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放課後、10分だけ。わたしは貴女に恋をします  作者: 上里あおい
第2章 《双翼》と天才役者編
25/60

第25話 如月由芽と高崎凛

お久々のキャラクタープロフィールです!


名前:高崎凛

年齢:16歳/高校一年生

誕生日:4月27日

髪の毛:赤みがかった色、ワンサイドアップ  瞳の色:茶

外見の特徴:身長約157㎝、体重49㎏

3サイズ:B77/W55/H78

家族構成:演出家の母と本人の2人家族 家ではほぼ1人

好きな食べ物:お母さんの肉じゃが、辛い物全般 嫌いな食べ物:甘いもの全般

好きなもの:演技、お母さん 嫌いなもの:如月由芽

趣味:演技の研究、料理


「先ほどはすみませんでした!あんな試すような、失礼な真似をしてしまって!」

「い、いえいえ、私は大丈夫ですから!」


 顔合わせも兼ねた主要組の歓談中に、美綴さんが頭を下げてきてくれた。

 

 由芽ちゃんに無茶ぶりをされたエチュードではあったけど、私は自分の力量を由芽ちゃんとひなのちゃん以外で試すことが出来たわけだし。

 自分の力量を知ることも成長だって、天城先生も言ってたしね!


「でも、2人とも良かったよ~!アタシも、もっと頑張らなきゃって思ったし!」

「そうだよ~。私聞いたわよ、柊ちゃんってお芝居本格的に初めて2ヶ月なんでしょう?」

「に、二カ月!?」


 そんな私たちの周辺に、三宅さんと細川さんがわらわらと集まってくる。

 おふたりともとても気さくな方で、わたしにも朗らかに接してくれる。


「そ、そんな、二カ月……?う、うちなんてもう7年も……」

「あれ?美綴さん、自分の事うちって?」

「あっ……。あ、あはは、すいません。上京してきて半年なんですけど、地元の言葉が抜けんで……。うち、大阪出身なんです」

「えー!?いいじゃんそのままで!標準語より全然いいって!」


 なるほど、あれが血気盛んな大阪の血……!

 じゃないだろうけど、美綴さんがどういう気持ちでここにいるか分かった。

 大阪出身で、200人のオーディションを勝ち抜いてここにいる。

 だからこそ、演技と自分の事に必死なんだ。さっきも三宅さんにお芝居の事を聞きに行ってたし、それだけ真摯に取り組んでいるんだ。


 これが、プロの世界。

 今でこそ私が演技で上だとしても、貪欲に色んなことを吸収していかないとすぐに埋もれて行ってしまう。

 私も由芽ちゃんの後ろで居ないで、もっと色んなものに突っ込んでいかないと……!


「そ、それより柊さん!2ヶ月で、どのような稽古をしてきたんでしょうか?やはり、天城先生のご指導で?」

「えっと、実は天城先生に見てもらい始めたのは最近で……。さっきも多分言ってたと思うんですけど、主には由芽ちゃんが練習メニューを考えてくれてました!」

「如月さんが、ですか?」


 美綴さんは、そうやって素っ頓狂な声をあげる。

 メモをしようとした手を止めて、不思議そうに質問を続けた。


「うち、如月さんの事を良く知らなくて……。キャスティング表を見るに1つ年下の方なんだと思うんですけど、何か実績とかあるんでしょうか?」

「実績、とかはないんですけど……」


 うーん、どういえばいいんだろう……!

