第56話 如月由芽と彼女の母親
「んむぅ……。…………んぅえ?」
少しばかりの寝心地の悪さに、わたしの意識は覚醒してくれた。
上体を起こして……、あれ?なんか重い……。
「……ふふっ、なるほど」
わたしの上には、れいちゃんが覆いかぶさるように乗っていた。
昨日寝る前は居なかったし、夜中に起きて来てたのかな。
れいちゃんを横にそっと置こうとすれば、左にはかなみ、右には彩香がすやすやと寝息を立てている。
ううん、これは参った。よし、そーっとそーっと!
れいちゃんをわたしの寝てた位置に寝かせてっと……!
「……写真、撮ってもいいよね。恋人なんだし」
うんうん、すごく可愛い。
れいちゃんは天使だし、かなみも彩香も可愛すぎて、大変だねわたし!
抜き足差し足っと。よしよし、起こさずに部屋は出れたかな。
んー、せっかくだし何か作ろうかな?
とはいえ、冷蔵庫の中把握してないしなぁ。
それなら、コンビニにでも行って──
「おはよう由芽ちゃん♪」
「かっひゅ!?」
な、だれ!?え、あ、おばさん!?
「ご、ごめんね?まさかそこまで驚くなんて……」
「う、ううん、わたしもここまで驚くとは思ってなくて……。……おばさん、もしかして徹夜明け?」
「あはは、分かっちゃうかしら……。実はさっき帰ってきたところなの」
顔を洗っていたわたしを驚かせた正体は、かなみのお母さん。
私にとってもお母さんのような存在の、葛城はなさんだった。
少しヨロっとしたスーツと、少しばかりの目の隈。
昨日の夜23時ごろに緊急で仕事に行って、今は朝の7時過ぎだから……。
うわぁ、わたしなら絶対無理かも。すごいなぁ。
「起きてきたのは由芽ちゃんだけ?他の皆は寝ちゃってるかしら?」
「うん、わたしだけ。他の三人は……、ほら、今こんな感じ!」
「か、可愛い……!由芽ちゃん、その写真後でおばさんにも頂戴!」
「もちろん!」
「ありがとう!そんな由芽ちゃんには~、駅前のパン屋で買ってきたパンを上げちゃいます!」
「やったー!」
ここのパン屋さん、すっごく美味しいんだよね!
あ、お気にのチョコクロワッサンもある!
「……ねえ由芽ちゃん、ちょっとだけおばさんとお話しない?」
「ん?いいよ?」
「ふふっ、それじゃあちょっと待ってて。すぐにシャワー浴びてくるから」
────
「ホットココアなんて、久しぶりに飲むかもしれないわね」
「徹夜明けだから、コーヒーとかはダメかと思って」
「……流石、私の自慢の由芽ちゃんだわ」
部屋着に着替えたおばさんは、とても嬉しそうにココアを飲み始める。
そんなおばさんを見て、わたしも自分のココアを一口飲んだ。
「そういう細かな気遣いが、かなみと柊ちゃんを好きにさせたのね♪」
「ぐっふ!?」
あまりの衝撃に、思わず口からココアを吹き出しそうになった!
おばさんは相変わらずニコニコしてるしで……。
え!?かなみってば、もう話してたの!?
「か、かなみが……?」
「いいえ、かなみは由芽ちゃんと恋人になれたとだけ。柊ちゃんの事は、昨日の夜の様子からね♪」
「す、すごい……」
じゃなくって!
そ、そこまで見抜かれたのなら、わたしも覚悟を決めよう!
おばさんだからって、そこを曖昧にして逃げるなんて絶対ダメ!
将来の事を考えれば、遅かれ早かれなんだから!!
「……おばさん、わたしはかなみと彩香の事が好きです」
「うん」
「世間的には、きっとすごく悪いことかもしれません。でも、わたしは、わたし達は、3人で恋人になりました」
「……ええ」
「絶対に、絶対に、かなみの事を幸せにします。悲しい思いなんて、これっぽっちもさせません!だから、温かい目で──」
「幸せにしてあげてね、かなみの事♪」
「──見守って、くだされ、ば……?え?」
あ、あれ?今、すんなりと聞こえたおばさんの言葉って……。
「い、いいの?」
「もちろん!きっと、お父さんも反対なんてしないわよ♪」
「……えと、結構怒られるの覚悟してたんだけど」
こんなの、拍子抜けどころかダダ甘対応過ぎでは!?
なんなら、殴られることも覚悟してたのですが!?
「それは、どこの誰とも知らない子だったら怒ってたわよ?でも、相手が由芽ちゃんなんだもの。かなみが幸せなら、何も言う事はないわ?」
「ええ……?」
自分で言うのもなんだけど、このシチュエーションは怒られてしかるべきでは……?
