66.廊下にて
謁見の間に向かう途中、声をかけられた。
「レオンハルト!リューディア嬢!」
声のした方に顔を向けるとジークハルト王太子殿下が手を挙げていた。後ろには護衛の騎士の方が二人。うち一人はこの前の応接間にいた騎士団長のヤリアス様だ。どうやら今日の謁見の場にも来てくれるようだ。
「兄上」
「謁見の間に行くのだろう、一緒していいかい?」
「もちろんですとも」
前に騎士の方が一人歩き、自分達三人は並んで歩く。後ろにヤリアス様がついている。
王太子殿下ともなると騎士団長が護衛なのか、と思っていると、考えていることがわかったのか、王太子殿下がクスッと笑っている。
「ヤリアスが私につくのは久しぶりだよ。普段は私にはではなく、父上や母上についてもらっているからね。今日は特別」
「そうなのですね」
「何があるかわからないからね。準備万端にしておかないと。なるべく事情をわかっている者がリューディア嬢の近くにいれるよう配置している」
「あ、ありがとうございます」
そういうことか。
「何かあったらすぐに言ってね。レオンハルトは離れないとは思うけども」
「もちろんです、離れる気などありません」
そう言ったレオンハルト様は腰のあたりをギュッと引き寄せるようにしてきた。
「こら、レオンハルト、歩きずらくなるだろう?リューディア嬢も文句言っていいからね」
「大丈夫です、寧ろ履きなれない靴なので支えてくださっていてとてもありがたいです」
これは本心だ。いつもよりヒールの高さがあるのでよしかかれるのはとても助かるのだ。
「手のかかる弟ですまないね。よろしく頼むよ」
「兄上も同じでしょう?そういえば義姉上は?」
「あぁ元気だ。リューディア嬢のおかげだな。今日も本当は来たがったんだが、どうなるかわからないし、部屋で待機ということで。後で何があったか教えろと頼まれたよ」
「その方がよろしいかと思います」
何が起こるか、私にもわからないからだ。私を連れて帰る気満々でくるだろうから、連れて帰れないとなった時にどうなるのか。
流石に腐っても一国の王子だ。暴れるとかは無いと思うのだが。
「まぁ暴れてもレオンハルトも私もいるからね」
ジークハルト王太子殿下が明るい感じで答えた。
あぁそうだ、この二人は『獣人』だ。それも獅子だ。間違いなく強い。あの、王子など簡単に押さえられるだろう。
「私達もおりますから、聖女殿は安心してレオンハルト殿下とお手を繋いでいてください」
後ろからヤリアス騎士団長の声が聞こえる。
「その通りだ。リューは何も心配しなくていいからね」
「リューディア殿は既に私やヴィラスにとっても可愛い義妹だからね。私達に任せて」
「あ、ありがとうございます」
何だろう、目元が熱くなる。だめだ、今日はお化粧もしているのだから、泣いちゃいけない。すると気づいたレオンハルト様がそっと指で私の目元を拭ってきた。
「大丈夫、だからね」
「はい」
しばらく歩くととても豪奢な扉の前についた。護衛の方が中を確認しつつ、扉を開けてくれた。中に入ると何人かの方が既に定位置と思われる場所で立っている。
ジークハルト王太子殿下とレオンハルト様は定位置があるのか、淀みなく歩いていく。周りの人達は皆頭を下げている。えっと私はどうすれば、と思ったけれども、レオンハルト様が腕を離さないので付いて行くしかないわけで。
「リューは私の隣」
「え?」
え?第三王子の隣ってかなりの上席ですよね?今日第二王子殿下は外遊中だから、国王陛下、王妃様、王太子殿下に次いでの席では?え?いくら婚約者とはいえ、平民がそこですか?
「リューはこの国にとってはもうなくてはならない存在。そのことを相手にしらしめないとね。大丈夫反対してる者など誰もいないから」
いやいやこの前の夜会の時みたいに平民がこんな位置にと反対する者はいると思いますが。
「ナースタッド侯爵がね」
「?」
「自分に付いていた貴族達を説得というか、色々と言い聞かせたらしいよ」
「え?」
「夫人にも色々と言われたらしくて、リューのこと反対しないようになったらしい。まぁ夫人にしたらリューは命の恩人に近いし、ナースタッド侯爵もジュリア夫人のことが大事だったってことだな」
「……え、そうなのですか?」
毎日、調子を見にジュリア様の所に顔を出してはいたが、一度もナースタッド侯爵とはお会いしていない。まさかそんなことになっていたとは。
「そう。だから一番反対していたと言ってもいいナースタッド侯爵が味方になったのだからこれで表立ってリューと私の事を反対してくる者はいないよ。だから大丈夫」
「大丈夫って……」
レオンハルト様はニコリと笑う。
「私の隣がリューの定位置ということ。誰も文句は言わないし、この位置はリューが自分で掴み取った位置だから堂々としていればいい」
「………わかりました」
色々と自分の知らないところで話は進んでいるものなのだと改めて思った。ここにいていいのなら、甘えさせてもらおう。ふぅと一息つき、姿勢を正す。
「国王陛下、王妃様入られます」
聞こえた声にこの広間に緊張が走るのがわかった。二人揃って歩いてこられて、定位置である真ん中の椅子に座られた。
「ハリーナ王国御一行様、入られます」
本日もありがとうございます。
今年二月に完結しました『竜王の契約者』がネット小説大賞の1次を通過いたしました。もしよければそちらも一読いただければ嬉しいです。
既に読んでくださった方々、本当にありがとうございます!
明日も更新予定です、お待ちしております!




