68.謁見の間にて 2
「交換条件の『聖女』が間違っていたのです!」
厳かなこの場に何とも言えない声が響く。本人は言い切った!とドヤ顔に近い。
「ほう?間違っていた、とは?」
スーラジス王国国王陛下の威厳のある声が響く。先程の声とはえらい違いだ。
「あ、あのそのですね……」
大丈夫か、この王子。それでなくてもスーラジス王国国王陛下はかなりの方だ。その醸し出す雰囲気はそこにいるだけで周りの者達を威圧というか、従わせるイメージだ。
この前の『家族の団欒』は本当に団欒モードだったんだな、と改めて思った。そういえば国王陛下は何かの『獣人』なのだろうか、聞いてなかった。
三人の王子が皆『獣人』なのだから国王陛下もそうだとは思うのだが。そうでないとこの圧力はかけれないだろう。とか違うことを考えていると、ナーヤス王子が大神官やラナン宰相補佐官に何かを言わられながら、気を取り直している。そしてどうにか声を出してきた。
「ですからこの前そちらに渡したリューディアは我が国の『聖女』ではなかったのです!今日ここに連れてきたこの者が我が国の『聖女』です!ですからこの者とリューディアを交換しに来ました!」
凄い大きな声でまくし立ててきました、が、こちら側は皆驚くでもなく、あっけにとられるでもなく、ただただ呆れておりますよ。
まぁ『聖女』を連れて行くのと、私を同席させろと言ってきた時点で交換だろうなとは予想がつきましたが、よりによって『聖女』ではなかった、と来ましたか。言いたくはありませんが、本当に馬鹿としか言いようがありませんね。周りの者は気づかないのでしょうか?止めないということは気づいていないのか、気づいていても止められなかったのか。どちらかはわかりませんが、そのことを見逃す国王陛下ではありませんよ。
「……ほぉ?リューディア嬢は『聖女』ではなかったと?」
「そ、そうです!彼女は私達をも騙していたのです!」
国王陛下の質問にとても馬鹿でかい声で答えてくる。もうちょっと音量を落として欲しい。
「騙して?何を騙していたのかな?」
「わ、我々に私は我が国一番『聖女』だと言い張って、私がスーラジス王国に行くと。まんまと騙されてそちらに行かせましたが、やはり騙しているのはよくないと思い、今日こうやってきちんとした『聖女』を連れてきました!この者こそが我が国一番の『聖女』であります!ですので、リューディアとこの『聖女』を交換」
「騙していただと?」
ナーヤス王子の熱弁(?)を遮り、国王陛下の低い声が響く。ビクッとなったのがわかるくらい、怯えている。しかし何とか言葉を捻り出してきた。
「わ、我々もその女、リューディアに騙されていたのです!こちらも被害者です!ですから……」
ナーヤス王子が何か言うたびに自分の隣から怒りのオーラが出てくるのがわかる。どうにか抑えてる感じだ。
しかし私が騙してスーラジスに来た、だなんて……まぁある意味合ってはいるのですが。
でもあの時は有無を言わせずにスーラジスに行けと言ったのに。あそこにいた者が口裏を合わせる感じで来たのでしょうけど。
「ならばリューディア嬢は和平交渉の条件にあったハリーナ王国の『聖女』ではない、ということか?」
「そ、そうです!ですから返していただきたい!」
「そしてそちらの者が『聖女』だと」
「はい、我が国一番の『聖女』です!ほら、前に出なさい!」
ナーヤス王子は白い布で隠された『聖女』の手を引っ張り、グイッと前に出す。キャッという声が聞こえて、白い布もズレて顔が見えた。そして足がもつれたのか膝をついた。慌ててズレた布を元に戻し、顔を隠す。
………誰だ?見たことがない女性だ。え?どういう事?
私の表情にレオンハルト様が気づき、耳元で尋ねてきた。
「知らない女性なの?」
「……はい。今までの『聖女』の中にはいなかった方です」
「……なるほど」
レオンハルト様は隣にいた王太子殿下に耳打ちする。なにやら二人で小声で会話をしている。わかった、と言って王太子殿下が国王陛下と王妃様の椅子所に向かって行った。
レオンハルト様は私の隣から離れない。離れないどころか腰に回した手をさらに引き寄せる。
王太子殿下に何事か囁かれた国王陛下と王妃様は頷いている。
「そこの娘」
今度は王妃様の声が響く。『聖女』の肩がビクッとなるのがわかる。それくらい緊張しているということか。
「お、おい!返事をしないか!」
ナーヤス王子が怒ったように叫ぶ。それでは余計に緊張するだろうに。
「………は、はい」
か細い声が聞こえた。やはり聞いたことのない声だ。
「あなたはハリーナ王国一番の『聖女』なのね?」
「…………はい」
そんな娘がいただろうか?それとも言わされているのか。
「ならリューディアよりも凄いのよね?じゃあ試しに私の事を診てくれるかしら?」
「え?」
とても慌てた声が聞こえた。娘からではなく、ナーヤス王子の声だ。
「一番の『聖女』というならそれなりのモノを示してもらわないと。リューディアよりも素晴らしいということを見せてちょうだいな」
「…………」
「あ、あのそれは追々……まだ慣れておりませんので」
急に言葉を挟んできたのは大神官だ。
「あなたには発言を許しておりませんが」
王妃様の強い一言が飛ぶ。確かにその通りだ。この場において二番目に強い方なのだから。
「どうしたの?リューディアはすぐにしてくれたわよ。それ以上なのでしょう?」
「………あ、あの、その」
声が段々と小さくなっていった。
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