51.奥庭にて
向こうもこちらに気づいたようだ、満面の笑顔でこちらにやってくる。
「とても嬉しそうね、分かり易いわ」
ヴィラス様はクスクスと笑いながら
「じゃあまた明日ね」
と言ってお付きの方々と一緒に自室に向かっていった。ここには自分とノアとブラウが残った。目の前にレオンハルト様が立つ。後ろにはサナハト補佐官もいる。お仕事中の移動だろうか。
「お疲れ様、リュー。侯爵夫人の様子はどう?」
「………」
「リュー?」
「あ!すみません、ジュリア様は大丈夫です。少しずつ起き上がってもらうようにとお願いしてきました」
「なら良かった。義姉上がナースタッド侯爵に言って一ヶ月いるように手配したそうだね」
「はい、そのように伺ってます。明日から刺繍や編み物を一緒にするそうです」
どうしよう、気になることがありすぎて受け答えが頭に入ってこない。大丈夫だ、落ち着け、落ち着け自分。
やはりいつもと様子が違うと感じ取られたようで、レオンハルト様はサナハト補佐官に何かを告げると、少しだけですよ、と補佐官は一人でどこかに行ってしまった。
「リュー、少しだけ散歩に付き合ってくれる?予定ないよね?」
「……予定はない、ですが」
どうしよう、気をつかわせてしまったようだ。
「じゃあノアとブラウは先に部屋に戻っててくれる?少し散歩してくるから」
「「かしこまりました」」
二人は綺麗にお辞儀をする。私の横を通り過ぎる時にブラウがそっと耳打ちしてきた。
「お気になることは聞いておいたほうがよろしいですよ」
「……!」
ノアもブラウもニッコリと笑って去って行った。この場にはレオンハルト様と私、二人だけになった。
「何?」
「いえ、何でもないです」
慌てると余計に不審がられるというのに。落ち着け自分。ならいいけど、とスッと手を前に出してきた。
「行こうか」
「……はい」
その手を取って並んで歩いた。
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数分前にレオンハルト様の手を取ったことを少し後悔しているかもしれない。
―――――目立ちすぎる。
いや、わかってはいました。元々お一人でも多分目立っていたでしょう、レオンハルト様は。
そして横に私がいて、さらに手を繋いでいて、レオンハルト様のお顔もとてもご機嫌麗しい。王城内にいるご令嬢方々が見に来ないわけがないのだ。
未だに私との婚約を認めていないご令嬢方も多々いるだろう。あわよくば私を蹴落として自分がこの立ち位置につきたいご令嬢はさらにいるだろう。すみません、こんな女が横にいて、という感じだ。
でもこんなに見られたり、ついてこられたら話などできやしないな、と思っているとクイッと通ったことのない方へ連れていかれた。どこに向かっているのだろうか。
どんどんと王宮の奥に向かって行っているようだ。衛兵が立っている扉の前に着くとレオンハルト様が何やら声をかけている。
了解とばかりにその扉が衛兵の手によって開けられた。心地よい風がフワリと舞い込んだ。
「……わ!」
思わず感嘆の声が出た。
とても綺麗な花々が目に入ってきた。色とりどり、かといってバラバラな感じではなく、統一された感じで整えられている庭だ。
「……すごい、綺麗」
「良かった。綺麗でしょう、ここ」
「はい。ここは一体……」
足元気をつけて、と言われて少しの段差を下りる。石畳や芝生が広がっている。そのまま奥の方まで歩くとガゼボが見えた。これまた庭の雰囲気に調和している。中に案内され、座るよう促されたので従った。
レオンハルト様も横に座ってきた。中々距離が近い。
「ここはね」
まわりを見渡していた私に声をかけてきた。
「王宮の奥庭。王族専用だから煩い者は誰もこないよ」
そんな所があったんだ。
「衛兵にもしばらく誰も入れないように頼んだから」
王族の方々も誰もこないということか。
心地よい風がまた吹いてきた。静かな時間が過ぎる。
「……何か」
「……?」
「言いたいことがあるんじゃないかと思って」
――――バレてる。
私が挙動不審なのもあってか、全てお見通しだったようだ。そして誰もいないこの場所に連れてきてくれたのか。
『分からないことは直接尋ねるのが一番ですよ』
ノア達の言葉が頭に浮かぶ。ふぅと深呼吸をして姿勢を正す。
「レオ様にお尋ねしたいことがあります」
「何でしょうか?」
「レオ様と私が会ったのはこの前の国境の所が初めてでしょうか?」
彼が少し目を見開いたのがわかった。
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