8.国境にて 2
「皆様怪我はないのですよね?では回復だけ」
リューディアは胸の前に手を組み、祈りの姿勢をとる。
『回復』
軽く唱えると同時にリューディアの身体が少し白く光る。三十人の騎士や兵士の身体も一瞬白く光った。うぉ、とか、わ!とか驚きの言葉が聞こえる。
それもそのはずだ。今まで回復魔法をしてもらったとしても一人ずつだっただろう。リューディアもこんな大人数を一緒にしたことはない。リューディア以外の『聖女』達もないだろう。多分できないと思うが。
(初めてこれだけの人数に同時に掛けたけど大丈夫そうね。ちゃんと回復できているみたいだし、私もそれほど魔力の減りは感じない)
リューディアは自分の手を握ったり拡げたりしながら確認する。すると背後からノアが近づいてきた。
「リューディア様」
声をかけながらいつもの白いストールを頭から掛けてくれた。
「変わってる?」
「少しだけですが。ちょっと整えますね」
ブラウも近くに来て、一束程度の黒色の髪を白い髪で隠す。ストールを整えてから、終わりましたと告げてくる。
「聖女様!ありがとうございます!」
皆が頭を下げたりしているのでリューディアは慌てて向き合ってから
「体力は回復したかと思います。では気をつけてお帰りくださいね。ご家族の方々も待っていますから」
そういえば捕虜の交換ってどうやるものなのかしら?私はどこに行けばいいのかしらね。そもそもすんなり解放されるものなの?もっとこう何か取り決めとかあったのかしら?とか頭の中で考えているとまた目の前に手が出てくるのが見えた。先程と同じレオンハルト王子殿下だ。
一体いつの間にこんな近くに?
先程まで少し離れた所にいたはずなのに。近づいた気配が一切しなかった。驚いていると王子殿下はにっこり笑って
「リューディア殿はどうぞこちらに。こちらで用意した馬車に乗ってください。荷物は運んであります。侍女のお二人も一緒に。その時点で彼等は国境の門をくぐり、拘束魔法は解かれます」
確かによくよく見ると腕と足に何か光っている。あれが拘束魔法か。でも三十人分もよく掛けているな、一体何人の魔法使いがこの場にいるのだろう?わかりました、と返事をしてノアとブラウとともに指示をされた馬車を見る。
…………。
動きが止まる。ノアとブラウも同じように止まっている。
「……あの馬車、ですか?」
思わず口走ってしまったその言葉に横にいたレオンハルト王子殿下がとても綺麗な微笑みで答えてきた。
「はい、あの馬車です」
目の前に見える馬車はとても大きく、強固そうで、それでいて華美すぎない装飾で。
………いやいやいや、豪華すぎませんか?普通に王族とかが乗られる馬車ですよね?何人乗りです?先程まで乗ってきたハリーナ王国の馬車と雲泥の差なんですけど?
私、捕虜ですよね?
今からスーラジス王国で働かさせられるんですよね?
こんな豪華な馬車に乗れるような立場ではないはずなんですけど?
頭の上に沢山の疑問符が飛び回っている。
またもや目の前にレオンハルト王子殿下が手を出してくる。ですから私は捕虜であって、王族の方にエスコートされるような身分では、と言いかけたがあまりにもレオンハルト王子殿下の笑顔が眩しすぎて、何も言えなくなる。
大人しく手を取り一緒に歩き出す。クイッと少し手を引っ張られた感じになり、かなりレオンハルト王子殿下との距離が近くなった?え?
かなり背が高い殿下は少し後ろを向きどこかを見ているようだ。何となく睨んでいるような気もするが。どこを見ているのだろう?ハリーナ王国の捕虜達の方かしら?
「これをもってこの場は解散とする。ハリーナ王国の面々はそのまま国境の門を越えること。それを確認次第拘束は解除される。そこに馬車や馬が用意されている。各々王都に一度戻れと指示が出ているはずだ。気をつけて戻るように」
レオンハルト王子殿下のとても通る声が響く。皆動きが止まった。動こうとしない。私の事を気にしているのだろう、仕方ない。
「気をつけて戻ってくださいね」
リューディアが微笑んで声を掛けると一人二人と足を動かす。それに続くように皆国境の門に向かっていく。最後マティス・ダナン侯爵子息だけが残る。拳を握りしめて口元もギュッと結んでいる。騎士としての矜持があるのだろう。国が決めたこととは言え、自分らのと引き換えに女性三人が敵国に行くのだ。いくら本人が了承しているとは言え、男性、騎士としてはかなりの屈辱に近いのではないだろうか。
リューディア本人はどちらかと言えば、あの、ナーヤス第二王子と別れられてありがたいのだが。そんなことを言えるはずもなく。
もう一度大丈夫だと微笑む。わかってくれたのか、マティス様は一度頭を下げ、国境の門に向かって行った。
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