第57話 きっと、親友ではいられない
「凛はね、本当に出来た子なの」
カフェラテを飲むわたしに、祥子さんは長考の末にそう語りかけた。
朝からの祥子さんの電話は、一緒に明日の舞台を見に行ってほしいという物だった。
それも、凛や彩香たちと一緒にではなく、わたしと2人で。
彩香とかなみとの時間に名残惜しさを感じながら、わたしはそのお誘いに乗った。
主演である以上、行かなきゃいけないものだと感じたしね。
でも、衣装合わせも本番通りの舞台での調整も済ませてるし。どういう目的なんだろうと、歩きながら考えた。
一つは真っ当に、わたしだけへの明日の舞台の相談。
ただ、凛にそれを話さないのは違和感があるから、これはちょっと違うと思う。
もう一つは凛の事。
昨日の最後の芝居合わせの後、凛は疲れたと言ってすぐに帰ってしまったし。
芝居の最中も少し疲れた様子があったから、何かあったのかなと思ってしまって。
でも舞台の観客席で横に座る祥子さんが話しだしたのは、わたしの想像していないものだった。
「出来た子、ですか?」
「ええ。あの子が小さい頃に私が離婚してから、家の事をよくしてくれて。毎日用意されているあの子の手作りの夕飯が、私にとっては何よりの楽しみでもあるの」
「…………それを、凛に伝えたことは?」
「えっ?伝えているわよ?毎日ありがとうと、LINEで」
「………………………………」
い、いけないいけない!思わず、口汚く罵ってしまうところだった!!
もー、本当に!この親子は、どうして変なところで致命的に間違えるかな!?
委縮して何も聞けずにいる凛も、それで伝わった気になってる祥子さんも!!
2人とも凄く賢いのに、どうしてそこまで不器用なんだろね!!
「……そんな凛がね。初めて昨日、私に弱音を吐いてきたの」
「凛が弱音!?」
いっつも勝ち気で頼りになる凛が、祥子さんに弱音だなんて。
えーっと、昨日なにがあったかなぁ?わたしが把握してる限りだと、あの凛が弱音を吐くような場面なんて……。
「”由芽に追いつけない。由芽をまた悲しませてしまう。”そう言って、泣いていたの」
「え、わたし?」
ほ、本当にどういう事?
ここ最近、凛とわたしの間で何かあったっけ?
「如月さんは、凛の事を親友だと言ってくれているわよね?」
「は、はい。凛は大親友ですよ……?」
「それじゃあ、役者の如月由芽としては?あの子の事、どう思ってる?」
役者のわたし?そんなの決まってる。
「いつだってわたしと全力で競ってくれる、大切なライバルだと思ってます」
「……そう。如月さんはそう思ってくれているって、凛にも伝わっているのね」
「祥子さん……?」
「…………昨日の如月さんと凛の、本番前最後の芝居合わせ。貴女は覚えている?」
「昨日の?それは勿論……」
最近で一番くらいでわたしは調子よかったし、凛は少し疲れていたようだけどいつも通りの演技だったし。
おかしなところなんて何も……。
「これは演出家としての私の目線。……昨日の貴女の演技は、これまでとは一段違っていた。数年前にあなたが主演をした、《銀河鉄道の夜》。その序盤の貴女を彷彿とさせる、演技力の化身のようなものだった」
そう言って、祥子さんはわたしを正面から見据える。
その誉め言葉は嬉しいはずなのに、わたしはその先の話を聞きたくない。
「あ、あはは、ありがとうございま──」
「そしてその如月さんに、凛は明確に劣っていた。それが、現時点での事実よ」
いや、だって、凛はとてもすごい役者で。
わたしなんかよりも、沢山沢山努力をしてて……。
「き、昨日はただ、調子が悪かったとか……」
「凛の昨日の芝居は、紛れもなくあの子の限界点よ」
わたしの方が演技力で優れている。
それはすなわち、W主演のこの舞台においては致命的で。
「…………凛に、合わせてほしいって相談ですか?」
「……ごめんなさい。貴女も凛も、誰も悪くなんてないのに」
【規格を超えてしまうと、人間は一緒の場所にいれないの】
いつか、凛がわたしを慰めるために言ってくれた言葉が頭に響く。
わたしは泣いてしまっていたけど、凛はあの時なんて言ってくれてたっけ。
凛は記憶力もいいから、きっとその時の事も覚えている。
もし、その考えが凛にも適用されるのだとしたら?
