37.支度部屋にて 2
「入るね」
そう言って支度部屋に入ってきたレオンハルト様は普段の装いとは違った雰囲気だ。
これがスーラジス王国王族の本気と言わんばかりの格好良さだ。婚約者候補が絶えないのもわかる気がする。白を基調とした礼装だが布地に入っている刺繍は銀色だ。そして胸元には赤い薔薇が一輪。赤いとはいってもその色はどう見ても、と凝視した私に気づいて、微笑み、薔薇を手に取り私の顔の横に並べてきた。
「うん、一緒」
やっぱり。
「さっき庭に出て探してきたんだ。リューの瞳に一番近いものをね」
その薔薇は真紅というよりかは少し薄い、黄色みのある色をしている。棘などは綺麗に処理されていて、コサージュになっている。
レオンハルト様は軽く花びらに口づけして、また自分の胸元のポケットに戻した。
「着付けと髪は終わった?なら」
そう言って女官に何か指示を出している。頭を下げた女官はどこからか箱を手に戻ってきた。レオンハルト様の横に立ち、持ってきた箱の蓋を開ける。リューディアが何だろうと覗き込むときらびやかなものが見えた。
首飾りと耳飾り、髪飾りだ。全てお揃いのデザインだ。そういえばドレスを着て髪型も整えてもらっていたが、アクセサリー類はなかった。
しかし、この一揃いは、と思いもう一度箱の中を覗いていると、レオンハルト様はフッと笑って
「大丈夫、本物だしそれなりの価格だよ」
「いえ!そういうことではなくて……」
慌てて否定する。こうやって見るとあの、ナーヤス王子がくれた宝石類とは見た目からして違うのがわかる。詳しくない自分でさえ、今目の前にある一式は落としたり傷つけたり失くしたりしたらとんでもないことになるということはわかるくらいだ。輝きが違いすぎる。
「じゃあ着けるね」
軽い感じで手にとって、私の首元に着けてくれた。
「うん、似合うね。じゃあこれも」
と耳飾りを手にとり、片方ずつ着けてくれた。もう精神的に重くて仕方ない。一体おいくらなんだろうか?
「最後はこれね。どこに着けようか」
髪飾りだ。ノア達とここかな?いや、こっちか?と相談しながら着けている。皆とても楽しそうだ。
「よしできた」
「素晴らしいです!」
「お見立ては完璧でしたね。流石ですわ」
「リューディア様、お綺麗です」
「リューディア様を完璧に着飾るという夢が一つ叶いましたわ」
女官とノアとブラウのお褒めの言葉に対して何も言えないでいると、レオンハルト様が代わりに答えた。
「ノアとブラウ、これから何回も着飾ってもらうよ、よろしく頼むね」
「「お任せくださいませ!」」
二人の声が綺麗にハモった。
いやいや、何回もって言われました?そんなに?いや、(仮)の立場ではそんなに夜会になどは出なくてもよろしくないですか?
レオンハルト様はこちらに向き直して私の手を取り、軽く口づけた。
「今夜はよろしく頼むね、婚約者殿」
その言葉と流れるような動作に何も言えなくなり、そしてお化粧されているのに、頬が赤くなっているのがわかるほどの私は動けない。その様子を見て、フッと微笑んだレオンハルト様は優しく声をかけてきた。
「大丈夫、リューはそのままで。何も考えずに私の隣にいてくれればそれでいいから。離れたらだめだよ」
耳元で囁かれた私は兎に角頷くことしかできなかった。ちゃんもお役目果たせるのかしら……。
しばらくするとノック音が聞こえて、今度は女官の方が確認しに行ってくれた。どうやら夜会の時間らしい。
「じゃあ行こうか。私がどうしても離れなければいけない時は母上か義姉上の所に案内するからそこにいてね」
「わかりました」
わかりましたと答えましたが、王妃様と王太子妃様のそばにいるのも中々大変なのですが……。どうせなら一人でいたい。壁の花になっていたい気がします。気配を消す魔法、使おうかしら………。
エスコートされて廊下を歩く。『聖女』の仕事に行儀作法は必要なかったけれど、いつ必要になるかわからないから、と小さい時から教えてくれて、叩き込んでくれたサリアス伯爵と夫人にはもう感謝しかない。本当にありがとうございます。
「どう?靴とかは痛くない?」
「全然大丈夫です。寧ろ高さがあるのに歩きやすいくらいです。ドレスも軽くて助かります」
「それなら良かった。疲れたら言ってね。ごめんね、ドレスの色。本当なら夜会だったらもっと可愛らしい、淡い色合いのドレスだったりするんだろうけど」
先程女官の方にも聞いたが、確かに夜会のドレスに黒色は珍しいだろう。もっと華やかな色合いが多いだろう。
「いえ、私はこのお色、好きです。レオ様の色でしょう?時間もない中、とても素敵なデザインで。歩きやすいですし、本当にありがとうございます」
素直に思っていたことを口にした。すると少し驚いた感じのレオンハルト様だったがすぐに微笑んで、それなら良かったと軽く髪の毛に口づけてきた。
本当に流れるように出るこの動作は凄いと思う。
夜会の広間までもう少しの所だったので、周りにかなりの人がいたがレオンハルト様は何も気にすることなく、私をエスコートし続けた。
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