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人殺しのわたしは、今日もわたしを演じきる       旧タイトル〖放課後、10分だけ。わたしは貴女に恋をします〗  作者: 上里あおい
第2章 《双翼》と天才役者編

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第53話 正三角形の恋人達

「彩香先輩が戻るまで、手握ってていい?」

「手?いいよ、はい!」


 布団を敷き終わった由芽の部屋で、いつも通りにベッドにもたれかかりながら手を繋ぐ。


 でも、あたしたちの関係はこれまでとは違う。

 想定外ではあったけど、でも由芽が選んでくれた関係。

 誠実……、誠実なのか?そこに関しては、割と突っ込まれそうな部分があるけど。


「今日は疲れた……。ここ最近、由芽に振り回されっぱなしだよ」

「ごめんね、色々と」

「…………そんなかわいい顔されると、怒るに怒れないだろ」


 そう言いながら、由芽をゆっくりと抱きしめる。

 ああ、もう!耳元で由芽の吐息が甘すぎる……!

 ただでさえ感情の昂ぶりが凄いのに、これは早めに止めないと──


「……あはは、凄いドキドキする」

「それはダメ!!!」

「なにがっ!?」


 咄嗟に、なんとか由芽の肩を掴んで距離を離す。

 あ、危なかった……!どうにか耐えられたけど、今のは本当に危なかった……!


 これが、”正式な恋人”という関係の魔力……!!


「か、かなみちゃん?」

「ごめん、ちょっと離れてて。じゃないと、あたしの理性が持たないから」

「さっきの今で何があったの……」


 こいつ、自分の顔の良さとえっちさに無頓着が過ぎる……!

 あたしも彩香先輩も、滝行でもし始めるべきかな?

 そうじゃないと、本当に由芽に人生狂わされそう……。いや、この関係になった時点でもう色々と狂わされてるか。


 改めて、目の前の幼馴染を見つめる。


 キョトンとした顔は、せなさんと付き合う前の時みたいに無防備で。

 女の子らしいすらりとした手足は、由芽が身長が低い方だというのを忘れさせるほど。

 とりわけ目立つ赤い瞳は、人外の美しさすら感じられてしまって……。


 …………そっか。あたし本当に、由芽と恋人になったのか。


 堂々とした二股宣言こそされたけど、それは確かにあたしと彩香先輩のアプローチが実った証拠。

 そして、由芽が本格的に前を向いて歩いている証拠でもある。


 それなら、何も問題なんてない。

 第一に、あたしの幸せは由芽が幸せになることなんだから。

 小さくて、弱っちい。そんな由芽が笑顔でいることが、あたしの幸せでもあるんだから。


 それに、こうなるかもって話自体は彩香先輩ともしてたしね!


「……かなみちゃんはさ、ずっと気にしてたんだよね」

「え?……ああ、うん。あれは、あたしの見苦しい嫉妬が招いたことなんだし、そりゃね」


 さっきの話し合いで吐露してしまった、あたしの醜い部分。

 彩香先輩と由芽が抱き合っていたのを見て、あたしは自室に引きこもって。


「頭のどこかで、由芽はこうすれば来てくれるって。そう、思っちゃってたんだよ」


 情けなくて醜い、子供の我儘みたいな行動。

 そんなあたしを、仮の恋人期間とはいえ彩香先輩は受け入れてくれて。

 いくら謝ったとはいえ、それだけであたしの罪は無くならない。


「……ほんと、自分が嫉妬で狂うなんて思いもしなかった」


 だからこそ、あたしは由芽の告白を辞退しようとした。

 直後の二股宣言で塗り替えられたけど、あんなの由芽にも彩香先輩にも失礼過ぎる言動だ。

 由芽の隣に相応しい人間になると決めたとはいえ、こんな現状のあたしが恋人だなんて──


「かなみちゃん」


 マイナスに沈みかけていたあたしに、由芽は一声かけて頬にキスをした。


「ゆめ……?」

「彩香はとっても優しいから、きっととっくに許してる。だからこそ、かなみちゃんも謝ることが出来ないんだよね」


 その言葉はまさにその通りで、あたしはその指摘に固まってしまう。

 そんなあたしの手を、由芽は再度握ってくれた。


「その罪悪感、わたしにも背負わせて。わたしはかなみちゃんの恋人なんだから、ね?」


 明るくて、綺麗で、朗らかで。

 あたしを射抜いたのは、由芽のその笑顔。

 誰もを寄せ付けないくらいの美を持っているのに、その愛嬌で誰もの心に入り込む。

 

 胸が高鳴って仕方がない、頬が紅潮して熱にくらくらする。

 目の前の魔性の女と恋人になるという事は、この熱を受け続けるという事。


「…………ありがとう」

「かなみちゃん顔真っ赤だよ!?もしかして熱あったりする!?」

「こ、この鈍感娘……!」


 もう、どうしようもないほどにあたしは由芽に堕とされていて。

 それならもう、責任をとってもらわないとだよね!

