39.夜会にて 2
宮廷楽師による華麗なる円舞曲が流れてきた。わ、と思う間もなくレオンハルト様の一歩に誘導されて、一つの狂いもなく音楽に乗らされた。流石の一言である。
あとは身体が覚えていてくれて、すんなりと足が動いている。間違いなくレオンハルト様のおかげだ。少し余裕が出てきたので顔を上げて彼の顔を見ると優しい微笑みでこちらをみていた。思わず微笑み返してしまった。
「その調子です。素晴らしいですよ」
褒められて少し顔が熱くなる。でも周りの視線の方が凄いので気を取り直す。
「レオ様のおかげです。とても踊りやすいので」
「それは良かった。もう少しだけ頑張って」
さらに顔を近づけてきた。音楽の音の方が大きいはずなのに、周りのご令嬢方の声がとてつもなくすんなりと聞こえてしまうのは何故だろう。
良いことも悪いことも。
魔力が強いせいもあるが、人の言葉には色々な気が詰まっているような気がする。良いことはすんなりと身体に染み渡る感じだが、悪いことは何というか、そう、こう、チクチクと身体に刺さるのだ。
今の所は半々くらいかなぁと考えていると上から言葉が降ってきた。もちろん優しい音だ。
「どうかした?何かあった?」
本当にこの方は私のことをよく見ていると思う。わずかな動きさえ見逃さない。
「いえ、色んな言葉が聞こえるな、と」
その一言に驚いたレオンハルト様だったが、意味をわかったのか、フッと微笑み
「この場はある意味戦場に近いかもしれませんね。大丈夫ですよ、一応この国の軍の責任者ですから」
とウィンクしてきた。その仕草に周りから悲鳴に近い嬌声が聞こえた。
「気になりますか?」
「言葉や声はそれほどではないのですが」
「?それ以外で何か?」
先程から気になる感じがどこからか流れてくる。落ち着いて探せてないので確定できないが、今日の出席者の中にいるのは間違いない。そこまでではないが、もし見つけたら声をかけたいレベルだ。
「それは『聖女』リューディアとしての感覚ですか?」
「……そうですね。でもまだどなたなのかは特定できてませんし」
「わかりました。もしどなたかわかったら教えてください、対処しましょう」
「よろしくお願いいたします」
「いえ、気になることは一つでも片付けた方がよいでしょう。この後何人かと挨拶を交わすことになりますが、その時にでもいたら教えてくださいね」
「わかりました、けど挨拶って……」
聞いてないですけど?何を話せばよろしいものなのか?
「大丈夫です、私が一緒ですから」
「お任せいたします」
そう告げるのとほぼ同時に音楽が鳴り止んだ。とりあえず無事踊り切れたようだ。片手を繋いだまま、誘導されてカーテシーをする。すると大きな拍手の音が聞こえてきた。顔を上げるとさらに暖かい拍手に包まれた。
「お疲れ様。一旦下がるね」
「あ、はい」
スッと腰に手をまわしてきて、軽くトン、と押されて流れるように誘導される。次の音楽が鳴る頃には壁際の所に着いた。
「はい」
そう言ってきたレオンハルト様の手にはいつの間にかグラスが二つあった。
「あ、ありがとうございます。でもお酒類はちょっと」
お酒類は飲めない訳では無いのだが、やはり判断力が落ちる。それはあまりいただけないので、よほどの事がない限り飲まないことにしているのだ。ただでさえ気になる事があるのだから。
「わかってるよ。これは果実水、アルコールは入ってないから」
「……ご存知だったんですか?」
「調べさせてもらったって言ったでしょう」
そういえばそんなことを言っていたような。ならありがたくいただきます、とグラスを受け取る。一口いただくと、とても冷たく美味しい水分が喉を通り抜けて行った。
「……美味しいです。ありがとうございます」
「どういたしまして。緊張はほぐれた?」
「まだ少し。でも大丈夫です」
私は苦笑しながら正直に答えた。
「もうちょっとだけ、頑張って」
その優しい微笑みで言われたら誰も逆らえないよなぁと思いながら「はい」と答えた。
ふぅと一息ついているとレオンハルト様の元にどなたかの使いの方が寄ってきた。彼も誰からかわかっているらしく、怪しむことなく耳を寄せている。わかった、と告げているのが聞こえたと同時にこちらを向き少し苦笑した顔で
「母上からのお呼びだ。何人かに挨拶だと思うから少し付き合ってくれる?」
「もちろんです」
それが婚約者(仮)の努めだし、それにレオンハルト様と王妃様が横にいたら変な輩は寄ってこないだろうし、来てもお二人が対処してくれるだろう、という思いもある。
「ではお手を」
「よろしくお願いいたします」
まだまだ収まらない興味津々の視線の間を縫って王妃様の下へと歩を進めた。
本日もありがとうございます。
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