6.馬車内にて
「じゃあおさらいしましょうか」
「「はい」」
スーラジス王国どの国境に向かう馬車の中。荷物も必要最低限ということなので、一台で行くことになり、ノアとブラウと向き合って乗っている。
せっかくの空いた時間なのでこれから行くスーラジス王国のことを勉強しながら進んでいる。
「今のスーラジス王国の国王陛下と王妃は仲が良く、三人の王子と二人の王女がいて、この王女は双子でそっくりと」
リューディアの言葉にノアとブラウも確認しつつ頷く。
「言っては何だけど、ハリーナ王国とはえらい違いね」
「本当に」
三人しかいない空間なので本音が言える。
ハリーナ王国の現在の国王陛下と王妃は仲が良いとは言えない。元々政略結婚なのもあるし、妾妃が何人もいる。
第一王子である王太子は王妃との子供だが、それ以外の王子は全て妾腹である。何人いるかもよくわからないが、私と婚約していた第二王子のナーヤス殿下も何番目かの妾妃との子である。
後ろ盾がないため、私との婚約を押し付けられたとも言う。まぁそれはそれで可哀想かもしれないが、あんな王子を押し付けられた私も可哀想だと思う……。破棄できて本当に良かった。
「話は戻して、兄弟仲も良く、第一王子である王太子を支えて第二王子が外交を、第三王子が軍を率いている、と。今から向かう国境には多分この第三王子がいるはず」
思い出しながら話す。
「こちら側は誰も来ていないけど本当にいいのかしらね」
今回捕虜交換で国境に向かっている隊列には王族はいない。私達と護衛だけだ。護衛も騎士ではなく、平民出身の兵士だけだ。
「向こう側からの指示らしいのでよろしいのではないですか?下手に気をつかうより楽ですし」
ノアの言葉にブラウも続ける。
「リューディア様のことは私達がお守りしますしね」
「頼りにしてるわ」
ニコッと微笑んで返すと二人ともおまかせください!と笑ってくれた。
『獣人』であるノアとブラウは訓練を受けているということもあるが、基本的に兵士や騎士並みに強い。武器などなくても体術だけで相手を倒せる。あくまで人相手の時だけではあるが。
『獣人』相手だと何の種類の『獣』かによる。ノアとブラウは猫の『獣人』なので身のこなしなどは速いが、どうしても軽いので大型の『獣』には不利だ。まぁ不利なら不利なりの戦い方はあるだが。
ハリーナ王国には『獣人』自体があまりいなかった。
「スーラジス王国には沢山いるのよね?」
「はい。あちらはかなりの『獣人』がいると聞いております。人数も種類も」
「王族にも多いと聞いております」
「第三王子もそうなのかしら?」
「多分。聞いた話ですと今回の戦いでも前線に出ていたようです。ハリーナの捕虜は殆どその第三王子に捕らえられたと」
「……不謹慎かもしれないけど、王族なのに前線って、本当にハリーナとは違うわね」
「「……本当に」」
ハリーナ王国の王族は国王を筆頭にはっきり言って頼りない。周りの者のおかげで国としてなんとか動いてはいるが、先頭を切って何かをやる、という者はいないだろう。
そんな王族に取り入り、自分のいいように事を進める貴族等が横行するのも無理はない。現在の神官や大神官もそういった者が多く、大きな声ではいえないが腐敗し始めているのは間違いない。
それでも国民を蔑ろにはしないはずだし、『聖女』達も一応最低限やらなければいけないことはわかっているはずだ。
―――――しなければどうなるかということも。
大丈夫だとは思う、多分。
静かに息を吐いたリューディアに気づいたブラウが尋ねてきた。
「心配ですか?」
「……ない、と言ったら嘘になるわね」
「それはどちらの国のことですか?」
そうブラウに問いかけられて、一瞬目を見開いてしまった。
「……そうね、どちらも、かしら。ハリーナはこの先きちんと誰かが祈ってくれるかしらということ。スーラジスに関しては心配しかないわね」
リューディアが『聖女』として『聖玉』に注いだ魔力はかなりの量になる。それこそしばらくは誰も祈らなくても魔獣などに対する結界は保てるだろう。あくまでしばらくだ。無限ではない。神官や大神官もそのことはわかっているから『黄金の聖女』とは言っても祈らせることはできるだろう。自分より魔力の回復には日数がかかるかもしれないが、七人もいるのだ。どうにかするだろう。問題はこれから向かうスーラジス王国だ。
「スーラジスにも光魔法の使い手は居るだろうし、何故『聖女』と交換なのかもわからない。あと捕虜としてどう扱われて何をさせられるのか、全然わからない」
両手を広げてお手上げのポーズを取ると、ブラウ達もそうですよね〜と同意する。
「ま、なるようにしかならないし。とりあえずはあの王子との婚約を破棄させてくれてありがとう、な心意気で何でもするわ」
リューディアが笑って言った頃には馬車の歩みが遅くなった。どうやら国境付近に近づいたようだ。
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