40.夜会にて 3
「お疲れ様、リューディア。ダンス素晴らしかったわ」
「ありがとうございます」
王妃様にお褒めの言葉をいただき、頭を下げると周りの貴族方から少しざわめきが起こった。
「………もう?今までにもお会いしているということ?」
「まだこの国に来てそんなに経っていないわよね?それで王妃殿下にもうお会いしているの?」
どうやら「リューディア」呼びが皆様気になるらしい。あぁそうか名前や呼び方のくだりなく、いきなり簡単な挨拶から始まったからか。もうすでに王妃様とはお会いして仲良くなっていますよ、というアピールになるということか。自分では考えつかないことだが、この王族の方々はそういうことも計算にいれて言葉をかけてくれているのだろう。
貴族のお付き合いって大変だ。やっぱり神殿奥で祈っているのが楽でいいな。しかしお勤めは果たさねば。
自分達の周りにはかなりの人数が集まってきているが、流石に王妃様や王子殿下がお話しているところに割り込んでくるだけの者はいない。多分皆様、呼ばれたくてうずうずしているのが明らかに分かる。
「リューディア、こちらへ」
王妃様が優しく声を掛けてきた。レオンハルト様も腰に手をまわしてそっと、さり気なく立ち位置に誘導してくれた。とてもありがたい。
だが王妃様とレオンハルト様の間というのはかなりの位置なんですが?ここですか?いや、確かに第三王子の婚約者のお披露目も兼ねている夜会ですから、主役の一人なのはわかっていましたが、が、(仮)ですよね?この先本当のお相手が現れた時、大変じゃないですか?ここまで大々的にしなくてもよろしいのでは?と思う間もなく、次から次へと挨拶が始まった。
笑顔でなくてもよい、と許可をいただいてあるので気は楽だが、それでも顔面の筋肉が悲鳴を上げそうだ。王妃様を筆頭に王族の方々の笑顔は本当に素晴らしく、これまでの鍛錬の賜物だろう。数日間の付け焼き刃などあっという間に剥がれ落ちる。こうなれば開き直るだけであるが。
王妃様懇意の方々から始まり、高位貴族が連なる。一応何軒かの重要な貴族の家名と肖像画は照らし合わせて覚えてきたつもりだが、緊張していることもあり、王妃様やそのお付きの方、レオンハルト様が先に紹介してくれるのは非常にありがたいことだ。私はとにかく失礼のないように挨拶を交わすことだけに専念する。
大分時間も過ぎ、かなりの人数をこなしたつもりだがよくよく思い出すとまだ重要だと教えられた人物に挨拶していないことに気づいた。と同時にレオンハルト様が耳元で囁いてきた。
「……来たよ」
フッと顔を上げると一人の男性が近づいてくるのが見えた。年齢は国王陛下や王妃様と同じくらい。金髪碧眼、長身と絵に描いたような、国王陛下とはまた違った趣きの、所謂格好良いと言われる部類の方だ。
「これはこれは王妃殿下にはご機嫌麗しく。レオンハルト王子殿下もお変わりなく」
「ナースタッド侯爵もお変わりなく」
レオンハルト様が名前を呼ぶ。どうやら間違いないようだ。昨日までの詰め込み作業の際、一番要注意人物だと教えられた男性だ。
侯爵という高位な身分であることもそうだが、自身も国の要職についており、貴族であることに自信と誇りをもっている、所謂プライドがとても高い方らしい。
―――平民ごときが要職につくなどありえない、との考えだ。
ということは平民出身の私が王子殿下妃になることなど認めない、というスタンスである。そんな思いの方はもちろん他にも沢山いらっしゃるが、爵位の順からしても彼が一番難敵なのは一目瞭然だ。
そして『聖女』とはいえ、家名のない平民の私のことなど一切認めないという思いが先程の挨拶に現れている。
この並びで私の事には触れてこないということと、お変わりなく、と言い切ったこと。
思いっきりお変わりありますが?
(仮)ですが、自国の王子の婚約者の発表ですよ?そのスタンス、凄いですね。聞いていた通りですね、なるほど。これは反対に冷静になれそうです。
「レオンハルト王子殿下はハリーナ王国との戦いで活躍なされたとか。流石ですな」
ある意味素晴らしい方だな。ここまでできるとは。まぁ無視には慣れているのでこちらのダメージもありませんが。なんせ(仮)ですし。
聞いたところによると、どうやらこのナースタッド侯爵はレオンハルト様のお相手に自分の派閥の娘を、と思っていたらしい。
どこの国でも同じだが、貴族の派閥というのはあるもので。スーラジス王国にももちろんあるらしい。
王太子妃も第二王子妃も各々違う派閥かららしいので、ナースタッド侯爵の派閥は第三王子のレオンハルト様の妃の立場を狙っていたと。ナースタッド侯爵自体には子供がいないので、同じ派閥の伯爵令嬢やら男爵令嬢を、と送り込んできていたらしいが、レオンハルト様は断っていた。
そしていきなりの婚約者登場である。面白くないのはよくわかる。私が反対の立場だったら間違いなく突っかかりたい。
このまま無視されるのだろうな、と思っていたのに、何故か目が合ってしまった。
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