45.控室にて 2
「一体何があったんだ?何故ここにいるんだ?広間にいろと言ったではないか」
「……申し訳ございません」
そんなに強い語気で質問攻めにしたら謝るしかできないではないですか。しかしこうやって二人が並んでいると夫婦というよりどちらかというと親子に見えなくもないくらいですね。ジュリア様の方がかなりお若く見えるせいでしょうか。
「気分は?」
「今はもう。すみません広間にいたのですが人混みにあてられたのか、立っているのも辛かったのでどこかで座らせて頂こうと思い廊下に出た際に王太子妃殿下や聖女様に助けていただいて……」
かなり辛そうだった。私達が通らなかったらあそこで倒れていてもおかしくないくらいだった。タイミングが良かったのか。
ナースタッド侯爵は一瞬躊躇したように見えたが、流石に王太子妃殿下をないがしろにできないらしく、立ち上がりこちらを向き頭を下げてきた。
「この度は妻のジュリアがご迷惑をおかけいたしました。お礼は後ほど必ず」
ヴィラス様の方しか向いてない。まぁそうですよね、先程あれだけ貶した聖女リューディアに対して礼などできないですよね。でもこうなったことに対してジュリア様を怒るわけでなく、渋々かもしれないが頭を下げられるのはまだ少しは話の分かる人なのかもしれない。
でもヴィラス様はニコッと笑う。
「私は何もしておりませんわ、倒れそうだったジュリア様を見つけて、光魔法をかけて治したのは『聖女』リューディアです。お礼を言うなら彼女に」
うわぁ、ヴィラス様、凄い。流石王太子妃、未来の王妃。駆け引きの訓練は半端ないのだろう。臣下相手に手は抜かない。
でも、その言葉によってこの場がかなり緊張感に包まれてしまいましたよ。ナースタッド侯爵もわかっていたはずだ、妻を治してくれて世話になったのはリューディアだということを。でも先程の広間で私に対してあれだけ言ったんだから、そう簡単には面と向かって頭をさげることはできないだろう。
しかし自分の妻が世話になったのは間違いないわけで。
拳をギュッと握りしめているようだ。かなりの葛藤が見て取れる。一度大きく深呼吸をしたかと思うと私の方を向いてヴィラス様相手より浅いが頭を下げてきた。
「……この度は妻が世話になった。今夜はこれで帰りますのでまた今度改めて」
本当に渋々だが、そう言ってきたことには素直に驚いた。貴族の中には変なところで矜持がある人が多いわけで。でもこの方はどうやら矜持の使い方をわかっているようだ。
それだけ奥様の事が大事なのだろう。なら、と思いこちらも声を出した。
「いえ、お気になさらずに。奥様のことですが、少ししか診てはいないのですがまず間違いなく言えることは今現在かなりの貧血状態かと思われます」
「……貧血?」
「はい。女性にどうしても多い症状です。が奥様の場合は他にも理由があるかと思われます。帰られるとのことですが、馬車で、ですよね?」
「もちろんそうだが」
ですよね、貴族の皆様が歩いて帰るわけがありませんよね。うーん、どうしようか。とりあえずヴィラス様に近づいて耳元で尋ねてみた。
「………というのは大丈夫なものでしょうか?」
「それは大丈夫よ」
ヴィラス様に許可をいただけたのでもう一度ナースタッド侯爵とジュリア様の方を向く。ジークハルト様とレオンハルト様は何も言わずにいてくれている。
「聖女としての観点から言いますとジュリア様はこのまま王宮に留まっていて欲しいのです。できれば一週間程度、最低でも三日」
「…は?」
訳が分からないといった顔をしているナースタッド侯爵と夫人だ。まぁその気持ちはよくわかります。
「いやいや、そんなわけには。妻は連れて帰ります」
言葉足らずだってせいか、警戒されてしまった。でもここで引くわけにはいかない。
「今帰られた場合奥様の身体の保障はできませんが、よろしいでしょうか」
「保障とは?何故そんな大袈裟におっしゃっておられますか?」
今の状態なら大袈裟に聞こえるだろう。
「貧血、とは言っても色々な種類があり、色々な表には出てこないような原因でなるものも多々ございます。ただの貧血ならば私が先程ほどこした光魔法でかなり回復しているはずです」
「ただの貧血ではないということか?」
かなり心配そうに尋ねてきた。
「そうですね。貧血を治すには大元のその原因を治すことが一番の治療なのですが、今回はその大元が治せるものではないので」
「聖女殿でも治せないと?」
少し突っかかった言い方だ。気にはなるが無視するに限る。
「治す、治せないではないのです。とにかく今ジュリア様に必要なのは安静です。馬車などの振動も負担になります」
「馬車の振動が?」
ナースタッド侯爵とジュリア様以外の方は私の言いたい事に気づいたようだ。まぁついこの間同じような方がいましたからね。チラッとヴィラス様の方を見る。
まわりくどい言い方をしてもだめか。ならば、と続ける。
「症状は人それぞれですが、安静にというのは変わりません。今無理をさせますと影響があるのはジュリア様だけではありませんよ」
ジュリア様は気づいたようだ。
本日もありがとうございます。
明日も更新予定です、お待ちしております。




