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違和感

毎日一話更新の予定です。

 間違い探しの動画がある。

 時間と共に、画像の一部が、じわじわと変化していく。

 どこが変わっていくのか、変わってしまったのかを見つける、脳トレやゲームなどに使われる動画だ。

 例えば、何もない棚に花瓶が現れたり、女性の髪が伸びてきたり、カップルの顔が変わったり。

 うっかりすると、そのまま、何も気づかずに過ごしてしまいそうな小さな変化だけれど、一度気づいてしまえば、無視することはできない。

 いつも通りに過ごしている筈なのに、傍にいると浮かび上がってくる違和感に、間違い探しをしてしまう。でもまだ、何が違っているのか、私は気づいていなかった。


 北方佑介とは、大学3年の時から付き合っていた。

 一つ上の大人っぽくて世慣れた人。学年は一つ上だけど、浪人して歳は二つ上だということは、かなり後で知った。

 背が高くて茶髪で、少し垂れ目の優しいゼミの先輩。誰にでも親切だけど、特に私には丁寧にいろいろと教えてくれた。友人から、私に気があるんじゃないかと揶揄われて、そんなことないよと返しているうちに何となく気になっていって……。いつしか二人きりで出歩くことが増えていき、ゼミの飲み会の後に告白されて、恋人になった。


 私が4年になった時に、彼は大学院に進んだので、私が一足先に社会に出る事になった。私の就職活動には、あまり相談に乗ってくれなかったのは、ちょっと予想外だった。少し寂しかったけれど、彼にはまだ現実の事じゃないから仕方ないのかもと、そう、自分を納得させた。


 卒論や就活に加えて、彼の論文の手伝いを頼まれることもあり、なかなか忙しい毎日だったけれど、彼のことは好きだったし、このままずっと一緒に過ごしていくのだという、ぼんやりとしたイメージはあった。

 違和感と不安を飲み込んで、私、岸本芽唯は、この春、会社員になった。



 会社は、いわゆるIT企業。学生時代の専攻が情報工学だったので、自然な流れでこの会社を選んだ。

 4月に入社して、新人だけで研修を受ける。

 6月になったら配属先が決まって、そこで先輩方から指導を受けながら、実際の仕事を身につけていく。

 覚える事は多かったけれども、会社の雰囲気は明るくて活気があり、同期や先輩とのやり取りは楽しかった。

 同期の山本華、原田祐樹、倉木陸の3人とは、同じ開発部希望と言うこともあり、すぐに仲良くなった。



「ところで芽唯ちゃんは、彼氏ありかな?」

 山本華に誘われた会社帰りのお茶会で、ストレートに聞かれた。

 隠すのもおかしいと思い、

「うん、いるよ」

 って、軽く答えてスマホの写真を見せた。二人で行った水族館で、撮った写真。

 華はしばらく見つめたあと、

「意外なタイプだね」

 って、スマホを返してくれた。

「イケメンでしょ。私にはちょっと勿体ないくらいの」

「あー、そうね。そういう意味ではなくて」

 と言いながら、カフェラテに口をつけた。

「……芽唯の好みは、もっと誠実そうな人だと思ってた」

「見た目はちょっと軽く見えるかも知れないけど、優しい人だよ」

 いつも私のために。って言って、いろいろとアドバイスをくれる。

 自分に自信が持てない私に対して、『芽唯なら出来るよ』『大丈夫。やってみて』って、いろんなことを勧めてくれた。ゼミの課題や卒論の手伝いなど。将来役に立つからって言われて。大変だったけど、確かに役に立ったし自信もついた。