他の皆は歩み寄ってくれたけど、わたしと同じ立場で責任感が強い凛はきっと抱え込む。
「…………今、凛は家にいますか?」
「ええ。……でもあの子は私に似ているから、如月さんが今しようとしている事はあの子のプライドが──」
「そんなの知らない!わたしには、これっぽちも関係ない!!」
例え怒られても、例え嫌われても。
わたしは、泣いている女の子を無視なんてできない!聞かなかったことにするなんてできない!
わたしと同じで寂しがり屋の凛を、1人になんてさせない!!
「凛はわたしの親友です!わたしのライバルです!だから、わたしは凛の手を死んでも離しません!」
▽
【少し、出かけてくるわね】
そう言ってお母さんが出て行って、もうじき1時間。
今日だけは一緒に過ごすって約束だったのに、あの人は出て行った。
「…………しょうがないわよね」
一晩中泣いて目元が腫れた私といても、きっと何も楽しくないもの。
昨日の、本番前の最後の芝居合わせ。
私は調子がよくて、自分の体を思い通りに操れた。頭も冴えていて、思考は滑らか。
そんな最良の体調で、私の芝居は由芽の芝居に劣っていた。
目を奪われる綺麗な動作、滑らかに軌跡を描くような足運び。
技術では私よりも劣っていたのに、途中からはその技術すら並ばれて。
そうなれば、表出するのは元々持っていたポテンシャルの差。
如月由芽と高崎凛の間にある、残酷なほどの才能差。
「なにが、同格の役者よ」
人を惹きつけるスター性、生まれ持った視点の高低差、役者としての成長性。
私はその全てにおいて、由芽に負けていた。
あの子はこれからも成長を続けるんでしょう。
誰もが敬う高みに上って、役者という玉座にいつか手をかける。
そして、その時の私はライバルでも何でもない。
ただの、路傍の石ころ。
そんな石ころに対して、由芽はどう思うかしら。
親友だなんて、そんな関係ではいられないでしょうね。
「…………明日、は」
ここまで沈んでいれば、きっと私の芝居は最低なものになる。
3か月間も稽古をしてきて、それなりに苦難もあったけれどちゃんと纏まってくれて。
皆の士気も最高なのに、とても良い雰囲気を保てているのに。
私が、全て台無しにしてしまう。
〖しょうがないじゃん!わたしと同じで寂しがり屋の凛を、わたしは無視できないのっ!〗
思えば、ここまでこれたのは由芽がそう言ってくれたから。
私の共犯者として、親友として、ライバルとして。
いつだって、私を頼ってくれたから。
〖……凛は、わたしの大切な人だよ〗
……頑張らないと、由芽にまで泥をかけてしまう。
気持ちを分けなさい、高崎凛。
仕事である以上、私情とは切り離して行動する。それくらい、プロなら当然でしょう。
だから、せめてこの舞台の公演中だけは頑張りなさい。
そしたら、もう──
「……辞めたら、楽になれるのかしら」
「させないから」
「え?」
なんで?だって、ここは私の家の寝室で。
「……どう、して」
「どうしてもなにもないよ。凛が苦しいときは、わたしが側にいるって決めてるんだもん」
強くて優しい声音。安心させる香りと、温かい笑顔。
人を引き寄せ続ける、生来の魔性。
「なにせ、わたしは凛の親友だから!」
如月由芽が、そこにいた。
▽
祥子さんに鍵と暗証番号を聞いて、わたしは全力で走った。
改めて、一軒家とは違うタワーマンションのセキュリティの高さを思い知ったり。
ぶっちゃけ、開け方ちょっと面倒だったしね!