 あたしも彩香先輩も幸せにするって、他ならぬ本人が言ったんだし!


「折角だし、もう言いたかったこととかない?後で彩香にも聞くつもりではあるけど!」

「……はぁ、ほんとマイペースだよね」

「えへへ、親しい人にだけだよ!」

「この甘えん坊め……」


 言いたい事なんて、数えきれないくらいにはある。

 他の人と距離近すぎじゃない?とか、えっちすぎるのはあたしの理性が切れても知らないよ?とか。


「……あたしは何時まで”かなみちゃん”なの?」


 でも、あたしの口から出たのはそれだった。


「え?どういう事?」

「彩香先輩の事は”彩香”って呼ぶでしょ?なら、あたしも変えてくれてもいいと思うんだけど、呼び方……」

「呼び方……。確かに、幼稚園の頃から変わらないね……?」


 せっかく、せっかく恋人になれたわけだし?

 意識改革的な意味も込めて、呼び方を変えてみても、なんて。


 ……あたし、もしかして中学生みたいな思考してる?

 流石にちょっと幼過ぎたか?


「あー、ごめん。さっきのは──」



「……大好きだよ、()()()


 

 触れるだけの、いつも通りの軽いキス。

 だというのに、思考の全てが如月由芽に塗り替えられてしまった。


「お待たせー!お風呂頂きまし……、あれ?」

「お帰りなさい彩香!」

「う、うん。えっと、かなみちゃんはどうして蹲ってるの?」

「えーっと、ただ名前の呼び方を呼び捨てに変えただけなんですけど」

「お風呂行ってきます!!」


 自分のパジャマを抱えて、爆速で部屋を飛び出る。

 そうして部屋を出れば、ようやく茹りきった思考が戻ってくれて。


「……ほんと、好きすぎる」


 それでも、あたしが発せた言葉はそれだけだった。





 こ、これが由芽ちゃんの部屋……!

 私の部屋と比べてもシンプルなのに、どういうわけか甘い匂いがする……!


 やばいなぁこれ……!心臓が跳ねすぎて、もう何が何だか分からない!

 そわそわし過ぎて、まともに由芽ちゃんと目を合わせられな……。


「……あ、この写真」

「…………はい。わたしと、せなお姉ちゃんの付き合っていた頃の物です」


 そう言いながら、由芽ちゃんは愛おしそうに写真を撫でる。

 その写真の前にある箱は、埃1つないネックレスの箱。


 由芽ちゃんの、大切な思い出の品。


「もー、彩香ってばなんで泣きそうなんですか」

「へ!?そ、そんな顔しちゃってたかな!?」

「はい。……本当に、優しいんですから」


 そう言って、由芽ちゃんは私に抱きついてくる。


 由芽ちゃんが持つ甘くてリラックス出来る香りで、私が包まれるような感覚。

 華奢で小さな由芽ちゃんの、確かにある存在感が心地いい。


「妥協なんかで、わたしは恋をしませんよ」

「っ!……うん、そうだね。由芽ちゃんは、本当に凄いなぁ」


 せなさんとの想い出を胸に、由芽ちゃんは前に進む。

 そして、その道の途中で私達は結ばれた。



 そう。私と由芽ちゃんは、正式に恋人になった。



 それがついさっきの出来事で、実はあまり実感が湧いていなかったり。

 あの大胆な二股宣言もあって少々混乱してしまったけど、それでも由芽ちゃんと恋人になったのは変わらない。


「む?さっきも言った通り、わたしは弱っちいですよ?」

「あはは、そうだね。由芽ちゃんは、弱っちくなれたんだもんね」


 ハグを辞めて由芽ちゃんを正面から見て、その顔の良さに改めて惚れそうになる。


 あ、別に私が由芽ちゃんの顔だけが好きというわけではなくて!!

 いや、由芽ちゃんの顔は大好きなんだけども!!


「彩香?どうかしましたか?」

「い、いやぁ……!由芽ちゃんが可愛くって、顔見れない……」

「ふふっ、なんですかそれ」


 具体的に、どこが変わったという訳でもなくて。

 強いて言うなら、とてもすっきりとしてる?


 自分の弱い部分を受け入れるのって、結構勇気がいると思うのに。

 それを考えれば、きっと由芽ちゃんは、弱くなって強くなったんだろうな。


「……でも、それならむしろ沢山見てください」

「ひょえっ!?」


 な、なにごと!?

 由芽ちゃんがわたしの両頬に手を添えてっ……!?


「これから先、沢山一緒に居るんですから。見慣れて貰わないと困ります!」

「あ、あばばばばば!?」


 か、可愛すぎる!?

 何その理由!?甘えたな恋人由芽ちゃんって、ここまで火力上がるの!?


 や、やばい!

 さっき、かなみちゃんが蹲ってた理由が今分かった!!

 かなみちゃんも、この火力でダウンさせられたんだ!!


「……いや、ですか?」

「嫌ではないよっ!?」


 い、いけないいけない!

