47.廊下〜客室にて
あの夜会から二日後、私はジュリア様が過ごしている客室を目指している。ノアとブラウも一緒だ。
一人で行けるとレオンハルト様に言ったのだが、だめ、と却下され、かと言って侯爵夫人の部屋にレオンハルト様が同席するのも、ということでノアとブラウが必ず一緒に行くこと、と条件付きで王宮内の移動の許可が出た。
夜会でレオンハルト様の婚約者であると発表されたため、王宮内を歩いているだけでかなりの視線だ。それも他のご令嬢のようにドレスを着ているわけでなく、聖女としての仕事があるからと動きやすい、どちらかといえば文官として働いている方の制服と似ている服を着ているのと、その髪と瞳の色でどうしても目立ってしまう。まぁハリーナ王国でも同じような対応と視線だったので慣れてはいるが、婚約者という肩書きでいきなり現れたため、その姿を一目見ようと視線がかなり増えている。
同じ『婚約者』でも相手が違うからなぁ。
自室からジュリア様の客室までのそう遠くない移動でも目立っている。レオンハルト様は騎士の護衛をつけたかったようだが、それだけは、と許してもらった。
ノアとブラウは護衛としてもかなりの腕前だし、獣化して猫の姿になったらなったで、また違った力がある。
そして自分も自身のことぐらいは守れるだけの力はある。それこそ攻撃系も防御系もそれなりに、いや人並み以上には使える。だから大丈夫と言ってはいるのだが。
ふぅと溜息をつく。
「どうかなさいましたか?お疲れですか?」
後ろからノアが話しかけてきた。前を歩いていたブラウも振り返る。
「疲れはないわ。ただ」
「ただ?」
「……どうしてレオンハルト様はこんなに過保護というか、よくしてくれるというか、そのなんていうのかしら、わからなくて」
ノアとブラウが目を合わせている。
「ご迷惑なのですか?」
「そんなことないわ!むしろ……」
「むしろ?」
ノアとブラウがグイグイと迫ってくる。
「……うーん、何で私なんかに?って感じかしら」
婚約者とは言え(仮)の、言い寄ってくるご令嬢方からの盾なだけである、はずだ。それなのに……。
下を向いてうーん、と考えながら歩いているとブラウがニッコリと笑って
「気になりますか?レオンハルト殿下のことを」
「え?」
単刀直入に言われると動きが止まる。
「気にはなってらっしゃいますよね?」
ノアも容赦ない。少し顔が赤くなるのがわかる。
「……気に、ならないというわけではない……かな」
「それなら良かった。もしよろしければ、レオンハルト殿下に直接お尋ねになったらいかがですか?」
「直接?な、何を?え?」
「そこはリューディア様自身でお考えくださいませ。でも分からないことは直接尋ねるのが一番ですよ。手っ取り早いですから」
そうこうしていると客室の近くまできていた。向こうからも誰かが近づいてきているのがわかる。
「リューディア!」
「ヴィラス様」
お元気そうだ、良かった。侍女と騎士もいる。
「今からジュリアのところかしら?」
「はい」
「なら一緒に行きましょうか」
あの夜会の後、ジュリア様の色々なことを手配してくれたのはヴィラス様だ。私がコソッと「客室とか準備できますか?」と尋ねると、大丈夫と言ってくれた。
そしてその言葉通り、何もかも準備してくれたのだ。ジュリア様が客室に入った後、自分の侍女と女官に指示を出し、ゆったりとした着替えを用意させ、すぐさま「こんなものしてたらだめよ!」とコルセットを外させた。
慌てるジュリア様とナースタッド侯爵に
「はい、ジュリア様、もうジュリアでいいわよね?ジュリアは動かない!侍女らに任せて。ナースタッド侯爵は今日はもう帰って、大丈夫だから。明日また来てちょうだい。あ、その時はジュリアの専属の侍女がいるのなら連れてきてちょうだいね。その方が彼女も安心だろうから」
あっけにとられるナースタッド侯爵だったが正論だったため何も言えず、お願いいたしますとだけ頭を下げて帰ったらしい。そして次の日にはジュリア様と仲の良い専属侍女を一人連れてきた。
私にはなんだかんだ言っていても妻のことは大切なんだなぁと思ってしまった。
「ジュリア、入るわよ」
ヴィラス様の声掛けに中からも了解の声が聞こえて、扉が開いた。
「ヴィラス様、リューディア様」
ベッドの上で寝たままの姿勢でいるジュリア様が目に入る。顔色はだいぶ良くなってきた。私達が入ってきても、誰が入ってきても起き上がらないこと、という言いつけをきちんと守っている。
最初はヴィラス様や私が来る度起き上がろうとしたが、それはだめです、と私が注意するとヴィラス様もその通りよ、と許可してくれた。
「お邪魔するわね。顔色は良さそうで良かったわ」
「ありがとうございます。とても楽になりました」
ヴィラス様が私の方をみて促してきたので失礼しつつ、ジュリア様の横に座り、手を握る。
「では、今日の分治療しますね」
「よろしくお願いいたします」
魔力を込めると光が部屋に広がった。
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