73.謁見の間にて 7
「正式な手続きでなられたわけですからハリーナ王国の大神官としての仕事は把握されてますよね?いくら前大神官様が急に亡くなられたとはいえ、それなりに神殿について勉強なさった方しかなれないはずですし。何せ国王陛下のお墨付きな方ですから私からの引継ぎがなくても大丈夫だと思っております」
この際だ、言いたかったことは全て言わせてもらおう。無駄に期待されても迷惑だ。
「前大神官様もご病気なのであれば私が診たり、その時点で引継ぎを考えられたはずなのですが。それがないということが不思議でなりません。何故私が王都を離れていたあの時に急に亡くなられたのか、そんな引継ぎもできないような状態だったのか。いくつもの疑問はありますが、今となってはもうどうしようもありません」
私の言葉に何かを思い出したのか、王子も大神官もかなり顔色が悪い。
「大神官の仕事についてわからないのであれば、神殿内の書物を調べるなり、前大神官様に付いてらした方々にお聞きするとか方法はいくらでもありますよね。こちらに来る前に尋ねられましたか?」
「………」
大神官もナーヤス王子も苛ついているのだろう、顔がかなり険しい。私にこれほど反論されるとは思ってもみなかっただろうし、もっと簡単に話がついて、私を連れて帰って仕事をさせればまた前と同じように自分は楽できると思っていたことだろう。
そんなことはさせないし、したくない。自分らが引き起こしたことは自分らで尻拭いしていただこう。
「あとは御自分達でお考えください。遠い所を来ていただきましたが、私では力になれません。貴方がたが指名し、認定された七人の『聖女』『聖者』の方々に頑張ってもらってください。では」
これ以上は何も言うまい。軽く頭を下げる。
「………っいや、その」
「これ以上は話すことはないな」
大神官の声を遮ったのは国王陛下だ。その通りだ、これ以上話しても何も変わらないだろう。私がハリーナ王国に戻ることはないのだから。
「代わりの『聖女』もいないのだから、これ以上話はないな。あぁ先程レオンハルトも言ったが、リューディア嬢は正式に我が息子レオンハルトの婚約者として手続きを終え、我が国で認められている。不備はない。だからこれから先、新しい『聖女』を連れてきてもリューディア嬢と交換という話には応じない。これが覆ることはない。元々そちらが敗戦国だ、どちらが主導かはわかるな?」
ハリーナ側はもう誰も何も言えない。
「では此度の会合はこれにて終わりとする。よいな」
スーラジス側は皆頭を少し下げて、はっ、と返事をしている。これで終わってくれればいいな。
王太子殿下に頼まれてナーヤス王子殿下を羽交い締めにしていたヤリアス騎士団長も一旦その拘束を解いた。解いたとほぼ同時にナーヤス王子殿下がボソボソと何かを呟いた。
何を言っているのか、と思っているとどこにそんな力が残っていたのかわからないが先程と同じように私に向かって叫びながら手を伸ばしてきた。
「………っリューディアァァ、貴様さえ!貴様さえ言う事を聞けば……!」
そしてその手にはどこから出したのか短剣が握られていた。キラッと光るモノが見えたと思った瞬間、ナーヤス王子殿下の身体はヤリアス騎士団長他、数名の騎士によってあっという間にもう一度拘束された。今度はヤリアス騎士団長が馬乗り状態で押さえている。
「っは、離せ!離せ!私は王子だ!」
抑えつけられているにもかかわらず叫んでいる。他国の王族の婚約者を短剣で狙っておいて無事でいられると思っているのか。それもこんなにも大人数の前で。
「……っリューディア!私を助けろ!婚約者だろう!助けろ、命令だ!」
うつ伏せで床に押さえ込まれ、腕を後ろに拘束されながらも顔だけを上げて私に向かって叫ぶ。
情けない。これが本当に一国の王子の姿か。ずっと何かを喚き散らしている。ラナン宰相補佐官も大神官も何も言えずに突っ立っている。そりゃあそうだろう、これだけの人の前でやらかしたのだから。
一歩前に出て、押さえ込まれているナーヤス王子を見下ろす。
「いい加減に現実を見つめてください。私はあなたのもう婚約者ではありません。あなたがそう宣言なさったはずでし、婚約解消の手続きも正式に受理されております」
「で、でも、お前は私のことをまだ愛しているのだろう?また婚約者にしてやる!だからこの拘束を解かせろ!私と一緒にハリーナに戻るんだ!『聖女』に戻してやるから!」
本当にこの王子は………頭の中はどうなっているのか。
「はっきりと申し上げますが、私リューディアはナーヤス王子殿下のことを愛してはおりませんし、今までも一度もそのような思いを抱いたことはございません。婚約解消していただきとても嬉しく思いました。そして既にこちらのレオンハルト王子殿下と婚約させていただきました。これは私の意思でもあります。これから先、このスーラジス王国で骨を埋める所存でございます。ので私がハリーナに戻ることはございません。わかっていただけましたでしょうか?」
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