 由芽ちゃんの演技の動画はまだあるとは思うけど、実績となると難しいかも。

 中学1年生の頃の天城先生の舞台以来、中学校主催の舞台にしか出れてないんだっけ。となれば、実績となると……。


「そうね、一言でいえば天才かな」


 私がうんうん唸っていると、横から細川さんがそう補足してくれた。その細川さんに同意するように、三宅さんも頷く。


「天才……。でも、この業界にはそう呼ばれる人は沢山……」

「ちゃんとした舞台に立ったのは、中学1年生の時の一回だけ。私もその舞台で共演したきりだけど、私はその舞台の彼女を見て役者を辞めようと思ったわ」

「え?」


 中学1年生の、銀河鉄道の夜の舞台。

 由芽ちゃんが全力で演技をしたたった一度の舞台で、その才能が沢山の人間に知られるきっかけになった公演。

 その舞台に、細川さんは立っていたんだ。


「由芽さんは、本物の天才。私も、天才と持て囃されて生きてきた。それでもあの舞台で由芽さんを前にして、はっきり分かったの。彼女こそ、天に選ばれた才能の持ち主なんだって」


 ただ芝居をするだけで、共演した役者の心を折ってしまう。

 由芽ちゃんの無邪気で反則的な芝居は、それほどの力を持ってしまっている。


「そんな、細川さんがそこまで……」

「だから、頑張ってね美綴ちゃん。由芽さんと一番共演するシーンが長いの、多分貴女だから」


 憂いを持った瞳で、細川さんはそう告げた。

 それはまるで、過去の自分に言い聞かせるような言い方で。

 

「……まーまー、それも含めてアタシと頑張ろ、美綴ちゃん!」


 そんな暗くなりかけていた空気を緩和するように、三宅さんが私たちを包むように抱き着いてくる。

 それだけで、さっきまでの空気は霧散した。

 凄い……。三宅さんは、こういう能力を持ってるんだ。潤滑油というか、バランサーというか。


「あれ、そういえば当の如月ちゃんは?」

「え?ほ、本当だ……」


 気づけば、由芽ちゃんがどこにもいない。

 さっきまで近くでお茶を飲んでたはずなのに、いつの間に……。


「如月さんなら、凛と一緒に外へ行ったわ」

「あ……、高崎さん」


 この舞台の主催で、劇団シラユキの代表で演出家の祥子さんが私たちに声をかける。

 なんだ、凛さんと一緒に外へ……。

 だったら、私も行かないと。由芽ちゃんが他の人と二人きりなのは、イヤだ。


「ありがとうございます!それじゃあ、私も少し──」

「ごめんなさい。少しだけ、貴女たち4人に話があるの」


 そんな前置きをして、祥子さんは私たちに話を始めた。



「ありがとう、わざわざついてきてくれて」


 赤く綺麗な髪を風にたなびかせて、凛さんはわたしにそう言った。

 そう、わたしは凛さんに連れられてスタジオの屋上に来ていた。

 とりあえず、この感じなら物理的に穴を開けられることはなさそう……、かな?


「いえいえ~!あの場で話さなかったって事は、あんまり聞かれたくない話ですよね?」

「驚いた、意外と鋭いのね」


 意外とはなんだ、意外とは。

 というか、さっきまでとは全然雰囲気違うなぁ。

 うーん、やっぱり猫を被ってたのか。でも、こっちの方が話しやすいかも。

 確か同じ高校一年生だし、わたしもフランクに行こう!


「私は、貴女の演技を知っている。どういう意図で演じているかも、どれほどの実力を持っているかも」

「あ、ありがとう……?」


 え~、なにその告白?嬉しいけど、なんか照れちゃうなぁ。

 かと思えば、凛さんは至って真面目な顔でわたしを見る。


「今回の舞台、私と貴女が全力を出せば失敗するわ」


 そうしてそんな真面目な顔で、そんな可笑しなことを言い始めた。


「それは、どうして?」

「客観的な事実として、私たちとそれ以外で実力が離れすぎてる。貴女は、さっきのエチュードを見てそう感じなかった?」


 彩香と、美綴さんのエチュード。

 どちらの実力も、決して低くなんかない。

 彩香はわたしやせんせの弟子として、美綴さんは200人規模のオーディションを勝ち抜いて。

 2人とも、確かで素晴らしい演技力を持っている。

 真琴さんは当然として、三宅さんも勿論ある。


「感じなかったよ。わたしは、自分の事をそこまで絶対だなんて思わない」

「………そう」


 役者として生きる以上、自分が誰よりも凄いというプライドは必要だ。

 そしてそれは過信や慢心ではなく、自信でないといけない。

 そうでない役者に、自身の能力を過信した役者に待っているのは、プライドを折られた末の自信の喪失だけだ。


「……中学1年生の頃、初めて貴女の演技を見た。銀河鉄道の夜で、その舞台の序盤の演技で。貴女は確かに、誰よりも輝いていた。他の共演者すら、貴女の姉妹弟子たちですら。貴女の存在の前では、霞んでいた」


