞台の、総合演出兼監督の高崎祥子です。よろしくね」


 初対面の時よりも柔和な顔での祥子さんの挨拶に、わたしも含めた皆が拍手する。

 凛との関係が改善してから、ほんとによく笑うようになったなぁ、祥子さん。


 祥子さんが来てから、わたし達は改めて顔合わせの自己紹介に移ることに。

 彩香と愛のさっきの一幕はよくわからないけど、なんとかお開きに。


 ただ、今も机の下で彩香に手を握られているわけで。

 かなみは席の関係で祥子さんの隣だし、愛がわたしの隣だから彩香と愛に挟まれてる感じだし……。

 ほ、本当になんだろう?さっきの一瞬で、この二人の関係が悪くなる事あった??


「脚本家に関しては、高速の渋滞に巻き込まれて送れるそう。彼女も悪気はないから、許してあげてね」


 脚本家……。ええっと、確か千早麗奈(ちはやれいな)さんだっけ?


 聞いたことない名前だから色々調べたけど、確か北海道の作家さんだよね。

 渋滞に巻き込まれてとはいえ、わたしなら胃がキリキリしそうな状況だなぁ。

 まぁ、わたしは今別の意味で胃が痛いですが!!


「そして、今回は演出家として私の下に1人ついてもらう事にしたの」

「か、葛城かなみです。この舞台では、祥子さんの下で皆さんの力になれればと思います。よろしくお願いします」


 んふふ、緊張してるのはかなみもかな♪


 せんせと祥子さんから聞いてはいたけど、この大舞台で演出家として雇われるなんて凄いよかなみ!!

 せんせの弟子だし、何よりかなみがずっと勉強してたのは知ってるし!!

 祥子さん直々の指名だというし、わたしの幼馴染は凄いなぁ♪


「葛城さんには、私より貴女達に近い場所で演出の仕事をして貰うつもりよ。そして、葛城さんの能力は私が保証するわ」

「祥子さんっ!?」


 実際に始まれば差異はあると思うけど、かなみは現場での演出トップって事なのかな。

 あんまり負担をかけるのもあれだけど、この布陣なら彩香の事も少しは任せられるよね。


「さ、ここからは演者の自己紹介をお願い。そうね、まずは柊さんサイドから」

「は、はいっ!」

「彩香、深呼吸してからね?」

「う、うんっ!」


 ありゃ、折角薄まってた緊張がまた出てきたかな。

 でも、プレッシャーに慣れるのも必要なことだし!仕方ないよね!


「あ、改めまして!麻生リコ役の、柊彩香です!主演を演じるのは初めてですが、精一杯頑張ります!よろしくお願いします!」


 若干震え声だけど、それでも彩香は言い切った。

 いつの間にか、わたしが面倒を見続けなきゃいけない彩香じゃなくなってる。

 少し寂しいけどとても誇らしいから、ちゃんと拍手で盛り立てなきゃね!

 

 皆の反応も…………、愛以外は良い感じ!

 それじゃあ、次はわたしっぽいね!


「東スミ役、如月由芽です。よろしくお願いします」


 わたしは今回主演ではないし、挨拶は簡潔に。

 まばらな拍手にお礼をして、席に座りなおした。


(まゆずみ)ノエル役、鳴海愛……です」


 それだけ言って、愛は座りなおす。

 拍手の音も、愛が座ってからまばらに起きてくれた。


 もー、こういう所は相変わらずだね!?

 お芝居にしか興味ないというか、無口気味であんまり集団が得意じゃないところ!

 中学の時も、いつもわたしとかなみにしか興味なさげだったしさ!


「えっと、次はあたしかな!二階堂(にかいどう)サナ役、長崎千奈ですっ!もう23歳なので、女子高生に違和感があったらごめんね!」


 そうやって笑いながら、千奈さんは場を明るくしてくれた。

 もうって言うけど、千奈さんって滅茶苦茶感性若いし大丈夫でしょ!


 あ、真琴さんが対面でめっちゃ千奈さん睨んでる。

 ふふっ、ほんと仲いいなぁこの二人!羨ましいくらい!


