61.応接間にて 2
「どう思う?」
国王陛下はハリーナ王国からの手紙を読み終えた私に声をかけてきた。
「あぁこの場はあくまで家族の団欒だから、身分とか作法とか気にしないで話してくれていいから。後ろの二人もね」
許可など取らずに話してもよい、ということか。普通なら私もノアもブラウも国王陛下になど気軽に話しかけるなんてことはできない。
「……私はどうすればよろしいのでしょうか」
その問いかけに答えたのはレオンハルト様だった。
「どうもこうもないよ。ずっと私の隣にいればいい。どこにもやらないし、離すつもりもない」
彼のその言葉に国王陛下も王妃様も王太子殿下も頷いている。リューディアはもう一度手紙に目を落とす。
ハリーナ王国からの手紙にはまず一週間後にナーヤス第二王子殿下がこちらに伺うと書いてある。その際何人かのお付きの者が来ると言うのと『聖女』を一人同行させると。
国王陛下にお目通りを願うと同時に私、リューディアを同席させろとの文面だ。
となると考えられることはただ一つ。
同行してくる『聖女』と私との交換。
どの『聖女』がやってくるのかはわからないが、あの条件をのんだ令嬢がいるのだろうか。
それか無理矢理か。そこまで切羽詰まっているということか。
「君がこちらに来てくれた後もハリーナ王国の動向は逐一監視はしていた」
国王陛下が話し始めた。
「まぁ元々ボロが出やすい国ではあったが、君がいなくなってあっという間だったな」
何となくだが楽しそうだ。
「でも私がいなくなってから影響が出たのは国全体ではなく一部の領地だけですよね?」
手紙から顔を上げた私が発した一言に皆驚きの表情を見せる。
「何故そう思った?というかどこまで知っている?」
国王陛下は驚きながらもさらに楽しそうに尋ねてきた。
「多分、ですが、影響が出た領地は七つ。それも今まで何の問題もなかった、どちらかといえば栄えていた領地に影響が出ているのではないですか?水が干上がるとか、反対に洪水とか。それとも冷害とかですかね」
「そこまで分かるのか。誰かと連絡を取っている、のか?」
「いえ。私がハリーナを出てからあちら側と連絡というか、交流があったのは一度きり。養父だったサリアス侯爵からの手紙だけです。それにはそういうことは書かれてなかったかと」
レオンハルト様が驚きながらも頷く。
「では何故そこまでわかる?」
そう思うのが当たり前だ。私は姿勢を正す。
「『聖女』と『聖玉』の関係です。ハリーナ王国の『聖女』『聖者』の仕事で一番重要なのは『聖玉』への祈りです」
私が話し始めるとレオンハルト様が待て、と止めてきた。
「それは私達が聞いてもいい話なのか?ハリーナ王国の機密事項とかでは?」
「あぁ多分機密事項かも知れませんね。でも私を他国へやった時点で漏らしてもいいということでは?別に話してはいけないとも言われてませんし」
ニッコリと笑ってそう言うとノアとブラウ以外の皆様は一瞬あっけにとられていたが、すぐさま戻って国王陛下にいたっては笑い出した。
「その通りだな。なら聞こうか」
では、と続きを話し始める。
「先程機密事項と言いましたが、今現在のハリーナ王国において『聖女』『聖者』と『聖玉』との関係をわかっている人はいないのではないでしょうか」
「どうして?リューが知っているのに?リューは誰に聞いたの?」
レオンハルト様がもっともな質問をしてくる。
「私は私を『聖女』と認定してくださった前大神官様にお聞きしました」
「なら他の『聖女』達も聞いているのでは?」
王太子殿下が尋ねてくる。
「今ハリーナ王国にいる『聖者』『聖女』は七人。その方々は皆、現大神官に認定されています。前大神官様に認定された『聖女』は私だけでした」
「なら今の大神官に聞いているのでは?そういったことは大神官が代替わりする時に伝えられるものでは?」
「普通ならばそうでしょう」
「……普通、ではないと?」
私は頷く。
「前大神官様は急死でした。本来なら次代の大神官を自分で任命し、育てて、引継ぎをしてから退官するのですが、何もしていない状態で亡くなられました」
皆、静かになる。
「そしてどういった方法で選ばれたかは知りませんが、国王が指定した男性が現在の大神官です。決まったその日まで私は会ったこともない人でした」
「……それは」
「ですので現大神官は何も知らないと思います。引継ぎされてないのですから。私が祈りを捧げているから大事なものという認識はあると思いますが」
「ちなみに聞いてもいいかな」
国王陛下が少し手を挙げる。
「何でしょう?」
「前大神官の死因は何だ?」
流石、賢い方々だ。理解が早い。
「………不明です。わからないままです」
「どうして?君がいれば治療が出来たのでは?」
「そうですね。でも私が国の外れの方に奉仕活動に行くように命じられて、一週間経って帰ってきた時には、既に全て終わった後でした」
私は視線を落とす。国王陛下が続けて尋ねてきた。
「君に奉仕活動に行くように命令を出したのは誰だ?」
「………ハリーナ王国国王陛下です」
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