53.奥庭にて 3
「……心配してたんですよ……」
[ごめん]
子獅子の姿だが、レオンハルト様が困った顔をしているように見える。
「あれからどうしたんですか?動けたかもしれませんがまだ完治していなかったですよね?」
街中の路地で自分が見つけた時はかなり衰弱していた。今思えば子獅子の姿であったということは魔力も殆どなくして、人の姿を保っていられないような事態だったということか。
あのまま自分が見つけなければどうなっていたのだろうか。
子獅子は少し考えたあとに
[とりあえず戻るね]
そう言って少し離れたところで元に戻っていった。レオンハルト様だ。髪をかき上げて整えている。
最初と同じように自分の隣に腰掛けてきた。そして一息つくとこちらを向いて、どこから話そうか、と口元に手をあてる。
「まず三年前の事だけど、あの時は本当に駄目かもと思っていたんだ」
そしてどうしてあそこにあの姿でいたのかを語ってくれた。
「あの頃はまだスーラジス王国軍の責任者になったばかりで、右も左もわからないまま、とりあえず他国の情報を集めていたんだ」
「王子自ら、ですか?」
私の質問に苦笑しながら答える。
「本来は部下の仕事なんだろうけど、自分の目でみたいというのもあったし、まぁ自分は強いから何かあっても、見つかっても逃げられる、と思っていたからね。自分の魔力を過信していた」
そういえばこの人は『獣人』で黒獅子に変わるだけでも強いはずだし、魔力もかなりあるはずだ。
あの国境で三十人の捕虜に拘束魔法を一人で掛けていた。魔力がないとあんなことはできないはずだ。
「あの時は本当に油断した。今思えば何故あんな所でと思うがな」
ある場所で警護中の兵士に見つかり追われてしまったと。その際、手と腹を切られて、どうにか逃げ切り、あの路地に辿り着いた。そして自分で怪我を治そうとしたが魔力も少なくなっていて、気を保つのも難しくなり、『獣化』してしまったと。それも黒獅子ではなく子獅子の姿まで戻ってしまった。
意識を失いかけた時に温かい何かが身体に触れた。
「温かい、と思った瞬間気を失った。それがリューだったのだと思う」
そういえばあの黒猫を抱き上げた時、一瞬目を開けたような気はする。
「次に目を開けた時は部屋の中だった。暖かい部屋で清潔なシーツの上にいて、ハッと思って傷を確認すると出血も止まり、それどころか傷口も塞がっていた。まだ子獅子の姿なのにも気づいたがそこまでは魔力が戻っていないのだろうと推測した。それが結果オーライだったわけだが」
確かに。流石に黒猫を拾ったのに黒獅子が部屋にいたら、いくら私でも怪しむだろうな。
「そしてそのあと部屋に君が入ってきて、傷口を確認しながら世話をしてくれた。とても優しくて嬉しかったんだ。でもここに長居はできないし、早めに他の仲間に連絡もしたかった。だから動けるようになった三日後にすきを見て逃げ出したんだ。お礼も言えずにとても心苦しかった」
「いえ、お礼なんて!」
「あの時聖女が、リューがこの傷を治してくれたと聞いてとても嬉しかったし、同時に申し訳ない気持ちで一杯だった」
「申し訳ない?どうしてですか?」
「傷跡が残っていたから」
「あ」
「聖女なら傷跡も無くせるはずなのに、残っているというのは不思議でね。もしかしたら傷を塞ぐのに魔力を使い切ったんじゃないだろうかと。この少女にかなりの負担をかけてしまったんじゃないかって」
思ったんだ、とボソッと呟いた。
「でもこの前の傷跡の治し方を聞いて、あぁそうだったんだ、と。わざと残してたのかと」
「……ごめんなさい、一気に治さなくて」
レオンハルト様は横に首を振る。
「いや、反対にこの傷跡を見るたびに思い出すからちょうどいいくらいだ」
いい戒めになる、と苦笑する。
「その後、国に戻って傷を見てもらった医療師に完璧に治っていると、傷跡はやはり魔力不足では?と言われて」
「すみません、私独自のやり方なので……」
申し訳ない、こんな治し方をしているなんて誰も思わないだろう。
「そのこともあったんだけど、帰国してから君の顔が頭から離れなくて」
「………え?」
レオンハルト様は少し照れたように笑う。
「手当てをしてもらっていた三日間の君の笑顔が忘れられなくて。何をしてても思い出すんだ」
「………」
「執務をしていても何だか様子がおかしいと気づいたサナハトが兄上達に相談したらしく、どうしたんだ、と皆につめよられて正直に話した」
え?え?正直に話したって?何を?頭の中に?マークが飛びまくっている。
「そうしたら家族会議が始まった」
本日もありがとうございます。
明日も更新予定です、お待ちしております。