そんなこんなで家に入れば、凛は自室にいた。
真っ暗な中で、虚ろな目でスマホのわたしとのツーショットを見ながら。
そういう精神状態なのに、凛は泣きながらわたしの写真を見てくれている。
その事実に、少しだけ嬉しくなったのは内緒にしておこう。
「もー、真っ暗だよ凛?今日は天気いいんだから、陽の光浴びないと!」
祥子さんには手前ああ言ったけど、少しだけ緊張もある。
自分が似たような経験をしたから分かるけど、きっと今の凛はギリギリだ。
何かの弾みひとつで、致命的に壊れてしまいかねない。
目の前にいるのがわたしなぶん余計に、そのリスクは増しているはず。
だけど、リスクにはリターンがつきもの。
凛がわたしの事でこうなってしまったなら、そのわたしが出来ることもきっと多いはず。
この考え方は嫌だけど、打算も交えながらじゃないと。
「待って」
その思考を裂くように、凛の冷たい声が聞こえてくる。
知ってる。この声音は、わたし達が初めて会った時のものだ。
「なに?凛ってば、なんだか怖いよ?」
「今、由芽にいてほしくないの。私が酷いことする前に、お願いだから帰って」
……酷い事、だなんて。
心の底から優しい凛が、そんなこと出来るはずないのにね。
「いいよ」
「…………は?」
「酷い事、してもいいよ。その代わり、わたしの話も聞いてもらうから」
実際、その酷い事で凛の気が少しでも晴れるなら構わない。
今までわたしは散々凛に甘えてきたんだから、なんだって受け入れないと。
「意味、分かって言ってるの?ひ、酷い事するのよ!?きっと、由芽は傷つくのよ!?」
「身体が痛いのは嫌だけど、心が痛いのは慣れてるから。だから──」
「ふざけないでっ!!」
そうやって金切り声を上げた凛に、わたしはベッドに押し倒される。
なのに、一向にその先の暴力なんかはなくて。
思わず瞑っていた眼を開ければ、大粒の涙を凛は零していた。
「ふざけ、ないで……っ!なんで、そうやって、私を……」
ああ、やっぱり。
原因も何もかも違うけど、今の凛はあの時のわたしだ。
せなお姉ちゃんの死に耐え切れなくて、部屋で塞ぎ込んでたわたしと同じだ。
だったらもう、打算なんてしなくてもいいかな。
だってあの時のわたしを救ってくれたのは、かなみの心からの言葉だったから。
「凛が好きだから。凛がわたしにとって、大切な人だから」
「耳障りのいい言葉ばっかり……!証明なんてできないくせに!!どうせ由芽も、私に興味なんかなくなるくせに!!」
「証明……。確かに、想いを伝えるのって大変だよね」
もしわたしと凛が恋人なら、ここでキスとかするのかな。
でもわたしの恋人は彩香とかなみだし、凛は大親友。
言葉で伝わらないならって話だけど、きっと行動で示すのも難しい。
「だけど、何度だってわたしは言うよ。凛は、わたしの親友だって」
きっと思考を巡らせれば、色々と伝え方はあるのかもしれない。
でも今は、こうやって何度も想いをぶつけるのが正解だと思うから。
「好き、大好き。わたしなんかの親友になってくれた凛の事、大好きだよ」
抱きしめて、ちゃんと想いを伝え続けないと。
「……うそよ」
「むー、わたしが誰にでもこんな事言うと思ってる?それはとても心外なのですが」
「今はそうでも、きっと、いつか……!」
「そんな遠い未来の事見てても疲れちゃうよ。だからさ、今を大切にしよ?」
「いま……?」
良かった。身体の震え、少しづつ収まってきてる。
「そう。未来って、今現在の積み重ねでしょ?だから今を大切に生きれば、未来も凄くハッピーになれるよ」
「……でも、貴女とライバルでなくなった私なんて」
「何言ってるの?凛はこれからも、ずっと役者としてのライバルじゃん」
「明確に劣ってる相手にそんなこと言うなんて。貴女、随分と死体蹴りが好きみたいね」
む、こやつ離れようとしてる?
でも、まだわたしの話は終わってないし!というか、誰がそんな皮肉を言うと思うのかね!!
「そりゃ、一時的に実力差が出ることもあるでしょ。わたしだって、役者を再開してから凛とひなのには割と圧倒されてたんだし」
「そういう次元の話じゃないのよ、貴女に限っては」
ああもう、めちゃくちゃ落ち込んでるね凛ってば!
