44.控室にて
「いかがでしょうか?」
そっと女性に尋ねる。すると先程よりもはっきりと目を開けてこちらを見た。
「……あ、わ、私」
まだ状況が飲み込めてないようだ。顔色は戻ってきている。
「回復の光魔法をかけたので少しは楽になったかと思うのですが。痛むところはありますか?」
私の問いかけに少し考えてから小さな声で呟いてきた。
「あ、大丈夫、です……痛く…ない」
手が下腹部を押さえている。そこが痛んでいたのだろう。どうやら自分の見立ては合っているようだ。
「突然すみませんでした。私はリューディアと申します。もしよろしければいくつかお尋ねしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「……先程レオンハルト王弟殿下と……おられた方ですよね」
やはりあの場にいたのか。するとヴィラス様が横に来られた。
「ジュリア様、ご気分はもうよろしいかしら?もし良かったら彼女、リューディアにお話してもらえる?あなたの悪いようにはしないから。私も信頼しているし、彼女の力に間違いはないから」
ヴィラス様のその言葉にわかりました、と頷いてくれた。ならば、といくつか質問をする。どうやら間違いはなさそうかな、と思っているとノック音が聞こえた。
ヴィラス様付きの騎士の方が確認しに行ってくれた。
「あぁごめんなさい、ジュリア様の御主人を呼んだの。探してるかもしれないしね。あとジークとレオンハルト様にも伝えてもらったから来ると思うわ」
流石王太子妃。いうなれば未来の王妃だ。色々と判断が早い。でもこの方の御主人ってどなたなのかしら。とても若く見えるのでどこかのご令嬢かとも思ったが、先程の質問で既婚なのはわかった。挨拶の中にこの女性の方はいらっしゃらなかったし、夫婦で参加されている貴族の方は大体揃って挨拶に来ていたはずだ。名前もジュリア様とは聞いたが家名は聞いていなかった。一体どなたの……?
すると騎士の方が戻ってきて、ヴィラス様にお伺いを立てている。この場で一番格上はヴィラス様だ。そういえば夜会を一時退席したのは本当ならヴィラス様を診る予定だったのだが。彼女は騎士の報告を聞き、わかったわと頷き、招き入れるように指示を出していた。
私はそっとヴィラス様に近づいて耳元でそっと声をかけた。
「……ヴィラス様は大丈夫ですか?見た目というか魔力で見た感じ変わったところはないように思いますが。痛む所とかはありませんか」
パッと見る限り、体調に問題はなさそうだ。
「私は大丈夫よ。リューディアが気づいてくれたおかげでなるべく安静にするようにって公務が殆どなくなったの。今夜も殆ど座っていたし、内緒だけどとても快適よ」
口元に人差し指をあててウィンクをしてきた。前の時みたいに不調の気は感じない。大丈夫そうだ。また女性の前に戻って膝をつく。そして手をそっととる。
多分夜会の始まりから私が感じていた違和感というか、辛そうな気、というのはこの方だ。大分和らいではきた。
「ジュリア!」
心配そうな声で入ってきたのは、ナースタッド侯爵だ。
え?あれ?御主人って、ナースタッド侯爵なの?この方が侯爵夫人?あれ、でもさっきの挨拶❨といえるものかはわからないが❩の時はお一人で来たのに。
でもよくよく考えれば、先程のナースタッド侯爵から感じた違和感はこのことか。夫人のジュリア様の気が残っていたのだと思われる。あの時点でジュリア様は体調が悪かったはずだ。多分彼女だけどこかで座って休んでいたのだろう。
挨拶にもこれないくらい辛かったということか。
妻の名前を呼びながら入ってきたナースタッド侯爵はジュリア様に近づこうとするが、彼女の前に膝を付けて座っている私を見つけ、足が止まる。彼の後ろからジークハルト様とレオンハルト様も入ってきた。
ジュリア様の前の床に座っていて、彼女と手を繋いでいる私を見て、ジークハルト様とレオンハルト様は事情が飲み込めたようだが、ナースタッド侯爵は唯一人、訳が分からないといった顔をしている。
そりゃあそうだ、気分が悪いと言っていた妻が何故か広間ではなく、応接間にいるし、さらに王太子妃も一緒。そして一番の謎は先程あれだけ毛嫌いした女が目の前にいて、妻の手を握っているのだから。事情がわからず、驚くのも無理はない。
「……え?あ?これは一体……?」
混乱するナースタッド侯爵の横に来て声を出したのはこの場で最高位にあたるジークハルト王太子殿下だ。
「リューディア嬢、治療は終わったのかい?」
その質問は全てを理解している内容だ。
「はい。とりあえずはもう大丈夫だと思うのですが」
「……治療?どういうことだ?ジュリアに何を…」
まだはっきりとわかっていないナースタッド侯爵に簡単に説明する。
「体調が悪く、倒れ込みそうだった彼女を騎士の皆様にこの部屋に運んでもらいました。かなり辛そうでしたので許可をもらい光魔法で治療させていただきました」
レオンハルト様が私の隣にやってきて、手を差し伸べてきた。あ、しまった、床に座りっぱなしでした。手を取り立ち上がり、ドレスを整える。
「すみませんレオンハルト様、緊急事態でしたので。汚れてはないと思うのですが」
ドレスを確かめながら告げると彼は笑って、大丈夫だよ、と言ってくれた。
私が立ち上がり、少し離れるとナースタッド侯爵はジュリア様の元にやって来て、先程まで私がいた場所に膝をついて彼女の手を取った。
少し遅れましたが本日もありがとうございます。
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