「最後はわたくしですわね。西城(さいじょう)ミサ役、葉月蘭(はづきらん)と申します。何卒、宜しくお願い致しますわ」


 水色に近い髪色のゆるふわパーマを腰まで伸ばした、目鼻立ちがくっきりとした美人。

 物腰は柔らかくて、常に余裕を持った綺麗な笑み。


 うん、何度か映画やドラマで見たことがある人。

 凛ほどじゃないけど、それなりに名前の売れている役者さんだよね。

 確か、ご両親も役者の家系なんだよね。


 いつだったかの彩香とのデートでせんせの舞台を見に行った時、会釈をしたっけ。

 祥子さん、前も思ったけど人選ガチガチに固める人だよね。


「それじゃあ、次は笹森さんサイド。お願いできる?」

「はい。それじゃあ、わたしから」


 今回の舞台はダブルキャスト方式。

 つまりは、わたし達はお客さんや色んな人から比較される立ち位置になる。

 うーむ、あんまり競争みたいなことはしたくないんだけどなぁ。


「麻生リコ役、笹森(ささもり)ひなのです。私も初主演ではありますが、精一杯頑張りますので、お力添えを宜しくお願い致します」


 ぺこりと頭を下げるひなのは、彩香と違って緊張はなさそう。

 席に座りなおしても、にこやかにわたしに手を振るくらいだしね!


「東スミ役、高崎凛(たかさきりん)です。よろしくお願いします」


 んふふ、凛も最初にあった時とは全然違うなぁ♪

 表情こそ笑顔じゃないけど、凛の素で喋ってるんだなってわかっちゃう♪


「それじゃあ席順で、次はアタシかな!三宅京子(みやけきょうこ)です!二階堂サナ役だけど、ちなっちと同じで、女子高生に違和感があったらごめんね!」


 前の舞台でも一緒だった京子さん!

 キャスティング表を見て、わたしがまた共演出来て嬉しいと思った人の一人!!

 うん、今日もめっちゃ可愛い!!


「あ、あはは……。黛ノエル役、細川真琴です。高校生役は私も大変だけど、近くにいてくれる後輩たちを見て勉強するね。よろしくお願いします」


 真琴さんだって、滅茶苦茶可愛くて綺麗なのに!!

 なんて言ったらまた怖い目されそうだから、ここは拍手だけにしておこう……。

 あ、千奈さんすんごい睨まれてる……。


「最後は私ですね!西城ミサ役、朝雲依(あさぐもより)です!経験は浅いですが、精一杯頑張ります!ご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします!」


 げ、元気な人だなぁ。

 黒髪のウルフカットの似合う、どことなくわんこ系の可愛い人。

 

 聞いたことも見たこともないし、ネットで検索してもこの人だけ見つからなかったんだよねぇ。

 でもキャスティング表には劇団シラユキ所属って書いてたし、新人さんなのかな?

 彩香と同い年だし、そう言う事もあるのかな。

 

「これで全員かしらね。今回の舞台では、ダブルキャスト方式を採用しているわ。私はこの舞台で──」

「お、遅れてすみません!!」

「──はぁ。ギリギリ遅刻ね、千早。渋滞でも、皆さんを待たせた事には変わりないのよ?」

「ほ、本当に申し訳ございません!!以降このような事はないようにしますので、何卒……!!」


 ……はっ!あ、呆気にとられてた!


 祥子さん、いま千早って呼んだよね?

 ということは、この人が千早麗奈さんなんだ。


 作家さんだから、もう少しクールな人かと……。

 ううん、わたしのお母さんもお父さんもだけど、作家業でもクールな人ばかりじゃないよね!!


「騒々しくてごめんなさい。ほら、まずは自己紹介よ遅刻作家さん」

「うぐぅ……っ!は、はい……」


 祥子さん、めちゃ雑に扱うなぁ。仲がいいのかな?


 なんて考えていれば、千早さんは顔を上げた。

 重そうな黒髪に、すらっとした黒縁のメガネ。

 だけど彼女の瞳は、綺麗な青色の光を灯しているように見えた。


「初めまして!今回の舞台の脚本を務めます、千早麗奈と申します!……ええっと、遅刻した分際で厚かましいとは思うのですが」



「”ウチの子達”を、どうぞよろしくお願いします!」



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