「そういう次元の話だよ!わたし、凛とならもっと先に行けると思ってるんだよ!?」
「私じゃなくても、ひなのも柊さんも他の役者も──」
「わたしは、その中に凛もいてほしいの!!」
抱きしめたまま、一回転して逆に凛を押し倒す。
改めて見れば、凛はずっと泣いていて。
そんな顔を見たからこそ、私の中の想いはせき止められなかった。
「凛が好きなの、大好きなの!!綺麗で、理性的で、面倒見がよくて!演技の幅が広くて、力強さと粘り強さがあって、その場のアドリブで新しい技術を生み出せる!そんな凛が、大好きなの!!」
わたしの立ち位置でこれを言うのは、とても卑怯なのかもしれない。
でも、言わないと。わたしの本音は、きっと最後まで伝わってくれないから。
「凛なら出来るの!!わたしが出来ないことも、わたしが出来ることも!だから、だから……っ!」
「由芽…………」
本当に、今日はずっと泣いてばかりだ。
でも、泣いたって構わないとわたしの大切な人たちは言ってくれるから。
それでも前に進むわたしを、心の底から応援してくれるから。
「わたしと、ずっとライバルでい続けて!!ずっと傍にいて!!」
ともすれば、これはとても残酷な仕打ちかもしれない。
凛の限界値が本当にあの演技なら、凛はそこで終わってしまうから。
わたしと親友ではいられないと、凛はまた悲しんでしまうから。
でも、わたしは知っている。
凛が、誰よりも遅くまで残って練習していたこと。
死に物狂いで、睡眠時間も削りながら。
だから、凛なら大丈夫。
こんな無茶苦茶な要求にも、凛は絶対に答えてくれる。
「…………もし、ダメだったら」
「わたしは絶対に大丈夫だと思ってる。でも、億が一、兆が一ダメだったら」
それはきっと、わたしの言葉の責任だから。
だから、色んな人にごめんなさいをして、彩香とかなみを世界一幸せにすることを大前提に。
「一緒に、底の底まで堕ちよう」
具体的にどうするかなんて、その時になるまで分からないけど。
でもそのくらいの覚悟は、凛と親友になった時から出来てるよ。
当の凛はといえば、その言葉に面食らったのか涙が止まってしまっていて。
かと思えば、いつからか握っていた凛の手のひらに、ゆっくりと力が込められ始めた。
「……どうして私の人生に、そこまで貴女が責任を持つの?」
「親友だからだって、何度も言ってるじゃん」
「だからって、そんなの重すぎるわよ」
「重っ……!?そ、そんなに重くはないと思うよ……?」
「……もう、本当に。これだからこのおばかは」
ポスンという音を立てて、わたしの体が凛に重なる。
正確に言えば、凛に抱きしめられたからというのが正しいんだけども。
「……怖いの。もし、自分の役者としての成長が止まったら、また貴女を1人にさせてしまう。お母さんに、見て貰えなくなってしまう」
「祥子さんは、凛が思ってる何倍も凛の事が好きだよ。それに凛はこれから成長し続けるから、わたしは絶対に1人になんてならないし」
「……そうね。由芽がそう言ってくれるなら、きっとそうなのね」
重なった胸の部分から、凛の心臓の鼓動が聞こえてくる。
ちょっと速い気がするけど、それでも正常の範囲内。
暖かくて、泣き疲れもあって少し眠くなっちゃうねこれ。
「ねぇ、由芽」
「んー?」
「……大好き、愛してる。だから貴女の傍で生きること、許してね」
「んふふ、むしろわたしからお願いするよ。ずーっと、わたしの親友でいてね」
「……………………それは、約束できないわ」
「なんでぇ!?」
そんなわたしの声を聴いて、凛がくすくすと笑いだす。
それに釣られるように、わたしも笑って。
わたし達は、少しだけの眠りについた。
▽
ベッドからそっと抜け出して、リビングで電話をかける。
嬉しい事に、電話はワンコールで繋がってくれた。
「もしもし?お母さん?」
「凛……っ。んんっ、もう、大丈夫なの?」
「ええ。私を1人にしてくれない、おばかのお陰でね」
「…………そう。本当に良い友達を持ったのね」
由芽のお陰か、電話口から聞こえるお母さんの声は嬉しそうに思えて。
だから、ずっと聞きたかったことを聞こうと思った。
「お母さんは、私の事をどう思ってるの?」
