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人殺しのわたしは、今日もわたしを演じきる       旧タイトル〖放課後、10分だけ。わたしは貴女に恋をします〗  作者: 上里あおい
第2章 《双翼》と天才役者編

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第63話 エピローグ1

「らからねぇ……!りんはせかいいひかわいふてねぇ……!」

「はいはい、飲み過ぎですよ~祥子さん。少し風に当たりましょうね~」


 そう言いながら、祥子さんを屋形船の甲板に連れて行くれいさん。

 その最中に目が合って、お茶目にウインクをされる。

 うん、わたし達の方で初めててって事かな!


「はずかしい……、はずかしい……!」

「あはは……。ほら、わたし達で始めよ凛」

「お、お母さんが、あそこまでお酒が弱かっただなんて……!」


 ちなみに皆が屋形船に揃ったついさっきまで、わたしも凛も祥子さんに褒めちぎられていた。

 それはもうベロベロに酔った勢いで、涙を流しながら。

 まだコップに注がれたビールが半分しか減ってないのにね!!


「さぁ、今回も凛から乾杯の音頭を──」

「いいえ、今日は由芽がしなさい」

「……え?な、なんで急に?そ、それに、わたしってこういうの柄じゃないんだけど……」

「貴女がどう思っていようが関係ないわ。皆さんも、そう思いますよね?」

「「「「「いえーい!!!」」」」」


 ど、どうして皆まで!?

 凛の方が、絶対にこういうの上手くできるのに!!


「おらー、頑張れよー由芽ー!」

「待ってるよー由芽ちゃーん!」


 というか、彩香とかなみまで賛成してるの!?

 うう、この打ち上げムードに、わたしの恋人たちまで吞まれちゃってる……!


 ぐぬぬ……!こ、こうなったら、少しだけ演技を──


「由芽ちゃん」

「あ、彩香?」


 しようとすれば、目の前に座っていた彩香に声を掛けられる。

 ふわりとした可愛い系の服だからかな?どうしてか、いつもよりももっと優しそうな笑顔に見えちゃう。


「今は、お芝居してほしくないな。皆、由芽ちゃんの考えた、由芽ちゃんだけの言葉が聞きたいと思うよ」


 そして、そんな事を言ってくるものだから。

 それだけで、わたしの中で歯車がカチリと嵌まってしまうから。


 本当に、彩香はずるいと思う。


「…………まずは、この二週間。全10公演の舞台、本当にお疲れさまでした」


 顔を上げれば、役者の皆や裏方の技術さん達。広報の方や、受付のスタッフの方たちまで。

 本当にたくさんの人たちが、わたしの言葉を待ってくれていた。


「たった3ヶ月の稽古期間で、ここまで舞台を大成功で終わらせられたのは、皆さんのお力添えのお陰に他なりません。一役者として、わたしは皆さんの事をとても尊敬します」


 きっとこの先、このメンバーで舞台を作る機会は訪れない。

 学校の部活動じゃないプロの世界だからこそ、それは割り切らなきゃいけないもので。


「とても、とても短い約4ヶ月。皆さんと一緒に居られたことを、わたしは生涯忘れません!」


 わたしもきっと、この打ち上げムードにあてられてるのかな。

 こんな恥ずかしい事、普段なら言わないのに。


 でも、今言わないと一生言えなくなっちゃうから。

 どれだけ言いたいことがあっても、相手に伝えられなくなる日は来てしまうから。

 だから、わたしの全部を伝えないと。



「また皆さんと一緒にお仕事のできる日を、心から願っています!!舞台《双翼》、本当にお疲れさまでした!!かんぱい!!!」


「「「「「かんぱ~い!!!」」」」」



────



「主演がどこにいるのかと思えば。もしかして船酔いしちゃった?」

「由芽ちゃん、大丈夫?」

「かなみ、彩香……。ううん、少し夜風に当たってただけ」


 打ち上げが始まって、大体1時間と少し。


 色んな人にお酒を注いだり、美味しい料理に舌鼓をうったり、今回の舞台のお話をしたり。

 そうやって過ごしていれば、少しだけ外に出たくなった。

 