 頑張れ私!由芽ちゃんは恋人、由芽ちゃんは恋人!!


 由芽ちゃんは、考えつくして私とかなみちゃんを()()()()()()んだよ!!

 そんな由芽ちゃんに、悲しい想いなんてさせないっ!


「わ、わた、わたしはっ……!」

「……あははっ、冗談です!」

「はえっ!?」


 い、今、私の頬にキスした!?

 由芽ちゃんとは何回もキスをしてるのに、頬にキスだけでこんなの……!


「こうやって、いっぱいスキンシップをとりましょう!ゆっくり、わたし達のペースで慣れてください!」

「ひゃ、ひゃい……」


 あ〜、もう可愛すぎるし美しすぎる……。

 何その笑顔?反則にも限度があるんだよ??

 このまま溶かされ続けたら、私スライムとかになっちゃうよ??


「……というわけで、少し甘えてもいいですか?」

「え!?」


 そのあまりにも強烈な言葉に固まっていれば、由芽ちゃんは私の肩に頭を置く。

 だ、大丈夫かな?由芽ちゃんに、私の心音聞こえてないかな!?


「……振られても仕方ないって、思ってたんです」

「え……?」

「こんな不義理な選択をして、2人を困らせてしまって。……本当に、ごめんなさい。一途な関係を築けなくて、ごめんなさい」


 私と繋いだ由芽ちゃんの手は震えていて。まるで迷子の子供みたいだ、なんて。

 だから、その震えが少しでも収まるように力を入れた。


「確かに、由芽ちゃんの選択は世間一般では悪だと思う。事実、私もかなみちゃんも一瞬固まったから」

「……はい」

「でもね、同時に嬉しかった。由芽ちゃんが、私もかなみちゃんも選んでくれて」


 決して、消去法や脳死で選んだ答えじゃない。

 由芽ちゃんは悩んで考えて、私達を幸せにする道を選んでくれた。


 その道はとても険しくて、周りからは賞賛を得られ辛い道。

 大変で、辛くて、未来を具体的に思い描くのが難しい道。

 だって、由芽ちゃんの負担は私達2人分だから。


 それでも──


「私もかなみちゃんも、由芽ちゃんの事が大好き過ぎるから。きっと、選ばれなかったらどん底だったよ?」

「大げさですよ。わたしは、ただの一般人なのに」

「むー、由芽ちゃんはやっぱり鈍感だね?そこら辺は、ゆっくりでも正していかないとかな!」


 きっとこの鈍感さは、由芽ちゃんの自己肯定感の低さからくるもの。

 過去に沢山のトラウマを持っているからこそ、由芽ちゃんは自分を過小評価してしまう。


「恋人なんだから、私達。由芽ちゃんに幸せにして貰うだけじゃなくて、由芽ちゃんの事を幸せにしたいんだよ?」


 そんな彼女に、私達はこれからも愛を与え続ける。

 そうしていつか、3人で幸せになる為に。


「好きだよ由芽ちゃん。世界で一番、愛しています」


 きっとこれから先、何度も言う事になる言葉。

 でも何度言っても、その言葉の重さは変わらない。

 何の根拠もないけど、そう思えてしまう。


「…………彩香って、やっぱり年上だよね」

「ど、どういう事?」


 もしかして、おばさんっぽかったりした!?

 そんな変な事言ってないつもり──


「ん……」

「──!?」


 これ、キス……!

 由芽ちゃんから、私に……!!


「……はぁ」

「ゆ、ゆめちゃん!?」

「これから先、何度も何度も。わたしは弱いから、こうやって彩香にもたれかかると思う」


 顔を離して見えた由芽ちゃんの表情。

 とても綺麗で、可愛くて、魔性の色気を持っていて。

 そんな、私の初恋の女の子の顔……。


「わたし、彩香を好きになれて良かった。彩香と出会えて良かった」

「う、ん……」



「ちゃんと傍で見ててね。絶対に、彩香に相応しい恋人になるから」



 そんな、そんなの、むしろ私がそうならなきゃ。

 役者として、恋人として、私の方が不足してるんだから。

 なのに、こんな、嬉しすぎる言葉……。

 ていうかタメ口……!私の仮の恋人時代のお願いを、ちゃんと覚えててくれて……!


「た、ただいまー!由芽ー、お風呂空いた……、よ?」

「あ、おかえりかなみ!」

「つぅ……っ!!……た、ただいま由芽。えっと、なんで彩香先輩が蹲ってるの?」

「えっと、わたしの決意を言っただけなんだけど……」

「ゆ、由芽ちゃん!お風呂!さぁ!!」

「は、はい……。それじゃあ、行ってきますね……?」


 由芽ちゃんが困惑しながら部屋を出て行っても、私は相変わらず蹲ったままで。

 そんな私の肩に手が置かれて、ゆっくりとその手の主を見上げる。


 そこには、とてもいい笑顔なかなみちゃんがいた。



「お互い、由芽には負けっぱなしですね!」

「うわぁぁん!!」



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