「どうって……。……ああ、そうなのね。通りで、如月さんがあんな顔を……」
「由芽?」
そこから数秒すると、電話口で深呼吸が聞こえて。
「愛しているわ。ごめんなさい、私ってとても口下手なのね」
そんな、愛おしさに塗れた声音が返ってきた。
「役者としても、貴女以上の人間はそうはいない。個人としても、娘を愛さない母親は居ないと思うわ」
「そ、そう……」
「毎日の作り置きしてくれている夕飯も、それが私の原動力になっているのよ?抱きしめたいって衝動も、貴女が私を嫌っているかもと思ったら──」
「だ、大丈夫。……うん、お母さんの気持ちは伝わったから」
自分の事を不器用だと思っていたけど、これはお母さんの遺伝でもあったのね。
そう考えれば、自分の不器用さすら愛おしい。
「私もお母さんの事が好きよ。世界で一番尊敬してる、とても強い人」
「……嬉しいわ。ありがとう、凛」
どうして、今の今になるまでここまで拗らせてきたのか。
そんな疑問を抱くほど、あっさりと私とお母さんの気持ちは通じ合った。
……ううん、あっさりじゃないか。
私とお母さんの事を考えて、あくまで自然体で繋げてくれた人がいたわね。
「今日は突発の仕事も終わったから、13時には帰るわ。如月さんもいるなら、何か買って帰りましょうか」
「ええ、お願い。由芽と2人で、お母さんが帰ってくるのを待ってる。そしたら、明日以降の舞台について話がしたいの」
「分かったわ。……楽しみにしてるわね」
「ふふっ、楽しみにしてて」
そうやって電話が切れれば、今度は私が深呼吸をしてしまう。
あれだけ由芽に言われたのに、それでも緊張していたなんて。
最近、自分の中の知らない自分をよく見つけてしまう気がする。
それもこれも、全部由芽のせいなんだけど。
「……ねぇ、聞いているの」
自室に戻れば、由芽はまだ私のベッドですやすやと寝ていた。
その可愛い顔には涙の跡があって、それが私の為に泣いてくれた後なのだと理解してしまう。
「いいわ、聞かないで。まだこの気持ちは、言語化出来そうにないから」
最初の出会いは、純粋な役者としての憧れだった。
誰よりも美しく、誰よりも正しく。
そんな由芽の芝居は、私の目標になってくれた。
この舞台で共犯者になってからは、たった3ヶ月とはいえ密度の濃い時間を過ごしてきた。
親友になって、弱さを知って、弱さを知られて。
そして、言語化できないほどの不自由な感情を、貴女に抱いてしまった。
顔は確かに可愛い。造形的には美人だけど、振りまく愛嬌が可愛いという印象に繋がる。
だからと言って、それだけでこんな気持ちは抱かない。
もっと背が高くて、もっと理知的で、何より包み込むような包容力があって。
男女問わないけど、私の理想はそんな人。
由芽は、それに全然当てはまっていない。まるで私のタイプじゃないのに。
「どうして、なのかしらね」
由芽のさらっとした髪を撫でれば、それだけで心臓の鼓動が早くなる。
わがままで、泣き虫で。寂しがり屋で、弱虫で。
でも、大切な人を失っても前を向くために頑張った、心の強い人。
仕草が可愛くて、所作が綺麗で。太陽みたいに明るくて、一緒に居れば心地よくて。
私の心の中にズケズケと入ってきて、勝手に中心に居座って。
「…………酷い事をするって、私は忠告したわよ」
いつか、由芽が言っていた恋の定義。
理屈が通じなくて、計算できなくて、制御が難しくて。
そんな不自由を、由芽は恋と呼んだ。
「だから、由芽が悪いんだからね」
人が一人入るくらいの距離感は、もう私には要らない。
この子との間に、誰も入れたくない。生まれて初めての、そんな独占欲。
穏やかに眠る由芽の頬へ、そっと触れるだけの口づけを。
起こさないように、ゆっくりと。
「…………好きよ、由芽」
理解すれば、私の認識は驚くほどに切り替わる。
その変化は戸惑いもするけど、同時にとても愛おしいものでもあって。
その激情は、私の心をいともたやすく流してしまう。
そうなのね。この激情が、この痺れるほどの愛おしさが。
「だから、ごめんなさい。……きっと、親友ではいられないわ」
私にとっての、恋なのね。




