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49.客室にて 3


 ナースタッド侯爵の前夫人は侯爵と幼なじみで伯爵令嬢だったため、小さい時から婚約し、18才になり結婚したという。ただ夫人の方が身体が少し弱かったこともあり、中々子供を授からなかった。

 侯爵はそれでもいい、後継ぎは養子を迎えればいいのだからと言っていたらしいが、やはり周りからは色々と言われていたとのこと。

 元々の身体の弱さもあり、病気がちになっていった夫人を何とかできないかと思っていたが、仕事も忙しく、中々構うこともできないまま時間だけが過ぎていった。


 八年前には大病を患い、気づいた時に侯爵は必死で手をつくしたらしいが、すでに遅かった。


 もちろんその時の『聖女』にも診てもらって、治療してもらったらしいが完治は無理だと。遅すぎた、と言われたらしい。最後の痛みだけは取り除けると。


 

 ――――そうなのだ。『聖女』は万能のように言われるが、そこまでの治癒力はない。あくまで本人の生きたいとの意思があって、その者の体力の底上げを手伝うようなものである。

 病気に侵され、日にちが経ってしまうとどうしてもその意思も侵され、底上げする体力も無くなってしまう。


 だから全ての者を助けられるわけではないのだ。怪我も病気も早ければ早いほど治癒力は上がるし、完治させられる率も上がる。


「そこまで気づいてやれなかった自分が許せないと、仕事を理由にして誤魔化そうとしてもできないと。何故もっと早く診せなかったのか、変わっていく、弱っていく姿を見ていたはずなのに。いくつもの理由を考えて、奥様にも何度も謝ったそうですが、奥様はただ一言だけ告げて亡くなったそうです」


  『幸せになってね』


 最後にそう言って、笑って亡くなった、と。痛みは無くしたため、綺麗な微笑みのまま。その言葉と微笑みがずっと頭から離れなかったらしい。


「八年経ち、大分落ち着いてきたからと、私との話を受け入れてくれたのですが、言わないわけにはいかないからと結婚する前に全て話してくれました。それでもよければ、と言われましたが、私はそのままの侯爵でいてくださいと、前夫人のことは忘れずにいてくださいと伝えました」


 ジュリア様も強いお方だ。中々言えるものではない。


「リューディア様に夜会で強くあたられたことは多分自分でも間違っているとわかっていると思います。ただ」

「ただ?」

 ジュリア様が少し困ったような顔をする。ヴィラス様が付け加えてきた。

「聖女不要論の一派かしら?」

 その通りです、とジュリア様が頷く。聞いたことのない言葉に思わずなんですか?と聞き返してしまった。


「ハリーナ王国にはなかったかもしれないけど、スーラジスの貴族の中に聖女は不要と言う輩がいてね。まぁ結局は自分の所から出せないから僻んでるだけなんだけど」


 そんな考えがあるのか。まぁ使っているのは光魔法なだけであって、魔法使いとやることは変わらないと言われればその通りなのだが。


 ヴィラス様の説明に頷いているとジュリア様も続ける。


「前夫人のことをどこからか聞いてきたその一派がやはり聖女など役に立たないと旦那様をけしかけてしまって。確かに治せなかったけれども、最後笑って往けたのは聖女様の力のおかげだったということもわかっているのです。旦那様は心の中でずっと葛藤しているのだと思います。夜会でのことは代わりに謝罪いたします、本当に申し訳ありませんでした」


 そういう理由か。どうりで色々と違和感があったはずだ。私の事を嫌う人が放つ気とは何かが違うと思っていた。

 

「私は全然気にしてませんし、ジュリア様をこうやって診させてもらえてるということは私のこの仕事を認めてくださっているということですから」

 笑ってそういうとジュリア様もありがとうございます、と笑ってくれた。


「でも何だかんだ言っても侯爵はジュリアのことが大事なのよね」

 ヴィラス様の言葉に、え?と慌てるジュリア様。確かにそんな見たわけではないが、ジュリア様に対するナースタッド侯爵はとても優しいと思う。


「……私の事はそれこそ義務みたいなもので」

「でもそれこそ八年も独り身だったのに娶ったということは他のご令嬢とは何かが違ったのよ、きっと」

「………そうでしょうか?私、ご迷惑をかけてばかりで」

「大丈夫ですよ、ナースタッド侯爵は間違いなくジュリア様のこと愛してますから」

 いきなり会話に入り込んだ私の言葉に二人とも驚いた。

「どうしてわかるの?」

 ヴィラス様が興味津々に聞いてくる。


「確実、ではないのですがその方の気ですね。嫌いな人に対応している時と好きな人に対応している時では全然違います。ナースタッド侯爵がジュリア様に対応する際、とても綺麗な優しい気を感じます。ですので愛されてるのは間違いないです」


 ジュリア様は頬を押さえている。するとヴィラス様が私には


「リューディアも愛されているわよね。レオンハルト殿下の行動がとても甘いもの」


 思わず吹き出しそうになった。いきなりこちらに振られるとは。


 




本日もありがとうございます。

明日も更新予定です、お待ちしております。

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