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放課後、10分だけ。わたしは貴女に恋をします  作者: 上里あおい
第2章 《双翼》と天才役者編
28/62

第28話 笹森ひなのは、如月由芽の大親友である

名前:笹森ひなの 

年齢:15歳/高校一年生

誕生日:10月23日

髪の毛:黒色のロングヘア  瞳の色:黒

外見の特徴:身長約160㎝、体重49㎏

3サイズ:B82/W57/H80

家族構成:今は、企業勤めの父と企業勤めの母、そして本人の3人家族。故人に姉を持つ

好きな食べ物:プリン、紅茶 嫌いな食べ物:特になし

好きなもの:演技、お姉ちゃん、ゆーちゃん 嫌いなもの:トラック

趣味:猫の動画で癒されること


「えっと、確かここのはず……」


 舞台の稽古終わり。わたしはかなみちゃんと彩香に断りを入れて、渋谷のカフェに来ていた。時間はもうすぐ19時になろうといている。

 何故ここに来ているかというと、今の舞台の相談をしたくて来たわけだけど……。

 その相談相手が、どこに座ってるのかな──


「やっほ!久しぶりですねゆーちゃん♪」

「わっ!?……もー、背後から驚かすの禁止だって言ってるじゃん」

「えへへ、ゆーちゃんの可愛い背中が見えたもので♪ゆーちゃんは、ここだとカフェオレでしたよね」

「おお、よく覚えてるね!うん、ありがとひなの」


 背後から声をかけて驚かせてきたのは、わたしの姉妹弟子のひなのだった。

 相談相手だからいるのは知っていたけど、いきなり背後から来るとは……。

 

 そうして合流出来たところで、わたしとひなのはテラス席に座った。もうじきテラス席に座りたくなくなる季節だし、せっかくだしね。

 そしてひなのにカフェオレとひなのの飲物分のお金を渡せば、これでとりあえずよし。

 近くで仕事をしていたひなのを呼んだのはわたしだし、これくらいはね。


 そうして本題の、現状の舞台の稽古でのわたしの立ち位置と客観的な事実を話す。

 そうすれば、何故かひなのはにこにこと笑顔になる。


「どしたの?」

「いいえ。ゆーちゃんが、本当に役者をしているんだなって。改めて、嬉しくなっちゃったんです♪」

「あはは、なぁにそれ」


 わたしこそ、ひなののその笑顔に助けられてる。

 せなお姉ちゃんが死んでから、ひなのは何時だってわたしに笑顔で接してくれてる。

 こうして呼んだら相談だって受けてくれるし、本当にありがたい。


 同じ役者として、こんな風に芝居の事で相談できるのはひなのくらいだし。


「さて、凛ちゃんでしたよね。私も映画で共演したから、人となりは何となくは知ってますけど……」

「ひなのもこんな感じで絡まれた?」

「いいえ、そんな事ないですよ?周りをよく見る、礼儀正しい方でしたし」


 なるほどなるほど。

 となれば、ひなのと共演した時と違うのは、実母が演出家の舞台であることと、わたしがいること。

 この二つの要因が、今わたしに突っかかっている現状に繋がってるのかな?


