46.控室にて 3
私の一言で気づいたのかジュリア様はお腹辺りに手をあてた。
「あ、え?」
ジュリア様の動作でやっと気づいたナースタッド侯爵は変な声を出す。そして二人で見つめあってから、私の方を見た。
「確実にしたいのでこの後医療師の方にも診察してもらいたいのですが、ただ」
「ただ?」
ナースタッド侯爵は前のめりに尋ねてくる。
「ジュリア様の体調のこともありますが、私がジュリア様の身体の中から感じとれる力が非常に弱いのです」
「?」
侯爵の眉間に皺が寄る。どうしてもジュリア様の不調の気の方が強く、先程のように手を繋いでみて初めて自分も気づいたのだ。
夜会の間、感じていた気もジュリア様自身の気だ。
ちなみにヴィラス様はご自身の体調は悪くないので、身体の中からの子供の気も手を繋いだりしなくてもきっちりとわかるくらいだ。
同じような月齢だとは思うが育ち方に差がある。元々の体力や資質にもよるが。あとはストレス、とか。チラッとナースタッド侯爵の顔を見る。
「ですので今までの経験上から言わせていただきますと、ジュリア様に現在必要なのは休息です。それも絶対安静です。最低限の事以外は何も動かずに。ベッドの上で生活して頂きたいのです。とりあえずもう少し身体の中の気が安定するまでは。馬車のような振動はもってのほかです」
「……どれくらいの間だ?」
「そうですね、出来れば一ヶ月程度ですが、このまま王宮に留まっていただいて、安静にするのと私が毎日光魔法をかけさせていただいて、貧血などの治療をさせていただければ、うまくすれば一週間くらいでご自宅に帰ることができるかと」
「……一週間」
はい、と答えると少し何かを考えたナースタッド侯爵が尋ねてきた。
「だが、ここに留まるとなると、その」
まぁ確かに侯爵夫人がいきなりご自宅に帰らずに王宮内で過ごし始めたらどうなるか。周りからどんな風に見られることか。するとヴィラス様が明るく話に入ってきた。
「理由があればよろしいんでしょう?」
皆が彼女の方に注目する。
「しばらく私の話し相手になって欲しいの」
「……王太子妃殿下の話し相手……?」
「そう、ここだけの話にしてくれると嬉しいのだけれども」
ヴィラス様がそう切りだすとナースタッド侯爵もジュリア様も内緒話に了解したと、頭を下げてきた。
「私も安静にしていなければならなくて。公務もなくて暇なの。ジュリア様の客室、私の部屋の近くに準備させてもらうから是非、ね?」
ここまで王太子妃殿下に言われたら断る理由もないだろう。王太子も承諾した。そうと決まればあとは早かった。あっという間にヴィラス様の私室の近くの客室が準備され、ジュリア様はナースタッド侯爵によって運ばれていった。
ヴィラス様が「私にまかせておいて。明日よろしくね」と言ってウィンクをしてきたので、お願いします、と頭を下げて見送った。
ふぅと息をつくとレオンハルト様がお疲れ様と近づいてきた。
「大丈夫?髪の色は変わってなさそうだね」
「そこまでは。軽く回復魔法を使っただけですから」
「なら、もうちょっとだけ頑張ってくれる?」
「?」
今更何を頑張るのか?考えていることが顔に出たのか、レオンハルト様はフッ戸笑った。
「夜会はまだ続いていてね。最後に顔を出して、もう一度だけ踊ってくれる?」
そうだった、ジュリア様とナースタッド侯爵のことで忘れていたが、今日は夜会だったんだ。レオンハルト様の差し出された手に自分の手を重ねた。
「もちろんです。よろしくお願いいたします」
二人で広間に戻った。私やヴィラス様、ジュリア様がいなかったことなど誰も気にはしてなさそうだ。
では、とエスコートされて、ちょうど始まった曲にのせてステップを踏みはじめた。最初よりも少しゆっくりな曲調だ。余裕をもって踊ることができる。笑顔もどうにか作れている、と思う。
周りからの視線は相変わらず痛いが。
「リューは」
「はい?」
レオンハルト様の優しい声に顔を上げて答える。
「彼女が誰かわかっていたの?」
「彼女?あぁジュリア様のことですか?」
「そう。ナースタッド侯爵夫人だって知っていて助けたの?」
「いえ、全然。目の前で倒れられたら放おっておくわけには行かないですし、私にできることなら、と。どなたでもすることは変わりませんしね」
その言葉を聞いたレオンハルト様は優しく微笑み
「本当にリューは昔から変わらないんだね」
「………?昔?」
昔って、と問いかけようとしたところでちょうど曲が終わった。スッと促されて挨拶をし、エスコートされながら壁際に向かって歩く。気になったことを尋ねようと、あの、と声をかけたが、ニコッと微笑まれてかわされた。
その後国王陛下と王妃様に退出の挨拶をして夜会の広間をあとにした。
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