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人殺しのわたしは、今日もわたしを演じきる       旧タイトル〖放課後、10分だけ。わたしは貴女に恋をします〗  作者: 上里あおい
第2章 《双翼》と天才役者編

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第58話 開幕

「やー、すみません。あたしまで一緒に送ってくれて」

「ふふっ、いいのよかなみちゃん。はなさんはれいちゃんの面倒を見ないといけないし、何よりかなみちゃんはうちの子も同然なんだから♪」

「……えへへ、ありがとおばさん」


 《双翼》の舞台当日の、朝9時の出来事。

 今日の17時からの舞台に向けて、わたし達の集合は12時になっている。

 もうちょっと遅く出てもいいんだけど、そこをお父さんとお母さんに無理を言って早めに家を出て貰った。

 どうしても、舞台が始まる前に行きたい場所があったから。


 後で迎えに行くよと言ったけど、かなみも付いてきてくれた。

 今はこうして道中を楽しくドライブというわけで。


「んふふ、かなみってば可愛い♪」

「おいこら由芽、その目は恥ずかしいからやめろ」

「かわいー!!」

「ちょっ……!も、もう、ほんとにさぁ……!!」


 お父さんとお母さんには、まだかなみと彩香と付き合っていることは話してない。

 おばさんに話したのは予定外だったし、周囲に話すかどうかは一旦保留中。


 隠れて付き合うのもいいけど、将来的には多分一緒に暮らすことになるし。

 重婚は無理だろうから事実婚にはなるけど、死ぬまでは一緒にいるもん。

 どこかでタイミングを見て話す、事になるのかなぁ。


「あははっ、2人は小さい頃からずっと仲がいいなぁ」

「当たり前でしょ?わたしとかなみの愛を舐めないでよね、お父さん!」

「あ、愛って……!!」

「ふふっ、由芽の事、末永くよろしくね♪」

「は、はい!」


 んふふ、かなみってば顔が真っ赤で可愛い♪

 あ、睨まれちゃった。えへへ、ちょっと揶揄いすぎたかな♪


「さ、そろそろ着くよ由芽。僕とママは車でいるけど、かなみちゃんはどうする?」

「あたしも行きますよ。由芽を1人になんかさせませんから」

「……ありがとかなみ。でも──」

「あたしは見てるだけだから。……言われなくても、そこまで野暮じゃないよ」


 そう言って、お母さんたちに見えないようにかなみが手を繋いでくれる。

 かなみの強い気持ちが伝わってくるから、それだけで心の底から安心できた。

 本当に、わたしの恋人はかっこいい。



────



 もうすっかり秋になった空気を肌で感じながら、わたしは目的の場所に着いた。

 周囲が木に囲まれているから、落ち葉の掃除が大変なんだよねここ。

 