「優しい系イケメンが良かったら、同期にもいるじゃん」

 華が話を戻した。

「原田君?確かに優しい癒し系だけど、好きな人が居るみだいだよ」

 他に好きな人がいる男性を振り向かせよう、なんて気にはなれない。その努力は別に使った方が良いと思う。

「だ、誰よ、それ」

 なぜだか華が慌てた声を出した。

「聞いたことないよ」

 直接には、聞いたことは、ない。

 でも、見てれば分かる。

 原田君、華の事が好きだと思うよ。

 でもそれは、本人には言ってない。

 華は、研修初日に『倉木君にアタックする』って女性陣に宣言した。

 時々、倉木君と話しているところを見かけるから、付き合ってるんじゃないかな。

 だから、これは不要な情報。

 華の宣言にはちょっと引いたけれど、皆、何だかんだ言って、彼女を一番頼りにしている。決断力があって統率力がある、我ら同期のまとめ役だ。外見は、小柄で童顔の美少女ってのがまた、ギャップがあって面白い。


「じゃ、じゃあ、倉木君と比べたら、どうよ?」

 癒し系の原田君と違って、倉木君は爽やか系のイケメン。背は、佑介よりも高いかな。

 女性の先輩方に囲まれているのを、よく見かけるけれど、いつも爽やかに応対している。

「倉木君と?そりゃ、佑介よりも格好良いとは思うけど。モテすぎる人って、面倒よね」

「面倒?」

「ライバル多そうだし。て言うか、彼、華さんと付き合ってるんじゃないの?」

「私?違うよ」

「仲良いじゃん」

「いやいやいやいや。私達は、単なる友達だし。そもそも、倉木君には好きな人が居るし」

「それが、華さんではないの?」

「それは、誤解だって。ま、まさか皆、そんな目で私達を見てるの?」

「だって、初日に宣言したじゃない。倉木君と付き合うって」

「うん。まあ、ね。初めはいいなって思ったんだけどね」

「顔が?」

「まあ、ね。顔も含めて容姿全体が。仕事も出来そうだし、付き合ってもいいかなって思ったのよ」

 だけど、振られてしまったそうだ。美少女でも振られるんだ。ご愁傷様というべきか、原田君おめでとうと言うべきか。


「だけど、倉木君と、仲良いじゃない。良く二人で話してるよね」

「それは、別件。恋愛関係じゃないからね。ここ、強く否定しておくから」

「はいはい、了解。じゃ、倉木君は、彼女あり?」

 だから、振られたの?って聞くと、

「今はいないって。だけど、気になる女性がいるので、私とは付き合えないっていわれちゃった」

「それは、まあ、何だ。社内恋愛で破局するよりは、傷は浅いよ。って慰めても、いい?」

「やめて、そんな雑な慰めは要らない。会社員デビューで馬鹿なことをしたって、反省してんだから。私って、時々暴走するんだよね。他に気になる人もできたけど、今は反省モードで大人しくしています」

「華には、控えめだけど、広い知見があって、暴走しがちなところを引き止めて、サポートしてくれる人が良いと思うよ」

「今月の運勢?」

「控えめ過ぎてわからないと思うけど、たまたま、近くにいることが多くて、私の視界に入るから気が付いたの。華の事をじっと優しく見つめている人を、知っている」

 研修のグループワークでも、華が暴走しそうになるのを、上手く収めてくれてた彼。わかってるよね?

「え、誰?いや、やめて、言わないで」

 華が、真っ赤な顔を両手で隠して震えた。やだ、可愛い。


 次の日、華から、原田君に告白して付き合うことになったと報告が来た。

 さっそく他の同期から揶揄われていたけれど、気持ちはわかる。

 二人とも、会社に入って出来た大切な友人だから、幸せになって欲しい。


 私の方はと言えば、祐介とは、なかなか会えない日が続く。

 心理的な遠距離恋愛をしているみたい。彼との心の距離を感じてしまうのは、会社員と学生という立場の違いだろうか。

 佑介との電話は、いつも、会いたいねで終わるけれど、電話が通じない事もあって、くよくよと悩む夜が増えてきた。


 違和感が浮かんで仕方ないのは、例えば、たまに更新されるSNSの匂わせ写真。

 忙しいから会えないって言っていたのに、ドライブやレストランでの食事の写真がアップされているのは、何故?

 スマホの写真とそっくりの笑顔は、誰に向けられているの?

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