33.執務室〜伯爵邸(ハリーナ王国)にて
途中から視点が変わります。
封筒の中からは三枚の便箋が出てきた。とても綺麗な読みやすい字だ。
元気だろうか?から始まるその手紙は義理とはいえ娘を思いやる気持ちが溢れている。
リューディアとノアとブラウ、三人の体調を気遣う言葉が並び、サリアス伯爵と夫人、孤児院の最近の様子などが書かれている。リューディアはほっこりとした気持ちになったが、その後の内容に思わず笑ってしまった。
「どうしたの?何か楽しいことでも書いてあった?」
リューディアの笑顔が気になったらしく、レオンハルト様がソファまで来て、横に座った。
見せられない内容でもないのでレオンハルト様に読み終わった手紙を渡す。
「いいの?」
「もちろんです。元々検閲されるものですし、見られて困ることも書いてありませんから」
手紙を受け取り、読み始めたレオンハルト様は最初は真面目な顔だったが、段々と眉間に皺がより、訳が分からないといった顔になる。
「………これは一体どういうこと?」
確かに説明しないとわからないだろう。サナハト補佐官にも手紙を渡し、読んでもらう。こちらもレオンハルト様と同じ反応だ。
ノアとブラウにも渡して読んでもらう。読み終わったノアがにこやかに言ってきた。
「本当に思っていた通りのことをしてくださいますね」
ブラウも頷いている。レオンハルト様の方を見て説明する。
「私がハリーナ王国の第二王子であるナーヤス殿下の婚約者だったのはご存知ですよね?」
「婚約は解消してきたのだろう?」
「はい。その節は本当にありがとうございました。とても助かりました」
解消できて、離れることができて本当に助かったのは事実だ。どういたしまして、とレオンハルト様は笑っている。
「それで婚約者期間が数年あったのですが、一応婚約者という肩書上、ナーヤス殿下からいくつか贈り物をいただいたのですけれども」
「贈り物?ドレスとか宝石とか?」
レオンハルト様の問いかけに頷く。
「とは言ってもドレスが一着と宝石が四点ぐらいなんですけどね」
数年あったわりには少ないと言われる。さらに貰ったドレスも仕立てたとかではなく既製品のモノだった。はっきり言ってただの義務感から贈ったのか、それか誰か部下に頼んで準備させたのだろう。
「スーラジス王国に行くと言われた時にその宝石類は絶対に持っていくな、ここに置いていけとうるさく言われたんです」
「贈られた物ならリューの物だろう?持っていこうが置いていこうがリューが決めることだろう?」
「普通ならそうですよね?」
レオンハルト様にサナハト補佐官も同意する。
「普通、ではなかったんです」
訳が分からない二人に説明を続ける。
~~~~~ハリーナ王国 数日前 サリアス伯爵邸~~~~~
サリアス伯爵邸の応接間のソファにイライラを隠しきれてないナーヤス第二王子殿下が座っている。後ろには部下のラナン補佐官と護衛の騎士が二人立っている。
「先触れがなかったものですからお待たせいたしました」
サリアス伯爵と夫人がゆっくりと応接間に入ってきた。本来なら王族を待たすなどもってのほかだが、元々第二王子とは色々とあったし、先触れもなかったのでこれくらいはしたくなるのだ。
ナーヤス殿下の向かい側に座り、お茶を一口含む。
「で、ご用件は?」
あまりにも不調法な物言いだが、それすらも気づかないほど、焦っているようだ。足をカタカタと動かして、落ち着きがない。王族なら家臣の家だろうがどこでももっとどっしりと構えていて欲しいものだ、と思うがここでは口に出さないでおこう。
「あいつから何か預かってないか?」
あまりにも、な言い方にカチンと来たのでこちらもそれなりに対応することに決めた。隣に座っている妻も何も言わないが怒っているのがひしひしと伝わってくる。私よりも妻の方がリューディア達を気に入っていたのだから仕方ないと言えば仕方ない。
「あいつ、とは誰のことでしょう?仮にも王子殿下であらせられるのですから物言いには気をつけていただきたい」
ムスッとした顔をしたが、後ろの部下にたしなめられたので態度を少し変えてきた。
「リューディアだ。リューディアから何かを預かっていないか?」
「……もう王子殿下の婚約者ではありませんし、養子縁組を解消したとは言え、我がサリアス伯爵家の娘であり『聖女』でもある方を呼び捨てにはなさらぬ方がよろしいかと」
これくらいの嫌味は言わせてもらおう。ゔっと言った顔になったが向こうが何か言う前に続ける。
「私は預かっていません」
その言い方にナーヤス王子は気づかなかったようだが、流石に部下は気づいたようだ。王子に何か耳打ちしている。さも自分も気づいていたとのやり取りをしている。大丈夫だろうか、この王子は。
「じゃあ、誰が預かっているんだ?」
溜息を一つつき、答える。
「―――――孤児院で預かっております」
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