48.客室にて 2
そこまで強い魔法はかけていない。少しの回復魔法だけだ。ゆっくりと目を開けて光が消えたことを確認する。
「痛みとかはないですか?」
「全然ありませんし、むしろとても身体が軽く感じます。これが聖女様のお力なのですか?」
横になっているジュリア様が尋ねてきた。横に座っているヴィラス様も興味津々である。
「そうなのですかね。私自身他の人からの光魔法を受けたことがないのでその感覚がどのようなものかはわからないのですが、そう感じていただけると嬉しいですね」
もう一度ジュリア様の手を握り、身体の中を感じとる。うん、大丈夫そうだ。
「どう?ジュリアの体調は?」
ヴィラス様が尋ねてきたので、そうですね、と感じた事を伝える。
夜会の後、一応医療師にも診てもらい懐妊は確認できている。
「ジュリア様自体の身体は殆ど回復しておりますし、貧血状態もかなり改善できていると思います。お腹の中の御子の感覚もかなり強くなっていますので一先ずは大丈夫かと。少しずつ動いていただいても大丈夫かとは思いますがなるべく安静の方がよろしいのですが」
ナースタッド侯爵に最低でも三日と言ってあるので、もしかしたら今日明日にでも迎えにくるかもしれない。大丈夫だとは思うが本当は一ヶ月程度、いや少なくとも二週間ほど、と思っているとヴィラス様が明るく告げてきた。
「ジュリアはあと一ヶ月ここで静養ね」
「「え?」」
私もジュリア様本人も驚きの声を上げるとヴィラス様はニッコリと笑って
「大丈夫、さっき侯爵には許可もらったから。もちろん名目上は私の相手ね」
「え、でも、そんな」
慌てるジュリア様にヴィラス様は
「屋敷に帰ってもゆっくりできないでしょう?ならここで私と共に身体を休めましょう?ナースタッド侯爵が許可を出したってことはあなたのことをちゃんと考えてくれてるからよ、心配しなくていいわ。それにここにいたほうがリューディアも来てもらいやすいし」
「それはそうですね。私も安心です」
私の同意にジュリア様は昨日から付いてくれている侯爵家から来た侍女の顔を見る。侍女が笑って頷いてくれたのでジュリア様もよろしくお願いいたしますと言ってくれた。
「なら、少し起き上がってもらっても大丈夫ですよ。無理はしないでくださいね」
そう許可を出すと、じゃあ少しだけと身体を起こす。
身体に良いお茶を準備してもらい、頂きながらジュリア様のお話を聞かせてもらった。
ジュリア様はまだ22才だった。ナースタッド侯爵は38才らしいのでかなりの年の差だ。二年前にナースタッド侯爵の後妻として嫁いできたらしい。前の侯爵夫人は八年程前に病気で亡くなったとのこと。子供はいなかった。
後継ぎをと言われて何人も後妻の話が出ていたらしいが、前の夫人が忘れられなかったのか中々首を縦には振らなかったらしい。
しかし二年前、ジュリア様の実家の男爵家がかなり困窮し、困っていたところを遠縁でもあったナースタッド侯爵が援助を申し出てくれた。その際男爵が代わりといってはなんですが、とジュリア様を娶って欲しいと言ったところ、何故かナースタッド侯爵は頷いた。
リューディアはそんな人身売買みたいなとも思ったがよくよく聞くとジュリア様がお願いしたらしい。何度か屋敷に通っていた侯爵に一目惚れしたのだとか。お父様にダメ元でお願いしてもらったところ承諾してくれた。
申し込んだ本人が一番驚いたという。
ナースタッド侯爵はとても大事にしてくれて、ジュリア様は後継ぎを思っていたが、中々授からず、侯爵からも気負わないでいいとは言われた矢先の懐妊だそうだ。それは侯爵も嬉しいのでは、と思ったがジュリア様の顔は少し浮かない顔をしている。
「何か心配事でも?」
そう尋ねると一瞬躊躇したが、聞いてもらえますか?と口を開いた。
「旦那様の、侯爵の心の中には前の夫人がずっと残っていらっしゃいます。私の事も大事にはしてくださってますが、一番は前夫人なのです」
下を向き、寂しそうに声を出す。
「それでも他のご令嬢には頷かなかったのに、ジュリアを選んだのは侯爵でしょう?」
ヴィラス様の問いかけにジュリア様は顔を上げる。
「それは……どちらかといえば同情に近いかと。それに侯爵は前夫人に対して後悔というか、心残りがありますので」
「……尋ねても?」
「……もしかしたら助けられたかもしれない、と」
どういうことだろうか?
「ジュリアの体調さえよければ、話してもらっても?」
ヴィラス様の言葉に頷くジュリア様。自分もジュリア様を診たが体調や気に問題はなさそうだ。そのことを伝えるとジュリア様は少し俯き加減で微笑みながら声を出してきた。
「……聞いていただけますか」
凛とした声のジュリア様を前に、一度姿勢を正した。
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