72.謁見の間にて 6
「そんなこと……」
ナーヤス王子はこちらを睨みつけたまま、ボソボソと何かを呟いている。
「そんなことは認めない!リューディアは私とハリーナに帰るんだ!そうしないと私は……」
「君に認めてもらう必要などない。連れて帰れなかった時の君の事情などはこちらには関係ない。それに呼び捨ては許さないと言ったのにまだ言うか。次はない。とにかくリューは正式な手順で私の婚約者になった。ハリーナ王国が口を挟むことはできない。これからは私がリューを、リューディアを幸せにするからなんの心配もいらないよ。ハリーナでの君の対応よりも良いことは間違いないし、ドレスや宝石もどれだけでも用意する。もちろん、それなりのもので、リューに似合う物を準備する。安物などはありえないからな」
レオンハルト様はニコリと笑って私の胸元にある首飾りを触る。明らかにナーヤス王子に対して、対抗している。言われた方も気づいたのかさらに睨みつけてくる。ヤリアス騎士団長に羽交い締めにされているから手は出せない。
互いに睨みあっていたのでタイミングを見計らって声を出した。
「ナーヤス王子殿下、今レオンハルト王子殿下より説明があった通りです。私がハリーナ王国に戻ることはありません。ですのでハリーナ王国での『聖女』の仕事をすることもできません。元々そちらから出る時に肩書きや身分を全てを解消するように言われましたので『聖女』の肩書きも解消しておりますから、私がもしハリーナ王国に戻ることがあったとしても『聖玉』に関する仕事は一切できません」
私が静かに告げるとナーヤス王子だけでなく、後ろのラナン宰相補佐官や大神官も驚いている。まぁこの人達も何も知らないから私が戻ればどうとでもなると思っていたのだろうな。
「ですので『聖玉』の仕事は今現在ハリーナ王国にいらっしゃる七人の『聖女』『聖者』の方々にお願いしてください。そちらの大神官が正式な手順で『聖女』『聖者』に認定された方々ですし、私からの引継ぎがなくても全てできるとおっしゃっていた方々ですから立派にお仕事をされると思います。実際私がナーヤス王子殿下にスーラジス王国行きを言われた際に殿下のお隣にいらっしゃったアメリア様にも私からの引継ぎなどいらないと言われましたので大丈夫かと」
ナーヤス王子はゔっといったような、痛いところをつかれたというような顔をしている。忘れたとは言わせませんよ。
「そちらにいらっしゃる大神官も正式な手続きでハリーナ王国の国王陛下に認定された方ですので、神殿に関することは完璧かと思います。私は前大神官様に言われたことだけを忠実に行っていただけですので。そちらの大神官が全てわかっておられて、現在ハリーナ王国におられる七人の『聖女』『聖者』の方々に伝えられているはずですから、私はすることがないはずです」
「……そ、そんなことは」
大神官が真っ青な顔で立ちすくんでいる。
「ですので私を連れて帰ってもなんの役にもたちませんし、たつつもりもございません。ここで時間をかけるより、さっさとハリーナ王国に戻られて対処なされては?」
「……っその」
ヤリアス騎士団長に羽交い締めにされたままのナーヤス王子が何かを呟いた。
「その、前の大神官に言われた事を教えろ!」
結局はそこなのですよね。少しは理解してましたか。後ろで大神官も頷いている。
「無理です」
「はあ?」
私がニッコリと笑って言ったその言葉が予想外だったのか、変な声が出ましたね。仮にも一国の王子なのですから平静を装うとか訓練はされてないのでしょうか?そんなに感情をむき出しなのはどうかと思いますが。
「む、無理とは?何故?」
そう尋ねてきたのはナーヤス王子ではなく、大神官だ。
「無理なものは無理です」
「前の大神官に聞いたことを教えろと言っているのだ、まさか忘れたわけではあるまい?」
「忘れてはないですが、口にはできないのです」
「はあ?どういうことだ?」
私はわざとらしく溜息をつく。
「それも教えの一つなのですが、私が前の大神官様から教えていただいたことはあくまで『聖女』でいる間なら口にしてもよい、誰かに引継いで教えてもよい、と言われてましたが、その肩書きがなくなったり、解消した際は一切口にしてはならないと。誰かに話すことは禁止だと言われました。ですのでスーラジス王国に来る際、そちらでの『聖女』の肩書きを解消してきましたので前大神官様から聞いた教えは口にできません」
まぁそんなことはないですがね。今私が勝手に決めただけなので。
「そんなことは知らない!私が許可していないのだから『聖女』のままだ!」
今度は顔を赤くした大神官が叫ぶ。
「『聖女』の解消に関しては大神官の認定はいりません、私一人の儀式で解消できます。まさかとは思いますがそんなことも知らないとおっしゃっいますか?大神官ともあろう方が?」
言葉と同時に睨みつけるとまた顔色が悪くなっている。忙しい方だな。
本日もありがとうございます。
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