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人殺しのわたしは、今日もわたしを演じきる       旧タイトル〖放課後、10分だけ。わたしは貴女に恋をします〗  作者: 上里あおい
第2章 《双翼》と天才役者編

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第56話 如月由芽と彼女の母親

「んむぅ……。…………んぅえ?」


 少しばかりの寝心地の悪さに、わたしの意識は覚醒してくれた。

 上体を起こして……、あれ?なんか重い……。


「……ふふっ、なるほど」


 わたしの上には、れいちゃんが覆いかぶさるように乗っていた。

 昨日寝る前は居なかったし、夜中に起きて来てたのかな。


 れいちゃんを横にそっと置こうとすれば、左にはかなみ、右には彩香がすやすやと寝息を立てている。

 ううん、これは参った。よし、そーっとそーっと!

 れいちゃんをわたしの寝てた位置に寝かせてっと……!


「……写真、撮ってもいいよね。恋人なんだし」


 うんうん、すごく可愛い。

 れいちゃんは天使だし、かなみも彩香も可愛すぎて、大変だねわたし!


 抜き足差し足っと。よしよし、起こさずに部屋は出れたかな。

 んー、せっかくだし何か作ろうかな?


 とはいえ、冷蔵庫の中把握してないしなぁ。

 それなら、コンビニにでも行って──


「おはよう由芽ちゃん♪」

「かっひゅ!?」


 な、だれ!?え、あ、おばさん!?


「ご、ごめんね?まさかそこまで驚くなんて……」

「う、ううん、わたしもここまで驚くとは思ってなくて……。……おばさん、もしかして徹夜明け?」

「あはは、分かっちゃうかしら……。実はさっき帰ってきたところなの」


 顔を洗っていたわたしを驚かせた正体は、かなみのお母さん。

 私にとってもお母さんのような存在の、葛城はなさんだった。

 

 少しヨロっとしたスーツと、少しばかりの目の隈。

 昨日の夜23時ごろに緊急で仕事に行って、今は朝の7時過ぎだから……。

 うわぁ、わたしなら絶対無理かも。すごいなぁ。


「起きてきたのは由芽ちゃんだけ?他の皆は寝ちゃってるかしら?」

「うん、わたしだけ。他の三人は……、ほら、今こんな感じ!」

「か、可愛い……!由芽ちゃん、その写真後でおばさんにも頂戴!」

「もちろん!」

「ありがとう!そんな由芽ちゃんには~、駅前のパン屋で買ってきたパンを上げちゃいます!」

「やったー!」


 ここのパン屋さん、すっごく美味しいんだよね!

 あ、お気にのチョコクロワッサンもある!


「……ねえ由芽ちゃん、ちょっとだけおばさんとお話しない?」

「ん?いいよ?」

「ふふっ、それじゃあちょっと待ってて。すぐにシャワー浴びてくるから」



────



「ホットココアなんて、久しぶりに飲むかもしれないわね」

「徹夜明けだから、コーヒーとかはダメかと思って」

「……流石、私の自慢の由芽ちゃんだわ」


 部屋着に着替えたおばさんは、とても嬉しそうにココアを飲み始める。

 そんなおばさんを見て、わたしも自分のココアを一口飲んだ。


「そういう細かな気遣いが、かなみと柊ちゃんを好きにさせたのね♪」

「ぐっふ!?」


 あまりの衝撃に、思わず口からココアを吹き出しそうになった!

 おばさんは相変わらずニコニコしてるしで……。

 え!?かなみってば、もう話してたの!?


「か、かなみが……?」

「いいえ、かなみは由芽ちゃんと恋人になれたとだけ。柊ちゃんの事は、昨日の夜の様子からね♪」

「す、すごい……」


 じゃなくって!

 そ、そこまで見抜かれたのなら、わたしも覚悟を決めよう!

 おばさんだからって、そこを曖昧にして逃げるなんて絶対ダメ!

 将来の事を考えれば、遅かれ早かれなんだから!!


「……おばさん、わたしはかなみと彩香の事が好きです」

「うん」

「世間的には、きっとすごく悪いことかもしれません。でも、わたしは、わたし達は、3人で恋人になりました」

「……ええ」

「絶対に、絶対に、かなみの事を幸せにします。悲しい思いなんて、これっぽっちもさせません!だから、温かい目で──」

「幸せにしてあげてね、かなみの事♪」

「──見守って、くだされ、ば……?え?」


 あ、あれ?今、すんなりと聞こえたおばさんの言葉って……。


「い、いいの?」

「もちろん!きっと、お父さんも反対なんてしないわよ♪」

「……えと、結構怒られるの覚悟してたんだけど」


 こんなの、拍子抜けどころかダダ甘対応過ぎでは!?

 なんなら、殴られることも覚悟してたのですが!?


「それは、どこの誰とも知らない子だったら怒ってたわよ?でも、相手が由芽ちゃんなんだもの。かなみが幸せなら、何も言う事はないわ?」

「ええ……?」


 自分で言うのもなんだけど、このシチュエーションは怒られてしかるべきでは……?