「……おはよ、せなお姉ちゃん。数日ぶり、かな」


 しゃがんで前を向けば、そこにはせなお姉ちゃんのお墓。

 わたしが愛している、この世にはいない恋人のお墓がそこにはある。


 昨日も散々泣いたし、今は本番前。

 色々なことに想いを馳せればすぐに泣いてしまいそうだから、今日は手短に。


「今日は、これから舞台の初日なんだ。……今でも時々、人殺しのわたしが役者になっていいのか迷う時もあってね」


 無自覚であれ、わたしのお芝居はせなお姉ちゃんを殺した。

 慰められようと、否定されようと。この十字架は、生涯消えることはないと思う。


「でもね、わたしはこの十字架を背負って役者になるよ。もう、逃げ出した中学生の時のわたしじゃないから」


 両親に、かなみに、ひなのに、せんせに。

 親しい人にも、わたしの未来を見ていた人にも。

 わたしは自分の罪の重さに耐えられずに逃げ出して、本当に迷惑をかけた。


 その逃げ出した過去があるから今が充実しているけど、それはそれ。

 わたしの罪も逃走も、無くなることは決してない。


「だから、頑張って今を生きるよ。せなお姉ちゃんが傍で見ていてくれるなら、きっと大丈夫だから」


 強がりじゃない”大丈夫”は、すんなりとわたしの口から出てきてくれた。

 そんな自分を、少しだけ褒めたいと思う。


「それじゃあ、行ってきます。わたし達の舞台、楽しんでね」


 そう言って、少しだけ目を閉じる。

 そうすれば、首元のネックレスから暖かいものが流れてくるように思えるから。


「……強くなったね、由芽」


 そんな声とともに、頭に置かれる暖かい手。

 その手からも優しさや暖かさが伝わってくるから、わたしはどこまでも安心してしまう。


「それはきっと、わたしじゃなくてみんなのお陰だよ。特に、恋人の先輩とか幼馴染とかね!」

「……そっか。それで、ちゃんと話せたかー?」


 優しい顔をしたかなみの手を借りて、ゆっくりと立ち上がる。

 わたしの事を愛してくれている、とても大切で幸せにしたい幼馴染の恋人。


 本当に、大好きだなぁ。


「うん!公演の全日程が終わったらまた来るから、かなみも一緒にいてね!」

「もー、この甘えん坊め。これは、まだまだあたしと彩香先輩がいなきゃだな!」


 もう、言い訳の為の雨は必要ない。

 わたしの弱さを大切にしてくれて、この世に繋ぎとめてくれる人たちがいる事を知っているから。

 

 だから、大丈夫だよせなお姉ちゃん。

 わたし、前に進んでいくからね。





 集合時間よりかなり早めにわたしとかなみは、今日からの公演場所”新宿シラユキ座”に着いた。

 

 ぽつぽつと集まり始めた役者の皆に挨拶をして、裏方の人たちに挨拶を回って数十分。

 一通りの挨拶を終えると、かなみは祥子さんに呼ばれて舞台裏へ。

 演出家として、祥子さんはかなみの事を気にかけてくれているみたい。

 うんうん、流石はかなみ!わたしの幼馴染兼恋人!!


 それじゃあわたしも芝居の復習をしよっかな。

 なんて思いで楽屋へ向かっていると、廊下のベンチに凛が座っていた。

 台本に目を通しながら、いつもより少し険しい表情で。


「やっほ!なになに?なんだか緊張してそうだね凛!」

「由芽……。そりゃあね。私、由芽みたいに余裕があるわけじゃないから」

「むー、嫌みな言い方だなー」

「えっ?そ、そうだったの?ごめんなさい、言い方を間違えたかしら」

「まったく、とことん不器用だね凛って!」


 昨日の祥子さんと凛との、舞台についての最後の話し合い。

 わたし達の演技の出力の配分について、凛は強い意志を持って言ってくれた。


〖私と由芽の2人だけの重要な場面では、全力で演じなさい!その全力に、死ぬ気で食らいつくから!〗


 わたしが求めた、対等のライバル。

 そんな存在に、凛は全力で近づこうとしてくれて。

 

 そもそも、わたしも手加減なんてしたらあっという間に存在感を食べられて終わりそうなくらいなんだもん!

 だったら、遠慮なんてしていられない。

 わたしも全力で、レイアという役を演じ切らないと!


「不器用……、なのね。それに関しては、最近ようやく気付いたわ」

「……なんだか、凛も変わったね!祥子さんとの仲直りも出来たもんね!」

「ちょっ……!ち、近いわよ!?」

「まぁまぁ!これくらい、全然近くないって!」

「このばか由芽……!!」


 昨日の話し合いで、凛と祥子さんの距離はもう無くなっていて。

 というか、むしろ祥子さんが凛にデレデレしてたようにも思える。

 いつの間にかの出来事ではあるけど、そのお陰で凛は立ち直れたみたい。

 2人の関係の改善は、わたしの出る幕じゃなかったっぽいね!


