54.奥庭にて 4
「家族会議、ですか?」
そう、と苦笑するレオンハルト様。
「あれほど白熱した会議は初めてだったんじゃないかな、ってくらいでね」
何の家族会議だ?と不思議がっている私にレオンハルト様はサラッと告げる。
「どうしたらリューをこの国に連れてこられるか」
「………は?」
私を?え?どういうこと?
「……私がここに来たのは捕虜交換で…」
いや、待て、よくよく考えると捕虜交換で聖女をっておかしいよね?スーラジス王国にも聖女はいる。なら……
レオンハルト様は私の顔を見ている。
「まずは私を助けてくれた『聖女』は誰なのか?」
確かに私は黒猫を助けたと思っているから自分の名前などは告げていない。
「名前はわからない。でもその髪色と瞳の色は覚えていた。我が国の諜報員が少し探っただけで、『聖女リューディア』だと判明した」
そりゃあ白髮と銀朱の瞳の『聖女』などハリーナ王国には私一人しかいない。あっという間にわかるだろう。
「名前がわかったのであとはどういう人物なのかということだったんだけど、そこもちょっと調べるだけで色々と出てきた」
いやいや、いくら他国の王族とはいえ、そんなに簡単に私の事わかるものなの?恐る恐る尋ねてみた。
「………色々とは?」
「言ってもいいの?」
怒らない?と聞き返してきたので
「怒るなんて!寧ろどのように伝わっていたのか知りたいです」
なら、と答えてくれた。
「まず名前と年齢。孤児院出身で伯爵家の養女。大神官の指名により『聖女』の任に着く。その風貌から『白の聖女』と呼ばれる」
風貌だけではないんですけどね、と思ってしまう。
「その力と対応で庶民達からは他の『聖女』より圧倒的に人気がある。犬や猫など動物達も助けて世話をしている。そして、ハリーナ王国第二王子の婚約者」
………当たっている。凄いなスーラジス王国の諜報員。
「婚約者がいるとわかった時点で一旦諦めかけたんだけど、更に調べていくとこれは、と思ってね」
「?」
何だろう?何かありましたっけ?
「第二王子とは仲良くない」
「…………」
「殆ど交流がない、ないどころか第二王子は違う女と交流している」
「…………」
その通りです。間違いないです、流石大国の諜報員。
「なら」
「なら?」
「私にもチャンスがあるんじゃないかと」
レオンハルト様はニコリと笑った。
「そこからはいかにして怪しまれずにスーラジスに入国させるか、を考えた」
「怪しまれず、ですか?」
「そう。だっていきなりリューをこちらにくださいとも言えないでしょう?言ったら絶対に怪しまれて手放さなくなるのが見えている。その時点で肩書きだけは第二王子の婚約者だから、一般人とは違うし、『聖女』としての仕事もあるからそう簡単にはこちらには来られない」
確かにそうだ、いきなり会ったこともない(と思っている)他国の王子からそんな要求があったら怪しむ。私に何かあるのかと余計に手放さなくなるだろう。それかかなりの交換条件を出してきただろう。
「リューのハリーナ王国での立場をまっさらにしてスーラジスに来てもらうには、と何度も何度も考えた」
いやいや、私のことよりもすることはあるんじゃないですか?
「そうこうしているとハリーナ側から攻め込まれた。最初は都合が悪くなるかと考えたが、よくよく考えるとチャンスだった」
「チャンス、ですか?」
「そう。こちらが勝って、リューをこちらに渡すような条件をつければいいんじゃないかって。元々こちらの方が武力も何もかもが上だったし、勝てるのは間違いなかった。何故向こうから攻めてきたのかは今だにわからない」
その通りです。私のような武力の素人でも何故大国に攻め込もうとしたのかはわかりません……!
「あとはリューも知っている通り、戦い中に何人か捕虜を確保して、その交換条件に『聖女』を、という流れだ」
「でもあの時、『聖女』を、ってだけで私とは言ってなかったんですよね?私以外の『聖女』がやってくる可能性もあったわけですよ、ね?」
ハリーナ王国で聞かされたの三十人の捕虜と『聖女』の交換、ということだけだ。あの時点で『聖女』は私の他に五人いた。となると私がスーラジスに行く可能性はあくまで六分の一だ。必ずではない。
「そこも調べた。リュー以外の『聖女』は皆貴族の令嬢だということも。だからあの条件をプラスすればリュー以外は来ないとわかっていた」
あの条件?あぁそうだそれがあった。
『スーラジス王国に入る際にはハリーナ王国での身分、肩書き等を全て放棄してから来ること。
荷物は最低限で。衣食住に関してはこちらで準備する。
付き人は二人まで。この二人に関しても身分等は同じ条件とする。』
確かにこの条件だと他の『聖女』は誰もうんと言わないだろう。貴族のご令嬢の方々は身分を剥奪されて平民扱いになるなんて耐えられないだろうから。
私しかいなかった。
本日もありがとうございます。
明日もお待ちしております。