「ゆーちゃんのスタンスは、なるべく足並みを揃えたい。凛ちゃんのスタンスは、恐らく舞台上でゆーちゃんより上だと証明したい。そういう事ですか?」

「た、多分それでいいと思う。だからどうにか、あんな他者を煽るような芝居は辞めさせたいんだけど……」

「……ゆーちゃんがそのスタンスで居たいのは、お姉ちゃんの事を引きずっているからですか?」


 その言葉に釣られて、カフェオレからひなのの顔に視線を移す。

 ひなのの顔は緊張した面持ちで、それでも微笑みを意識している様で。


「知ってる、か。そりゃそうだよね」


 せなお姉ちゃんの死の原因は、あの日記にしか書かれていなかった。

 直接の原因は交通事故だとしても、その遠因はわたし。わたしの今のスタンスとせなお姉ちゃんの死の原因は、どう考えても繋がらない。

 繋がるって事は、あの日記をひなのも見たという事。


 せなお姉ちゃんの死は、わたしが原因だと知っているという事。


「………ぁ、ぇっと」


 言わなきゃいけない。わたしが、せなお姉ちゃんを追い詰めたのだと。

 前を向いて生きると決めた以上、これはいつか来るはずの清算だ。

 ひなのからの罵倒くらい、刃物沙汰くらい。とうに覚悟をしてたでしょ。


 心臓が痛い。頭痛もガンガン鳴り響いて、息が上手く吸えな──


「もー、ゆーちゃん!」

「ひゃっ!?」


 わたしの頬を、ひなのが正面から挟んできた。


「落ち着いてください。私は、ゆーちゃんの事を責めてなんかいません!あれは事故です!だから、ゆーちゃんが苦しそうにしないでください!」


 優しくて、強い言葉。

 まるで、せなお姉ちゃんみたいな。わたしを、安心させてくれる言葉。

 ひなのの言葉で、息が吸えるようになる。さっきまでの酷い頭痛も、段々収まってきてくれた。


「……あはは、凄いねひなの。いつの間に、こんなに強くなったの?」

「ええ!?私は最初から強いですよ?なにせ、私の姉弟子たちは見ていてハラハラしますから。私がしっかりしてないと、華香せんせいも心配でしょうし!」


 そうして、ひなのは椅子をわたしの横に移動させてくる。

 そこに座って、乗り出すようにわたしを抱きしめてくれた。


「ゆーちゃんは悪くありません。もしお姉ちゃんの事でゆーちゃんを責める人がいるなら、私がゆーちゃんを守るって決めてるんです」


 ずっと、ついこの前まで妹みたいな存在だと思ってたのに。

 とっくにひなのは、わたしより強い人間になってたんだ。


「……ごめん、なさい。わたし、ひなのに酷い事ばっかり」

「私だって、今までゆーちゃんに甘えてばかりでしたから。これでお相子です」


 そう言うひなのの顔は、せなお姉ちゃんの面影を強く感じて。

 でも、せなお姉ちゃんとは違う。

 大切で、誰よりも強い、わたしの親友がそこには居た。


「私もそうでしたけど、皆ゆーちゃんに期待しすぎてます。ゆーちゃんの本当の姿は、甘えたで誘い受け気質なただの女の子なんですから♪」

「なっ……!?せ、せなお姉ちゃんの日記にそんな事も書いてたの!?」

「可愛いゆーちゃんの姿が、それはもう沢山♪」


 せ、せなお姉ちゃん!!わたしが見た時、そんなの書いてたっけ!?


「私は、お姉ちゃんとは違います。ゆーちゃんは少なくとも役者として対等だと思ってくれてるから、私に相談してきてくれてるんでしょう?」


 それに関しては違う。


 ひなのは、役者としては絶対に私より格上だ。

 昔は妹分としてまだまだだななんて思ってた時もあったけど、先日芝居合わせをして分かった。ひなのはとっくに、役者としてはわたしより上だと確信できる。

 凛さんやせなお姉ちゃん、彩香と違って特筆すべき才能はない。

 ひなのは努力で天才を越えている。それくらい、ひなのは演技が上手なんだ。


「……それくらい言わなくても分かるじゃん、いじわる」


 でも、それを口に出すのはなんだか恥ずかしくて。

 だから、ひなのに抱き着いて甘えることしかできなかった。


「んふふ……♪私の大親友がこんなにも可愛い♪」


―――


「こほん、それでは話を戻しましょうか」

「うん」


 一つだけわたしの中のもやもやが消えたところで、再び話を舞台の事に戻した。

 相変わらず、ひなのはわたしの横でコーヒーを飲んでいるけど。

 

 なんだかまた昔の関係に戻れたみたいで、わたしとしては非常に嬉しいけどね。


「ゆーちゃんの危惧している事は、凛ちゃんとゆーちゃんの演技に皆が付いていけなくなる事ですよね?」

「その通り」

「私は座長経験がないので分からないんですけど、それって駄目な事ですか?」


 キョトンとした顔で、ひなのはわたしにそう告げる。


「うーん、個人的には駄目だと思う。誇張した言い方になるけど、例えば初心者と上級者がペアでスポーツをするでしょ?それで上級者の方が我が道を行けば、初心者が感じるのはほとんどが劣等感と罪悪感。どうしても、モチベ―チョンは下がっていく」


 その二つの感情によって、間違いなく舞台は空中分解する。

 どうあがいても、良い結末にはならない。


「座長だったら、危惧するのは舞台の成功と他の役者の精神状態。その二つをどうにかしたいなら、まずはわたしと凛さんで一緒の方向を向かなきゃいけない。んだけどね……」


 現状では何故か、凛さんはわたしを敵視しているように感じる。

 その原因さえ分かれば、なんとかなる気はしてるんだけどなぁ。


 ひなのを見れば、難しい顔でうんうんと唸っていた。

 わたしの持論を吟味してくれているのだろうか。なんだか恥ずかしいけど、そうやって真剣に相談に乗ってくれている姿は頼もしい。

 まるで、中学生の頃のせなお姉ちゃんみたい。


「……ゆーちゃんって、やっぱり昔と変わりましたよね?」


 ひなののその発言に、自分の中に疑問符が浮かんだ。

 わたしのスタンスは確かに多少過保護になったけど、そこまで変わった気がしないんだけどなぁ。


「そうかな」

「はい。小学生の時は、どちらかといえば凛ちゃんに近かったような……」

「わたしが凛さんに?」

「自分より上手い役者を見れば興味を持って、すごーく悪い顔をして。なんだか、バトル漫画のキャラクターみたいな」


 もう小学生の頃の考えなんてほとんど覚えてないけど、ひなのからはそう見えてたんだ。

 でもそれ、結構悪口じゃない?

 初めて言われたよ?バトル漫画のキャラクターだなんて!