「……ねぇ凛?わたし、凛の事大好きだからね」

「はぁっ!?」

「いっぱいいっぱい信頼してる。凛ならなんだって出来るって、誰よりも信じてるから」


 密度の高い3ヵ月間で、喧嘩をして弱いところも知られて弱いところも知って。

 わたし達は、心の底から繋がれたと信じてる。


 オールラウンダーで、どんな状況にも役にもすぐに対応できる天才役者。

 わたしに出来ない事でも、凛なら出来るって知っている。

 最高のライバルで、とても大切な大親友。


「だから、皆を支えてあげよ?わたしと凛なら、きっと楽勝だよ!」


 いつだったか否定された言葉を、凛の手を握りながら語り掛ける。

 でも、この言葉もあの時とは違う。

 そしてその言葉の裏にあるものも、凛なら気づいてくれるから。


「…………本当、貴女って傲慢だわ」

「えへへ、自覚はありますとも!」


 凛の笑いにつられて、わたしも思わず笑ってしまった。

 遠慮なんてないこの距離がとても楽しくて、嬉しくて。


「好きよ由芽。だから貴女も、私の信頼に応えなさいよね」

「勿論!凛が信じてくれるならね!」


 親友になれて、本当に良かったと感じた。





「ひっろい…………」

「座席のキャパシティは全1490席。初日はテレビも入るし、なんならこの後千秋楽までの10公演のチケットは完売!いやぁ、凄いよね!」

「ひゅえ……!」


 キラキラとした可愛い笑顔で、由芽ちゃんはうんうんと頷く。

 私としては、もう恐ろしくてたまらないんですけども!!


 やっぱり、いざ本番となったら凄く緊張してしまう……!

 誰もいない舞台に立って席を見渡すだけでこれなのに、私は本当にお芝居できるの……!?

 ていうか1490席って!!しかも10公演分が完売してるって!!


「緊張する?」

「するよ!?むしろ、どうして緊張しないの!?」


 もう公演開始まで、後たったの2時間。

 そんな状況なのに、どういうわけか由芽ちゃんはケロッとした顔で。


「んふふ、どうしてか気になる?」

「ど、どうしてか?気にはなるけど……」

「それじゃあ、お手を失礼~」

「ぴっ!?」


 わ、私の手を、由芽ちゃんの胸に!?


「だ、ダメだよ由芽ちゃん!?こんな所じゃなくて、もっとホテルの一室とか──」

「もー、テンパりすぎだよ彩香。ほら、鼓動を聞いて鼓動を」

「──の方が……って、え?鼓動?」


 色ボケに染まった思考を振り払ってみれば、私の右手に伝わるのは由芽ちゃんの鼓動。

 ドクンというその鼓動は、明らかに早いように思えて……。


「聞こえる?わたしの鼓動」

「う、うん……。でも、これ……」

「わたしは凛や真琴さん、京子さんほど知名度はない。演劇の業界にいる人なら多少はあるかもだけど、まず間違いなく無名と呼んで問題ないんだよ」


 ドラマや舞台で何度も主演を張っている真琴さん、月9でヒロインを演じた三宅さん。

 そして、舞台の顔で世代ナンバーワン女優の肩書を持つ凛ちゃん。


「そんな人達がいる中で、わたしは主演を貰った。えへへ、まぁ重責はあるよね」


 演技力や総合値がいくら上でも、確かに知名度では由芽ちゃんは負けている。

 そんな当たり前を、由芽ちゃんは自覚していたんだね。

 そしてそんな感情を、一切表に出さないようにして。


「……すごいなぁ、由芽ちゃんは」

「んふふ、ありがと♪でも、これはここだけの話!カッコいいわたしのイメージが崩れちゃうからね!」


 決して以前のような強がりじゃないのが表情で分かるから、これが本来の由芽ちゃんなんだろうなぁ。

 

 ……ダメだ私。

 そんな由芽ちゃんの想いに触れて、強さに触れて、弱さに触れて。

 目の前の年下の恋人が、愛おしくてたまらない。


「……どんどん、由芽ちゃんの事を好きになっちゃう」

「ど、どうしたの!?や、そう言われるのは嬉しいんだけど……!」

「えへへ、ありがと由芽ちゃん。少しだけ、緊張がほぐれてきたよ!」

「今の会話のどこで……」



──



「開演10分前です!」


 その合図で、私たちに緊張が走った。

 舞台裏で細かな調整や衣装直しをしていれば、その瞬間はすぐに来る。

 この大舞台で、無名で素人の私がどこまでやれるか。

 

 うー、緊張がまた戻ってきた!!

 頑張れ私~、頑張れ私~!!


