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5.孤児院にて


 サリアス伯爵邸をあとにし、すぐ近くにある建物に向かった。


 リューディアとノアが門に近づくと中にいた何人もの子供達が二人に気づき、わぁーっと走ってきた。


「リューお姉ちゃん!ノアお姉ちゃんも!」

「遊びに来たの?」

「こっちこっち!」


 眩しいくらいの笑顔で子供達はリューディアとノアの手を引っ張る。二人もされるがままだ。すると建物の扉が開き、中から女性が二人出てきた。リューディアと変わらないくらいの年齢の女性と初老近くの女性だ。


「リューディア様いらっしゃいませ」

 初老の女性が声を掛けてくる。

「タリス先生、様は止めてくださいと」

 苦笑しながらリューディアがそう告げると先生と呼ばれた初老の女性も微笑みウィンクをしながら

「一応ね、子供達の手前もありますから。さぁお入りなさいな」


 ここはサリアス伯爵がオーナーをつとめる孤児院だ。リューディアもここの出身である。『聖女』になってからも時間を作っては顔を出している。タリス先生はここの代表であり、リューディアを育ててくれた方でもある。


 建物の中に入り、応接間に案内される。ノアと並んで座り、向かい側に先生ともう一人の女性が座る。


「今日はどうしたの?わざわざ先触れまで出して。いつ来てもいいのに」

 優しい声で尋ねられるとリューディアははにかんで、実は、と昨日からの一連の流れを話し始めた。



「え?!じゃあリューディアは明後日からスーラジス王国に向かうということ?」

 タリス先生の隣に座っていた女性が驚きの声を上げる。

「そういうことになるわね」

 ノアと二人で頷き答えると女性はなおも続ける。

「いやいや待って待って。戦争なんてお偉方が勝手に始めたことでしょ?なんでリューディアが尻拭いしなくちゃなんないの?おかしくない?」


 誰よりも驚き、怒ってくれているこの女性はレジーナといい、彼女もまたここの孤児院育ちでリューディアと同じくらいにここに来た。そしてそのまま孤児院のお世話係をしている。


「ハリーナ王国としても他の方法を考えていたんでしょうけど、あちら側からの申し出にこれ幸いと受けたんでしょうね。だって私一人と三十人だもの。貴族の方々から反対も出ないでしょうし。サリアス伯爵だけは食い下がってくれたみたいだけど、所詮王命には勝てないわよね」

「……三十人って、凄いわね。でも何で『聖女』なんだろう?向こうにもいるわよね?リューディアを、ではないのでしょう?」

「『聖女』をと言われたしか聞いてないけど。でもあの条件だと私以外はない、と思うわよ」


 まるで最初から私をと言っているような条件だ。


「リューディアはスーラジス王国には行ったことあるの?誰か知ってるとか」

「……ない、とは思う」


 記憶があるのはこの孤児院からなのだ。もちろんその前のことなどわからない。


「でも大丈夫なの?捕虜の方の代わりってことはリューディアが捕虜の扱いになるってことじゃないの?」

 タリス先生が心配そうに尋ねてくる。

「そうかもしれませんが、まぁ私はどうにかなりますし、ノアとブラウには何かあったらすぐに逃げ出すようにと言ってありますから」

「無理しちゃだめよ」

「はい。あ、お二人に頼みたいことがありまして」


 何かしらと聞いてくる二人にノアが鞄からいくつか箱を出してきた。


「これなんですけど」

 リューディアはにっこり笑って説明を始めた。




 ~~~~~~~~


「では、お願いいたします」

「わかったわ。気をつけてね。あ、そうだ、裏庭寄っていくわよね?」

 はい、と返事をして皆立ち上がり部屋を出る。タリス先生を先頭に廊下を歩く。裏庭に出る扉に近づくと子供達の楽しそうな声が響いている。


「あ、リューお姉ちゃん」

「皆元気かしら?」

「元気だよー!猫ちゃんも犬ちゃんも」


 裏庭の一角にある小屋を覗くと二人の女の子が一生懸命子猫の世話をしている。小屋の周りにも何匹か猫が気持ちよさそうに日向ぼっこをしているのが見える。


「リューディアのおかげで今まで何匹もの動物を助けてこれたわ。子供達も世話をすることによって生命に向き合えるしとてもいいことだと思うわ」

 タリス先生が微笑みながら話す。


 ここにいる犬猫達は野良の状態だ。怪我をしたり弱っている子達をリューディアが保護して連れてきて、健康状態が良くなるまで面倒をみる。孤児院内に建てて、リューディアが来れない時は代わりに孤児院の子供達にお世話を頼んでいる。そして元気になったら里親を探すか、周りで自由に暮らすか、を考えている。

 

 元々動物好きなこともあり、街中で弱っている動物をほおっておけないのだ。ならばきちんとお世話してあげたい、と『聖女』の奉仕の一環です、と言ってこの建物を建てた。


 実はノアとブラウも子猫の姿で弱っていた所を街に来ていたリューディアが見つけて看病した。完全に治ったときに『獣人』とわかった時は皆驚いた。


 ノアとブラウは拾って看病してくれたリューディアに対して恩を感じて、二人共志願して、訓練をして今現在リューディアの侍女としているのである。

 今の所、拾った子が『獣人』だと判明したのは彼女らだけである。


 リューディアは小屋の中にいる猫達に近づき、優しく撫でる。とても気持ち良いのか目を細めている。


「今ここにいる子達の中には『獣人』はいないかしら?」

 隣にいる『獣人』であるノアに尋ねる。

「……そうですね、この中にはいないかと」

「私が保護した子達は全員元気になったわよね?あ、違うか、一人?一匹途中でいなくなった子いたわね。黒色の子猫だったような……」

「……あの子は」

「リューお姉ちゃん!こっちよ!」

 子供達がリューディアとノア、二人に声をかけてきた。

 こっちこっち、と手をつないで引っ張られる。リューディアは世話をしてくれている女の子達に向かって


「しばらく来られないけど頼むわね。何かあったらサリアス伯爵に相談してね」

「はい、もちろん」

 レジーナが力強く答えてくれる。


「じゃあ、あとはよろしくね」


 そう言って孤児院をあとにした。



 


毎日更新のペースにようやく戻れた気がします。5ヶ月ぶりの長編連載、頑張りますのでよろしくお願いいたします。


評価★★★★★、ブクマ、いいね等お待ちしております。

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