「ゆーちゃんのそのスタンス、ゆーちゃんは窮屈じゃないですか?自分の芝居を出来ないのって、私だったらかなり辛いですし」

「わたしはどうでもいいんだよ。せなお姉ちゃんを苦しめたわたしなんか──」

「ゆーちゃん?」

「………そだね、ごめん」


 ダメだ、そんな事言いたいわけじゃないんだ。

 そんな失言をしてしまったわたしの手をひなのは握る。そしてひなのと目が合えば、わたしの大親友は優しい顔でわたしを見ていた。

 その行動に、自分の頬が少しだけ顔が赤くなるのが分かった。


「とにかく、わたしの事は後回しで。どうすれば舞台が上手く回るのか、それを一緒に考えて欲しいの!」


 若干ぶっきらぼうに、ひなのから顔を背けながら結論を言った。


「うふふ、一緒にですね♪」


 ぐぬぬ……!若干ひなのの声が弾んでるのが悔しいけど、わたしは相談する側なんだし……!

 でも遠回りしまくって、最初の会話に戻ってきたかな!


「もし私がゆーちゃんと同じ立場なら、凛ちゃんにガッといきます!だって、わだかまりがあるままだとその方向性すら話せないじゃないですか?」

「あ、あはは……。ひなの、結構ストレートに行くもんね」


 とはいえ、わたしも二人きりで話そうとタイミングを見計らっていた。


「でも凛さん、他の仕事で稽古に来れないことが多いからなぁ。中々タイミングないんだよね、流石世代ナンバーワン女優……」

「ああ、なるほど。それでしたら、凛ちゃん来週からは本格的に《双翼》の稽古に集中するらしいですよ?」

「え、そうなの?」

「はい。昨日、メッセージでそう言っていました」


 そう言って、ひなのはメッセージアプリの履歴をわたしに見せてくれた。

 というか、ひなのと凛さんってそこまで仲良かったんだ?共演したの一回だけだよね?


「わ、わかった、ありがとひなの。それじゃあ、勝負は今週中かぁ」

「今週中、ですか?」

「凛さんが本格的に稽古をし始めるのは来週でしょ?だから、それまでにちゃんと話しておきたくて」


 嫌がられるかもしれないけど、そこはちゃんと謝って許してもらおう!

 今回の舞台はかなり規模も大きいし、そこは目を瞑ってもらおう。

 な、なるべく迷惑にならないようにはするけども……。


「ふふっ、そういう行動の早いところはゆーちゃんの美徳ですね」

「そうかな。……まぁ、頑張ってみるよ。久々の座長だし、今回は彩香も一緒だし。彩香の前では、演技の師匠としてカッコつけたいから!」


 そう、彩香にとってわたしは演技の師匠だから。

 あの日わたしを見つけてくれた彩香は、わたしの恩人で大切な人でもあるから。

 そう、ただそれだけ。だから、大丈夫。


「そうですか。それじゃあ私も、陰ながら応援してますよ♪」

「……なんで、陰ながらとかいうの?」

「え?」


 それはそれじゃないかな?

 せっかくまた、こうやって沢山話して相談も出来る仲に戻れたのに。

 わたしとしては、いっぱい話したい事があるんだよ?


 今度はわたしの方からひなのの手を握って、恥ずかしい事を言う覚悟を決める。

 恥ずかしいところなんて沢山見られてるんだし、これくらい甘えてもいいよね。


「出来れば、ひなのが迷惑にならないくらいの頻度で会いたい。わたし、電話より会って話すのが好きだから。だから……、またこうやって相談していい?」


 甘えたがりと言われて、確かにそうだと自覚した。実際、せなお姉ちゃんには甘え倒してしまっていた自覚もあるし。

 けど、こんなの他の人には絶対見せないもん。

 他の人の前では頼れる如月由芽でありたいし、ひなのは甘えたなわたしを知ってくれているから。

 だから、こんなわたしの一面を見せるのはひなのにだけだから!


 ……あれ?ひなのが固まってる?


「おーい、ひなの~?え、もしかして嫌だった?」

「い、嫌じゃないです!……こ、これは強烈ですね。一瞬、意識が飛んでました」


 い、嫌ではないみたいでよかった……。

 とはいえ、なんかひなのが変?顔真っ赤だし、さっきまでの強さがどっか行っちゃってるし……。

 もしかして、照れてる?


「え、なんで照れてるの?どしたのひなの?」

「くぅぅぅう!て、照れてなんかないです!そんな事言われたら、大親友の壁が壊れちゃうんですからね!ゆーちゃんは、もっと自分の可愛さを自覚してください!どれくらいの頻度で会いますか!?週7くらいにしますか!?」

「家だって遠いし、そこまで無茶しなくていいよ!?」


 け、結構な剣幕で怒られちゃった……。

 でもそんなひなのがなんだか可愛くて、安心できて、思い切り抱き着いた。


 せなお姉ちゃんは、どこかから見てくれてるかな。

 文句も謝罪も、言いたい事は沢山あるけど。

 でも、ひなのの事は任せてね。せなお姉ちゃんの大切な妹は、わたしが守るから。そして、きっとわたしもひなのに守られるから。


 いつか2人で、せなお姉ちゃんと同じくらい凄くなるから。

 だから、安心してね。


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