 その美しく整った顔は、わたしに近づく。

 だけれど、そこにあるのは敵意だ。その瞳にあるのは、良い感情なんかじゃない。


「だというのに、貴女はその輝きを他者の為に使うようになった。自分じゃなくて、他者を輝かせる為の芝居をし始めた」

「あはっ、なにそれ。凛さんにわたしのなにが分かるの?」

「分かるわよ。わたしも、貴女と同じ景色を見て分かった。ここに上り詰めれば、後に残るのは虚しさだけ。自分と同等の実力者を、求め始める」


 にやりと、凛さんは悪い笑みをする。

 多分、かなみちゃんに指摘されてたわたしの笑顔ってこういうの何だろうなぁ。


 でも、凛さんが言いたい事は分からなくもない。

 周りにいるのは、自分に届かない実力の役者。同じ舞台に立てば、喰い殺してしまわないように演技をしなければならない。

 そうして、次第に芝居で他者に遠慮をするようになる。


「じゃあ、凛さんはわたしと同じくらいの役者だってこと?」

「いいえ。私は、貴女よりも格上の役者よ」


 ううん、凄いな凛さん!

 こうやって面と向かって、はっきりと自分が上だと豪語できるんだ。


「楽しみだね!この人なら、ちゃんと演技で殺し合いが出来そう」


 耳元で、小さなわたしがそう囁く。

 これまた物騒な事を言うね!でも、わたしの演技はそうじゃないよ。

 せなお姉ちゃんの姉妹弟子ってことは皆知ってるだろうし、せんせの顔に泥を塗るわけにもいかないし。

 この舞台でのわたしの役割は、自分を主張することじゃない。


「えへへ……。それで、今回の舞台では調和をしようってこと?周りに合わせて、舞台を成功させたいっていう話?」


 そう問えば、凛さんは先ほどまでの勝気な表情から一転。


「………貴女、本気で言ってる?」


 凛さんの目は、わたしを強く批難しているように見える。

 いや、実際に批難してるのかな。声にも、怒気が多分に混ざってるように思える。


「本気だよ。凛さんも、主演だったら分かるはず。主演2人のわたし達の役目は、舞台を無事に成功させること。そして、他の役者の人たちを引っ張っていくこと。わたし達は、沢山の人の人生を預かってるも同義なんだから」


 原作者、脚本家、劇団、主演じゃない役者。その他にも、この舞台を支えてお金と労力をかけてくれている人たちは多岐にわたる。

 そしてわたし達主演は、この舞台の顔であり代表者。

 だからこそ、自分を殺してでも舞台を成功させなくちゃいけない。


 どの役者よりも、責任を負って芝居をするのが主演だ。だから、私情なんか優先をしちゃいけない。

 例えやりたい事が出来なくても、周囲の人を支える演技をしなくちゃ。


「だからさ、仲良くしよ凛さん!私たちが本当に飛びぬけてるなら、皆を支えないと!」


 よしよーし、これで大丈夫でしょ!

 凛さんも何度も座長経験あるはずだし、ここまで言えばわたしと頑張ってくれるはず!


「……そう。貴女、そこまで堕ちてたんだ」

「え?」


 凛さんは、ずいっとわたしに近づく。

 そしてわたしを殺すほどに睨んだまま、耳元で囁いた。



「私は、自分の演技を曲げない。もし貴女が生ぬるい芝居をするなら、私は舞台の上で貴女を喰い殺すから」


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