 そしてどうやら、わたしの両隣に座った恋人たちはわたしを探しに来てくれたみたいで。

 そんな少し心配症で過保護な恋人たちの事、ますます好きになっちゃいそうだね。


「綺麗だなー、夜景」

「綺麗だね、夜景」

「……うん、とても」


 屋形船の中に居れば見づらかった夜景も、外へ出れば鮮明に見える。

 舞台の成功を、これからのわたし達を祝福してくれているような、そんな夜景。


 そんな風に思いを馳せていると、かなみと彩香がわたしの手を握る。

 それに驚いて2人を見れば、優しい眼差しがわたしを捉えていて。

 2人がわたしに寄り添ってくれているんだと、容易に感じ取れてしまった。


「…………本当はね、罪悪感に耐えられなくて逃げてきたの」

「罪悪感?」

「由芽ちゃん……」

「わたしなんかが、こんなに幸せでいいのかなって。……せなお姉ちゃんを殺したわたしが、みたいに思っちゃって」


 こういう思考はダメって沢山言われてるけど、それでも考えてしまう。


 どうしてわたしなんかが、こうやって芝居の世界に居続けているのか。

 どうして恋人を作って、楽しく暮らしてしまっているのか。

 どうして、せなお姉ちゃんへの贖罪の為だけに生きれていないのか。



 どうして、わたしなんかが生きているのか。



 そのどれもに心の中で踏ん切りをつけたはずなのに、それでもふとした時に考えてしまう。


 彩香とかなみに恋をしたのに。

 親友たちとライバルになろうと決めたのに。

 前を向いて生きると決めたのに。


 わたしの心は複雑で、わたしにも分からない。

 きちんと把握できていないから、自傷行為染みた事すら許容してしまう。


 そして、幸せになればなる程強く思う。



「わたし、自分が幸せになるのが許せないんだ」



 口に出せば、その考えは簡単に飲み込めてしまった。


 これが、今のわたしの心の奥底の感情。

 幸せになりたいのも、楽しく生きたいのも嘘じゃない。


 だけどそれらを簡単に殺せてしまうくらいには、わたしはわたしが大嫌いで。

 きっと1人だと、わたしはノータイムで死に場所を探し始めると思う。


「……まぁ、そんな自分も受け入れたんだけどね」


 自分の脆さに向き合って、弱さを受け入れて、弱点をさらけ出して。

 そうすれば、自分への怒りは静かになってくれた。


 決してその炎は消えたわけじゃないけど、この炎なら今のわたしでも制御出来る。

 それでも時々漏れ出すけど、ほんとに時々だけ。


 もう、1人で全部を抱え込もうとしていた時とは違うから。


「わたし、彩香とかなみに恋を出来て嬉しいよ」

「由芽……」

「由芽ちゃん……」


 握った手から伝わる2人の温もりは、いつだってわたしを支えてくれた。


 メンヘラで、希死念慮持ちで、重くて、子どもで。

 そんなわたしの手を、ちゃんと握ってくれていた。


「まったく、彩香もかなみも!…………わたしの事、どれだけ好きなのやら」

「……ふふっ、どれくらいかな♪少なくとも、私は由芽ちゃんと1秒も離れたくないけどね♪」

「そうだなぁ〜。あたしも、由芽が離れるなら監禁するくらいかな♪」


 弱くて、情けなくて、人殺しで、人でなし。

 どうしようも無い、ただの何処にでもいる小娘。


 そんなわたしを、この2人は愛してくれている。


「えっへへ!それならわたしも沢山、愛を返さないとね!……ううん、違うか」


 貰ったから返すだなんて、そんな事務的な感情なわけがない。

 わたしのこの感情は、あの世もこの世も含めて3人だけに向けられているもの。


 自分の事が大嫌いでも、この感情に誤魔化しは出来ないもんね。


「義務なんかじゃなくて。……わたしが、返したいんだ」


 どれだけ時間が経とうと、決してこの想いが薄れることのないように。

 例え地獄に落ちた後でも、この想いだけは消えないように。



「愛してるよ、彩香、かなみ。だから……、一生傍でいてね」



 本当に、わたし達の関係は目まぐるしく変化してきた。

 それも、半年に満たない短い期間で。


 でも、それもようやく地に足が着いた気がする。

 残る変化は、わたしの望む未来での1回だけだと信じよう。



 きっとわたし達なら、それで充分だと思うから。



「……ほんと、びっくりするくらい強くなったよね由芽」

「うん。……由芽ちゃんは、いつだって凄いんだよね」

「んふふっ、まぁね!大好きな人の為なら、わたしは何にだってなれるんだから!!」


 そう言って2人と腕を絡めれば、2人の温もりがより濃く伝わってきてくれる。


「ちょっ、由芽!?あ、甘えすぎじゃないのそれ!?」

「ゆ、ゆゆゆ由芽ちゃん!?あ、当たってるんだけども……っ!」

「いいの!……今は、こうしていたいんだから」


 んふふ、どっちも顔を赤くしちゃって!

 からかいがいのある、とても可愛い恋人達だなぁ!


「あれ?如月ちゃんどこ〜?」

「そういえば、葛城さんと柊さんも居ない?」

「高崎ちゃんは〜?さっきまでいたと思うんだけど~」


 なんて、からかいながら甘えていた最中。

 そんな会話が背後から聞こえて、わたし達は少しだけビクッとする。

 そしてその事に、少しだけ笑った。


「わたし、もう少し夜風に当たったら戻るから。2人とも、先に戻ってて」

「わ、分かった……。え、えへへっ!私も愛してるからね、由芽ちゃんっ!」

「はぁ〜、ほんともう!愛してるからさっさと戻ってきなよ、由芽!」


 去り際に2人から頬にキスされて、2人は先に屋形船の中へ。

 外には、わたしだけが残された。


 2人の温もりがまだ残っていて、そのお陰で心まで暖かい。

 その温もりでわたしを呪う声と頭痛も収まってくれたから、2人には感謝しかないよ。


「……本当、色々と貰い過ぎだね」


 一生を尽くしても返せないくらい、3()()の恋人達から貰ってしまって。

 来世も尽くしても、この恩を返しきれるのかな。


 あはは、参っちゃうなぁ。

 恩を返さなきゃいけないのは、他にも沢山──



「ここにいた」


 

 波風の中でも、その綺麗な声はスッと耳に入って来た。


 苛烈に思えるほどの赤い髪は、波風に揺られて普段より綺麗に見える。

 鋭い目と茶色の瞳は、まるで神話の女神様みたいで。


「凛?」

「……少しだけ付き合って、由芽」


 世代ナンバーワン女優である、高崎凛。



 暗くても分かる程に顔を真っ赤にしたわたしの大親友が、そこに居た。



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