そんなわたしの困惑をよそに、おばさんはパクパクとクロワッサンを食べ進める。
まぁ、うん。徹夜明けって、凄くお腹すくもんね……。
「由芽ちゃんがきちんと覚悟を持っているのも伝わるし、2人が好きあってるのも伝わるから。ふふっ、これで名実ともに、由芽ちゃんはうちの子ね♪」
「そ、それは嬉しいんだけどっ……!」
な、なんでわたしの方が混乱してるの!?
も、もしかしてここから下げられたり!?いや、おばさんはそんな人じゃないよ!?
「……本当に、由芽ちゃんだからなの」
「え?」
「小さい頃から見てきたから、由芽ちゃんが本当に良い子なのは分かってる。そんな由芽ちゃんが、周りと戦ってでもかなみと柊ちゃんの手を掴んだんでしょう?」
「……うん」
「それなら大丈夫よ。きっと、由芽ちゃん達は幸せになってくれるから」
そう言いながら、おばさんは手を拭いてわたしの頭を撫でてくれる。
暖かくて、ずっと小さい頃を不意に思い出して。
自然と、涙が流れてしまっていた。
「すき、なの……っ」
「ええ」
「わたしを待っててくれて、わたしを愛してるって言ってくれたから……っ!わたしが幸せにしたいって、思って……っ!」
「もちろん、由芽ちゃんも幸せになるのよ?自分を犠牲になんて、考えちゃだめだからね」
「うん……!」
情けない。彼女の親への挨拶で、自分が泣いちゃうだなんて。
この泣き虫も、頑張って直していかないと……!
「ふふっ、由芽ちゃんが可愛くて名残惜しいけど。でも、ここから先は恋人達に、ね?」
「え?」
「もう隠れなくても大丈夫よ、かなみ、柊ちゃん」
「えっ!?」
「……やっぱ、一瞬目が合ったもんね。そりゃバレてるかぁ」
「す、鋭すぎます……」
いつの間にいたのか、かなみと彩香がドアを開けて入ってくる。
茹でだこみたいに顔を真っ赤にしているのを見るに、もしかして……!
「き、きいてた!?」
「あはは、盗み聞きしちゃった……」
「ご、ごめんね由芽ちゃん!」
ううー!余計にかっこ悪いよ!!
こんな姿は、流石に見られたくなかった!!
「……かなみちゃんのお母さん、改めてご挨拶させて下さい」
「え、ええ」
「柊彩香、高校2年生です。……かなみちゃんと一緒に、由芽ちゃんを幸せにして幸せになる予定です」
「……ふふふっ♪彩香ちゃんも、由芽ちゃんと似たもの同士なのね♪」
「そ、そうでしょうか?」
「善良で誠実で。……かなみの事、よろしくね」
「は、はいっ!」
……ほんとに、ズルいな彩香。
カッコよくて、綺麗で。
わたしまで、顔が赤くなりそうなんだけど。
「ま、そういう感じ。ごめんね、言うの遅くなって」
「ううん、かなみが慎重な子なのは知ってるから。タイミングを見計らってたんでしょう?」
「……あたしは、由芽と彩香先輩と幸せになるから。だから、心配しないでね、お母さん」
「…………うん。応援してるからね、3人とも」
激励を残して、おばさんは寝室へ。
徹夜のせいで眠そうだったし、しょうがないよね。
おばさんとのそんな1幕を終えて、今は朝ごはんを3人で食べていた。
チョコクロワッサンを齧りながら、目の前で仲良く食事をする2人。
彩香のあの宣言はとてもカッコよかったし、かなみの強い眼差しには目を奪われた。
「ん?どしたの由芽?」
「というか、顔が赤いような……?」
あーもう、この2人は意外と自覚ないのかな?
わたしが流されてじゃなくて、自分の意思で彩香とかなみを選んだ事。
「……朝からドキドキさせられても、困る」
そんな事しか言えないくらいには、わたしは2人の事が大好きなのに。
「で、デレた……!由芽がツンデレた……!!」
「可愛いよ由芽ちゃん!!すごく、凄く可愛いよー!!」
「わっ、ちょっと……!?」
こ、高速頭ナデナデ!?
いきなりテンションのボルテージ上がりすぎだよ、2人とも!?
まぁでも、えへへ。こうやって撫でられるの、わたし結構好きかも──
「うっひゃあ!?」
「び、びっくりした!?」
「で、電話か?」
なんて、そんな甘い時間は長くは続かず。
ていうか、今何時だと思ってるの!?
こんな朝早くから電話だなんて……!わたしのスマホじゃん!!
「うぐぐ……!もー、一体誰が……」
ぶつぶつ言いながら画面を見れば、そこには意外な名前が表示されていて。
「……祥子さん?」
少しだけ、嫌な予感がしてしまった。




