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人殺しのわたしは、今日もわたしを演じきる       旧タイトル〖放課後、10分だけ。わたしは貴女に恋をします〗  作者: 上里あおい
第3章 両極の天才役者編

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幕間3 高崎凛は恋路を進む


「楽しくなりそうですね!!」

「ふふっ、流石は如月さんね」


 そうやって、由芽は心底嬉しそうに笑う。


 お母さんに聞かされた話は、今度の舞台の話。

 私たちが主演じゃない理由、ひなのと柊さんを支えるメリット、そして現状の客観的な実力差。

 話も無事に纏まったから、それは本当に良かった。


 最初こそ反論していた由芽だけれど、お母さんの説明を聞けば納得したみたい。

 他者を過剰に持ち上げるこの子だから、すんなり引いたのは少し意外だったけれど。

 でも、この子が納得してくれたならそれでいいか。


 綺麗な横顔に、子供みたいに高い体温。

 繋ぐ手のひらはすべすべで柔らかくて、リラックスできるいい香りが私の理性を揺らす。

 本当に、どうにかなりそうなほど可愛いわねこいつ。


「ん?どしたの凛?そんなに見られたら穴空くんだけど」

「この程度で穴は開かないわよ。貴女、この後の予定は?」

「ないよ!学校は自主休校だから、登校もしなくていいし!」

「そう。それならちょうど良かったわ。私も、この後の予定はないし」


 恐らくだけれど、ここで遊びに誘うのはとても簡単で。

 私が誘えば、きっとこの子はついてきてくれる。


 ただ、目の前にあるのは新しい舞台の台本。

 私と由芽の演じる役は同じで、2人ともある程度は読んで解釈も定まってきている。

 それになにより、由芽と芝居をするのはとても楽しいから。


「……少し、稽古に付き合って」

「~~!うんっ!!わたしもそう言おうと思ってた!!」

「もう、ふふっ……。そこまで喜ばなくても、これくらい普通でしょうに」


 私を信頼して、私と一緒にいるのが好き。

 そんな、普通の人なら照れて出力できない事を、平然としてくる由芽が可愛くてたまらない。

 純粋すぎるくらいに人を信用して、その結果人に信頼される。 


 こうして向き合って内面に触れて、改めて認識する。

 如月由芽は、魔性の女なのだと。


 まぁ、それが分かっているのに堕とされている私もまずいけれど。

 でも、仕方ないでしょう?


 きっとこれは、私にとっての初恋なんだもの。


 って、お母さんが凄くニコニコしてる……。

 久しぶりに見たわよ、あそこまでニコニコしてるお母さん……。


「それなら、稽古部屋の準備をさせておくわね♪時間は何時間でも使っていいから♪」

「しょ、祥子さん?えっと、どうしてそんなにニコニコして……?」

「気にしたら負けよ、由芽」

「ええ、気にしないで如月さん♪……そういえば2人とも、ベースの演奏はしたことあるかしら?」

「「演奏?」」


 確かに私たちの今度の役は、プロ級のベースの腕を持っているって役だけれど……。

 それはあくまで役の話で、私たちの本職は役者なのよ?


「ないわ」

「学校で、友達のギターを触ったことくらいなら?」

「そうなの。良かったらだけど、試しに触ってみる?役の研究にもなると思うし、演出の幅も広がると思うわ」

「あるんですか!?触ってみたいです!」

「……それじゃあ、私も」

「ええ。それじゃあ、少し待ってて」


 バンドものを軸にした舞台である以上、今回の舞台での主役は音楽も含まれる。

 演技の他に演奏も。だなんて無茶は言われないとは思うけれど、実際どういう演出をお母さんは考えているのかしら。


「ねえ、凛?」

「なに?ちょっと考え込んでいるから、もう少し────」

「えっと、もう手を握ってくれなくても大丈夫だよ?」

「──待って……。…………!?そ、そうよね!?」


 もう離したと思ってたのに!

 もしかして、無意識にずっと手を握っていたの私!?


「ご、ごめんなさい!その、無意識で……!」

「んふふ~、無意識で手を繋いでたかったの~?凛ってば、わたしの事好きだね~♪」

「なっ……!?ち、ちがうわよ!?」

「えへへ、両想いじゃんね!わたしの大親友♪」


 ……………………何よ、それ。


 にへらと笑って、今度はそっちから手を繋いできて。

 挙句の果てに、頬を薄っすら朱に染めて。

 両想いだね、だなんて。


「……おばか。両想いなんて、当たり前でしょう」

「知ってる!だから、改めて大好きだよって伝えてるんだよ!」

「…………本当に、ずるいわ貴女」


 きっとまだ、私の好きと貴女の好きは違う種類なのに。


 だというのに、人の心をいとも簡単に掴んで。

 由芽以外、目に入らないくらいに好きにさせて。

 いつだって、私の欲しい言葉をくれて。


「わっ……!?……凛?」

「…………少しだけ、こうさせて」

「……もう、しょうがないなぁ。凛って、やっぱり寂しがり屋だよね。わたしとおんなじ」

「貴女が悪いのよ、このおばか」


 色ボケにも程がある。

 自分のこんな姿は、あまり見たくはなかったのだけれど。


 暖かくて、いい香りがして、全力でリラックスできる由芽との抱擁。

 正直最近の疲れも相まって、このまま眠ってしまいたくなるわね。


「わたしが?」

「そうよ。人の心の中にズケズケと入り込んできて、それが悪じゃなきゃ何なのかしら」

「ん~、人間的な相性が良かったとか!」

「それはそうね。ここまで心を開けてるの、きっと貴女とひなのだけだから」


 私にとってのもう一人の大親友で、大切なライバル。

 恋愛感情こそないけれど、ひなのもまた私の大切な人。


 …………だからこそ、ひなのには私と由芽に追いついてきてもらわないと。

 お母さん曰く、純粋な演技力では私たちと2段階くらい差がついているようだし。

 以前共演した映画では、あまりそういうのは感じなかったけれど。


「次の舞台では、ちゃんと支えてあげましょう。私と由芽が主演でない以上、負担は彼女たちに行くんだもの」

「そうだね。大切な弟子と妹弟子を、沢山見ててあげないと」


 由芽という特大のジョーカーを使えたのが、《双翼》での私。

 そのジョーカーがない以上、ひなのも柊さんも純粋な強カードで戦うしかない。

 ……考えれば考えるほど、キツイ道のりね。


「ねぇ凛?」

「何?」


「わたし、凄く凛の事を信頼してるからね。これからも、末永くよろしく」


 ……………………本当に、このおばかは。


 その言い方も、その声音も。

 それは今の抱き合っている状況で、大親友に言っていい言葉なわけがないでしょうに。

 普段は頭いいのに天然でこういうことをするんだから、本当にたちが悪い。


 この子を好きな気持ちが、抑えられなくなる日も遠くないわね、これ。



「……私も、貴女を誰よりも信頼してる。だから、ずっと一緒にいてね」



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