「それじゃあ、皆集まってくださ~い!凛から、開演前の一言があるみたいです!」

「はぁっ!?ま、また無茶ぶりして……って、皆さんも集まるの早くありませんか!?」


 凛ちゃんはもう、最初の頃みたいな近寄りがたさは全くない。

 というか、本当に柔らかくなったなぁ。

 由芽ちゃんもそう言っていたし、この3ヶ月で色々あったのかな。


「さてさて!凛ちゃんは、このガチガチに緊張してる2人をほぐせるのかなぁ~」

「なんの事……って、顔暗いですね2人とも!?」

「す、すみません……。うち、流石にこのレベルのキャパは経験なくて……」

「初舞台です……」


 京子さんが背中を撫でてくれるも、私となつさんの顔はなお暗く。

 で、でもしょうがないと思う!私、ほんの半年前までは一般人だったんだもの!!


「大丈夫だよ、なつさん、彩香さん」

「「ま、真琴さん……!」」

「たった1500人くらいが、2人の一挙手一投足に注目するだけだから!」

「慰めになってないですよ!?」

「より怖くなりました!!」


 私となつさんを見て皆笑うけど、笑い事じゃないんですが!!

 でも、真琴さんのお陰かみんなの緊張は解れたみたいで。

 かくいう私も、少し声を出せば心が軽くなってくれた。


 そんな一幕を経て、出演者は凛ちゃんの言葉を待つ。

 そして凛ちゃんの横で、由芽ちゃんは優しい笑顔で凛ちゃんを見ていた。


「……ここに来ている初日のお客様は、関係者と観劇のプロがほとんど。役者の実力を、舞台のレベルを見抜くことに関しては、私たち役者よりも高いです」


 薄暗い舞台裏の中見えた凛ちゃんの顔は、それはそれは楽しそうで。


「ワクワクしませんか?そんな人達に、私たちの芝居をぶつけられるの」


 なんて、まるで由芽ちゃんみたいな言葉を発した。


 人に寄り添う由芽ちゃんのカリスマとは違う、先導して背中で鼓舞するカリスマ。

 やっぱり凛ちゃんは、紛れもない天才役者なんだ。


「さぁ、観客に魅せましょう!私たちの、舞台《双翼》を!!」


 その掛け声にみんなが笑って、小声でオーと同意する。

 視界の端で祥子さんが俯いているけど、きっと祥子さんも感動したのかな。


 うん、緊張もほとんどない。

 後は、自分の力を出し切るだけだよね!


「彩香、彩香。ちょっと来て」

「ひんっ!?ゆ、由芽ちゃん!?」


 もう開演まで10分を切っているのに、由芽ちゃんはそう言って私を舞台裏の人の目のないところへ。

 ていうか、ち、近いね!?

 うわ、メイクしてても顔がいいっ!!すき!!


「初舞台。ちょっとハードルは高いけど、でも、彩香なら大丈夫」

「あっ……、由芽ちゃん……」


 私の手を包み込むように、由芽ちゃんの小さな掌が添えられる。

 これはきっと、私の為のルーティーン。

 私が全力を出しても戻ってこられるようにするための、とても大切な儀式。


「もう、緊張はない?」

「……うん。もう、大丈夫」

「ふふっ、それはなにより」


 そう言いながら額を合わせて、由芽ちゃんの体温を受け取る。

 大丈夫。この熱は、きっと死んでも忘れることはないから。


「…………少しだけ、目をつむって?」

「ひゅえっ!?え、えっとぉ……、は、はいっ……」


 め、目をつむってなんて!

 というか、その声音はなんなの!?色気凄いし、魔性なの由芽ちゃんは……っ!


「んっ……」

「んぅ…………」


 そんな思考を吹き飛ばすくらいの、由芽ちゃんとのキス。


 唇が触れる程度のキスなのに、私の脳内は多幸感に浸される。

 息が心地よくて、密着した部分が熱くて。

 まるで麻薬のような、そんな時間。


 キスを終えれば、由芽ちゃんの頬は真っ赤で。

 でもそれは、私も同じなんだろうなぁ。


「彩香にはわたしが居るから、安心して潜ってきてね。わたしは、いつだって彩香の帰る場所だから」

「…………えへへ、ありがとう由芽ちゃん」


 長かったような、短かったような。

 そんな3ヶ月のキラメキは、今日から2週間で消費されていく。

 でも、繋がった縁も、努力した足跡も、決してなくなることはない。


 だから、今は、今だけは。


「行こ、彩香!」

「うん、由芽ちゃん!」



 この熱に浮かされるままに、お芝居を楽しもう。



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