 そんなわたしの困惑をよそに、おばさんはパクパクとクロワッサンを食べ進める。

 まぁ、うん。徹夜明けって、凄くお腹すくもんね……。


「由芽ちゃんがきちんと覚悟を持っているのも伝わるし、2人が好きあってるのも伝わるから。ふふっ、これで名実ともに、由芽ちゃんはうちの子ね♪」

「そ、それは嬉しいんだけどっ……!」


 な、なんでわたしの方が混乱してるの!?

 も、もしかしてここから下げられたり!?いや、おばさんはそんな人じゃないよ!?


「……本当に、由芽ちゃんだからなの」

「え?」

「小さい頃から見てきたから、由芽ちゃんが本当に良い子なのは分かってる。そんな由芽ちゃんが、周りと戦ってでもかなみと柊ちゃんの手を掴んだんでしょう?」

「……うん」

「それなら大丈夫よ。きっと、由芽ちゃん達は幸せになってくれるから」


 そう言いながら、おばさんは手を拭いてわたしの頭を撫でてくれる。

 暖かくて、ずっと小さい頃を不意に思い出して。

 自然と、涙が流れてしまっていた。


「すき、なの……っ」

「ええ」

「わたしを待っててくれて、わたしを愛してるって言ってくれたから……っ!わたしが幸せにしたいって、思って……っ!」

「もちろん、由芽ちゃんも幸せになるのよ?自分を犠牲になんて、考えちゃだめだからね」

「うん……!」


 情けない。彼女の親への挨拶で、自分が泣いちゃうだなんて。

 この泣き虫も、頑張って直していかないと……!


「ふふっ、由芽ちゃんが可愛くて名残惜しいけど。でも、ここから先は恋人達に、ね?」

「え?」

「もう隠れなくても大丈夫よ、かなみ、柊ちゃん」

「えっ!?」

「……やっぱ、一瞬目が合ったもんね。そりゃバレてるかぁ」

「す、鋭すぎます……」


 いつの間にいたのか、かなみと彩香がドアを開けて入ってくる。

 茹でだこみたいに顔を真っ赤にしているのを見るに、もしかして……!


「き、きいてた!?」

「あはは、盗み聞きしちゃった……」

「ご、ごめんね由芽ちゃん!」


 ううー!余計にかっこ悪いよ!!

 こんな姿は、流石に見られたくなかった!!


「……かなみちゃんのお母さん、改めてご挨拶させて下さい」

「え、ええ」

「柊彩香、高校2年生です。……かなみちゃんと一緒に、由芽ちゃんを幸せにして幸せになる予定です」

「……ふふふっ♪()()()()()も、由芽ちゃんと似たもの同士なのね♪」

「そ、そうでしょうか?」

「善良で誠実で。……かなみの事、よろしくね」

「は、はいっ!」


 ……ほんとに、ズルいな彩香。

 カッコよくて、綺麗で。

 わたしまで、顔が赤くなりそうなんだけど。


「ま、そういう感じ。ごめんね、言うの遅くなって」

「ううん、かなみが慎重な子なのは知ってるから。タイミングを見計らってたんでしょう?」

「……あたしは、由芽と彩香先輩と幸せになるから。だから、心配しないでね、お母さん」

「…………うん。応援してるからね、3人とも」


 激励を残して、おばさんは寝室へ。

 徹夜のせいで眠そうだったし、しょうがないよね。


 おばさんとのそんな1幕を終えて、今は朝ごはんを3人で食べていた。

 チョコクロワッサンを齧りながら、目の前で仲良く食事をする2人。


 彩香のあの宣言はとてもカッコよかったし、かなみの強い眼差しには目を奪われた。


「ん?どしたの由芽?」

「というか、顔が赤いような……?」


 あーもう、この2人は意外と自覚ないのかな?

 わたしが流されてじゃなくて、自分の意思で彩香とかなみを選んだ事。


「……朝からドキドキさせられても、困る」


 そんな事しか言えないくらいには、わたしは2人の事が大好きなのに。


「で、デレた……!由芽がツンデレた……!!」

「可愛いよ由芽ちゃん!!すごく、凄く可愛いよー!!」

「わっ、ちょっと……!?」


 こ、高速頭ナデナデ!?

 いきなりテンションのボルテージ上がりすぎだよ、2人とも!?


 まぁでも、えへへ。こうやって撫でられるの、わたし結構好きかも──


「うっひゃあ!?」

「び、びっくりした!?」

「で、電話か?」


 なんて、そんな甘い時間は長くは続かず。

 ていうか、今何時だと思ってるの!?

 こんな朝早くから電話だなんて……!わたしのスマホじゃん!!


「うぐぐ……!もー、一体誰が……」


 ぶつぶつ言いながら画面を見れば、そこには意外な名前が表示されていて。


「……祥子さん?」



 少しだけ、嫌な予感がしてしまった。



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