50.客室にて 4
ん?どうかした?といった顔でヴィラス様がこちらを見る。ベッドの上のジュリア様も笑っている。
はたからそう見えるのであれば、ある意味婚約者(仮)の役割も果たせているのかと思いつつ、あれでもヴィラス様って知っているんじゃなかったっけ?でもジュリア様は知らないしな、とおでこに手をあてて、考える。うーん。
「本当ならどこに行くにしてもリューディアに付いていきたいのでしょうけれども、流石にここにはね」
とてもにこやかな笑顔のヴィラス様だ。さらに興味津々で尋ねてくる。
「教会に行くときも一緒に行くの?」
「あ、いえその時はノアとブラウが一緒ならと言われています」
「なるほど。じゃあ今もなのね」
後ろに控えている二人を見る。はいと答えるとそういえばとさらに質問は続く。
「彼女達も『獣人』なのよね?」
「はい、二人とも。猫です、黒猫と茶猫になります」
「それってすぐになれるの?」
「あぁ『獣化』ですか?大丈夫だとは思いますけど」
ヴィラス様からの問いかけにノアとブラウの方を振り向いて確認すると二人共頷いている。
「見せてもらえるもの、なのかしら?リューディア以外には見せないとかあるの?」
もう一度二人を見ると、いえ全然、と返ってきた。確かにそんな契約はしていないし、見せられないものでもない。
「大丈夫ですけど」
「なら見てみたいわ!」
ヴィラス様のお願いにだめとは言えず、ジュリア様にも猫は大丈夫かと聞くと、寧ろ好きだと言われたので問題はない。二人にお願いしてもいいかと尋ねるともちろんです、と返ってきた。
「「では失礼いたします」」
ノアとブラウ、二人同時に声が出たと思ったら、輪郭が崩れてあっという間に二匹の猫が現れた。
「いやー可愛い!」
ヴィラス様が叫ぶ。王太子妃殿下の立場と振る舞いはどこへ………?まぁ仕方ないか。
「膝に乗ってもらってもいい?」
「よろしいのですか?」
「もちろんよ!」
許可を頂いたので、なら、とノアにお願いすると華麗にジャンプしてヴィラス様の膝の上に乗る。もちろんドレスには傷をつけないように。可愛い可愛いと撫でている。
ジュリア様も瞳をキラキラさせて、うずうずしていたので、尋ねてみた。
「ベッドに乗ってもよろしいですか?」
「……いいのかしら?」
「いいわよ!」
ヴィラス様が許可してくれたので大丈夫だ。ブラウがこれまた華麗なジャンプでベッドに上がる。
「撫でても?」
ブラウが頷いているので、どうぞと促す。どうやら獣系と触れ合う機会はあまりなかったようでおずおずと撫で始めた。
「……柔らかい」
「本当に。凄いきれいだわ」
ヴィラス様は慣れた手付きでノアを撫でている。あぁそうか王太子殿下も『獣人』で獅子だと聞いている。なら、扱いは慣れているのだろう。獅子ならかなり大きいはずだ。猫などお手のものだろう。
「普通の猫よりかは少し大きいのね」
「そうですね。でも『獣化』の猫の中では小さい方だと聞いてます」
「へぇそうなの?そういえばジークの『獣化』よりも少し小さいわね」
「王太子殿下ですか?」
ジュリア様の問いかけにヴィラス様はそう、と笑って答える。
「ジークハルト王太子殿下は獅子ではないのですか?」
「そうよ、レオンハルト殿下と同じ。色が違うだけね。リューディアも見たことあるんでしょう?獅子の姿は大きいけど、一番小さい姿になると猫と一緒よね」
――え?
「………猫ですか?」
「そうよ、いわゆる子獅子の姿ね。耳の形がちょっと違うのと、手足が太いくらいかしら?パッと見た目は猫みたいよね?」
猫。子獅子。黒。
あれ?何かが繋がる。
「どうかした?リューディア?」
「あ、いえ、何でも」
慌てて首を振る。
「王太子殿下やレオンハルト殿下は獅子の姿の大きさが変わるのですか?」
ジュリア様がヴィラス様に尋ねている。
「そうね、獅子の姿だとそこまで小さくはならないけど、鬣をなくして子獅子の姿だと今のこの二人より少し大きいくらいかしら?私でも抱きかかえることができるもの」
「そうなのですね」
二人の会話がまるで頭に入ってこない。
「………ア、リューディア!」
「……は、はい!」
「大丈夫?気分でも悪い?」
「大丈夫です。すみません」
「ならいいけど、無理しないでね」
しばらくノアとブラウを堪能したヴィラス様はじゃあまた明日ね、と言って立ち上がる。
「明日からジュリアはベッドの上でなら刺繍や編み物してもいいかしら?」
「そういったことなら大丈夫です」
「なら一緒にできるものを持ってくるわね」
ノアとブラウが侍女姿に戻る。ではまた、と皆でジュリア様の客室を出る。ヴィラス様は自室に戻るという。なら私も戻ろうかと思っていると向こうからレオンハルト様が歩いてくるのが見えた。
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