64.応接間にて 5
「何でしょうか?答えられることなら」
「君は前大神官殿の死因は何だと思っている?」
そうきたか。さてどこまで話そうか。ここまで話したのだからもう一緒か。もう一口お茶を頂いて、喉を潤す。
「あくまで私の考え、という前提でよろしいですか?」
「もちろんだとも」
国王陛下は軽く笑っている。まぁこの顔が標準なのだろうから、笑っているからといってどんな考えなのかは読めないが。
深呼吸を一つ。
「毒、ですね」
私のその言葉に誰も驚かない。そう考えるのが自然だろう。
「何故そう思う?偶々心臓が止まっただけかも知れないだろう?断定はできまい?」
発する言葉を考える。この人達に誤魔化しはきかない。ならこの人達を信じるだけだ。
「……先程、埋葬される寸前に一目会えたと申しましたが、その際、前大神官様の手を握りました。周りの者は別れを惜しんでいると思っていたかもしれませんが、私はどこが悪かったのかを探ってました。もしかして今まで体調が悪いのを隠していたのではないかとも思ったのです。それを見抜けなかったのではないかと。なんのための『聖女』なのかと」
膝の上に置いた手を握り直す。
「でも私が感じとったモノは違いました。それはあきらかに人為的なモノ、毒が身体の中に残っているのを感じたのです。何か暴かれるのを恐れたのか、その後すぐに離されましたが、あの時感じたのは間違いなく毒物です。前大神官様は毒殺されました。色々と考えていましたが、その後の流れで大体のことはわかってきました。でも……その時の私にはどうすることもできませんでした」
少しだけ涙声になってしまったのがわかったのか、レオンハルト様が手をギュッと握りしめてくれた。とても温かくて、心が落ち着いていくのがわかる。
「それでも、そこまでわかっていても第二王子の婚約者であることをやめなかったの?あちらの思う通りに動くつもりだったのかい?」
国王陛下の静かな声が響く。私はふぅと息を吐いて姿勢を正す。
「……私は、機会を狙っていました。どうせナーヤス殿下は私との婚約を疎ましく思っていましたし、そう簡単には結婚することにはならないだろうと。そして自分にできることは何だろうと。彼らが一番困る事は何だろうかと」
ここまで言ってしまったら隠しておくこともないだろう。もう話してしまえ、と心の奥から聞こえた気がした。
「それからは兎に角大人しく過ごしていました。新しい大神官が決まり、新しい『聖女』『聖者』が決まっていくのを見て、私の心は決まりました。タイミングを見計らっていなくなろうと。それが一番困ることになるように私は動きました」
誰も言葉を発しない。私の次の言葉を待っている。
「新しい大神官が引継ぎを受けてないことは明らかでしたし、『聖玉』に関することもあまり重要視はしていないようでした。そして新しく『聖女』になっていった方々もよくわかっていないようでしたし、私に聞くこともしませんでしたので、私も教えませんでした」
彼女らの貴族としての矜持が平民の私に聞くということをゆるさなかったのも幸いした。
「とにかく私は一人で『聖女』の仕事をこなしていました。元々一人でしたし、こなせるだけの魔力量もありましたし、ノアとブラウのおかげで回復も人より速かったので。数ヶ月もすれば、新しい『聖女』の方は簡単なことしかしなくなりました。自分の家に頼みにきた貴族への奉仕活動です。貴族の邸宅へ行き、治療をするというものですが、少しくらいは光魔法を使えていたのでこなしていたようです。『聖玉』に魔力を込めるなどしたことはなかったのです。まぁしてもらったらその時点で色々と不都合でしたので、私がします、と誤魔化していたのありますが」
「リューがしていることは誰でも簡単にできることだと見せかせていたわけか」
「その通りです。あとはいついなくなろうかとノアとブラウと三人でタイミングを見計らっておりました。その時にスーラジス王国との捕虜交換の話が来ました。間違いなく今しかないと利用させていただきました。申し訳ありません」
頭を下げる。
「その結果が今のハリーナか。確かに困りまくっているな。君の考えは正しかったわけだ。これで少しは復讐出来たかもしれないが、そうなると君はハリーナに戻るのかい?」
「いえ!戻る気はサラサラないです」
慌てて手を振る。そうだ今さらあの国に戻るつもりなど一つもない。
「じゃあこのままこのスーラジスにいてくれるかい?そうじゃないと君の隣の男が泣くんだが」
「泣きません」
即答だ。思わず少し吹き出してしまった。
「……帰るつもりなど微塵もございません。こんな私でもここに置いていただけるので」
あれば、と続けようとした時にいきなり視界が黒くなった。え?と思っているとレオンハルト様の胸元に抱きしめれているのがわかった。
「どんなリューでもリューはリューだ。絶対に離さないからね!」
「……レオ様」
その姿を見ていた国王陛下は微笑んで言ってきた。
「仲が良くて何よりだ。間違いなくリューディアはレオンハルトの婚約者だ。ということは私達の義娘だ。ハリーナなどには渡さないし返さない。安心して。もちろん後ろの二人もね」
私達三人はありがとうございます、と頭を下げた。
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