62.応接間にて 3
そのことが何を意味するのか。
「私が前大神官様の死去の一報を聞き、急いで帰ってきた時にはもう埋葬される寸前でした。最後に一目会えましたがそれだけです。手を握るのが精一杯でした。流石に聖女の、光魔法をもってしても息絶えている者は戻すことはできません」
レオンハルト様と繋いでいない手を膝の上でギュッと握り、下を向く。
「……もう少し早く帰れたら、と何度も何度も考えました」
「リューのせいではない」
レオンハルト様の一言にハッとする。私は笑顔を作る。
「すみません、話が逸れました。そんなことがあったため、現大神官は何も知らないと思います。それで本題に入りますが」
一度喉を潤させてもらう。美味しいお茶だ。
「歴史的なことになりますがハリーナ王国は元々それほど恵みのある国ではありませんでした。それを初代と呼ばれる『聖女』の方が祈るというか魔法を使う事によって、土地を豊かにしていき、作物なども実り豊かになるようになりました。そしてその方が考案されたと言われているのが『聖玉』です」
誰も口を挟まず聞いてくれている。
「この『聖玉』は所謂増幅器のような役割をしており、王都の神殿内でこの『聖玉』に魔力を注ぎ込むと自動的にハリーナ王国内全てに恵みをもたらすのです。作物の実りや天候、あとは魔獣の侵入なども防いでおりました。そして代々の『聖女』や『聖者』は毎日祈りを捧げ、魔力を込めておりました。この『聖玉』にさえ魔力を込めていれば基本、ハリーナ王国は安泰だったとも言えましょう。しかしそれだけの力を使うためには色々な制約がありました」
「制約?」
「はい。その制約の部分がなにかをしらないままなのが現大神官です」
「……本来なら大神官が代替わりする際に引き継がれる話、ということだな?」
「はい。私は『聖女』として契約する際に教えてもらいましたが、もしかしたら大神官同士だとまた違った教えがあったかもしれません、が、今となっては誰も知りえませんね」
「なるほどな」
皆様の時間は大丈夫なのか少し心配になったので尋ねると皆、問題ないとのことなので続けさせてもらう。
「『聖玉』についての制約ですが、これは『聖女』の出身地に関係してくるのです」
「出身地?」
「はい。初代の方が『聖玉』を創る際にいくつか決めたことがありますが、『聖女』として契約して魔力を捧げ、王国全体を護ることによって、対価をもらうということです。いわば『聖女』への報酬です。その一つが『聖女』の出身地を少しだけですが優遇するということです」
「優遇とは?」
「他の領地に比べると何かしら少しだけですが良くなることが起こります。作物の量が増えるとか質が良くなるとか。天候に恵まれるなどほんの些細なことかもしれませんが幸運がある、ということです」
「……あくまで些細なこと、なんだな」
私は頷く。
「それが続いて、何百年と経ってしまうと人々の目には違うようにうつってしまいました。『聖女』となり契約し、魔力を捧げているから領地が優遇されているというのに、領地から『聖女』が出れば栄える、と」
「『聖女』に選ばれただけで領地に恩恵があると思われるようになったということだな」
流石国王陛下、理解が早い。
「そうです。そうなると自分の領地から『聖女』を出したい貴族が増えてきました。でも『聖女』になるためには光魔法の使い手であることや周りの者達よりも多い魔力量などいくつか要件があります。そして最終的には大神官からの神託と呼ばれる儀式で選ばれなければなりません。前大神官様まではきちんと修行をされ、教えを叩き込まれた方々がその地位についていたので、確実に力のある者が『聖女』として認定されていました。そして『聖女』としても教えを叩き込まれてきました。ですが……」
「現大神官はそれが一切ない、ということか」
「……はい。元々どの時代にも『聖女』や『聖者』は一人か二人だったのですが、何故か今は七人もいます」
「………お金、か」
「……その通りです。何故か多額の寄付をした貴族の領地から『聖女』達が選ばれています。それも平民ではなく皆その領主のご令嬢です」
「栄える以外には何かしら得することはあるものなのかしら?」
王妃様からも質問がくる。
「いえ、特には。でも『聖女』であるということはご令嬢にとっては肩書きの一つになります。国に認められた魔力の持ち主、ということですので」
「でも今いる七人にはそれほどの魔力はない、と」
「はい。そしてここで最初に戻るのですが『聖女』として『聖玉』に祈りを捧げ魔力を蓄えることによって領地が優遇されるわけですが、もちろん祈りを捧げない、魔力を供給しない場合にはペナルティがあるわけです」
「いいことばかりではない、ということか」
私は頷いて、続ける。
「はい。そのペナルティが『聖玉』の蓄積魔力量が足りなくなった場合は『聖女』の出身地から先に保護がなくなる、ということです」
「保護がなくなる、というのは?」
「作物の実りが悪くなり、収穫量が減る。天候が安定しなくなる。異常気象が起こるなどです。元々ハリーナという国は全体的に痩せた土地が多く、作物などはそれほどできないのです。それを光魔法で育てていただけです。その魔法が足りなくなると元の土地に戻るだけなのですが、祈りは『聖女』としての仕事ですので、その仕事ができないツケはその領地が支払う形となります」
「『聖女』としての仕事をこなしていれば優遇されるが、サボると冷遇される、ということだな」
「はい。ですのであくまで影響が出るのは出身地だけで、その他の領地は変わりないと思います」
「……だから七つの領地だけとわかったのか」
国王陛下の言葉に頷いた。
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