30.教会にて 5
「では、治しますね」
「お願いします」
「回復」
男性の右太腿辺りに手をかざして光魔法を発動させる。しばらくすると手応えがあったので、魔法を止める。
「どうでしょうか?」
短パンを履いてきていた男性と隣に座っていた女性はその部分を見て、わぁと歓声をあげた。
「凄いです!何の傷跡もなくなった!」
「ほんとだ!凄い」
三日前、教会で治療をした犬の獣人の方とその奥様だ。約束通り来てくれて、傷の治り具合を確認してから最後に傷跡も綺麗に治した。
「痛みとかはあれから出てませんか?」
ないとは思うが一応確認する。
「全然です!あのあと一晩寝たら魔力も完全に戻ってましたし、獣化も自分の意思でいけました。本当にありがとうございました」
「いえ、それなら良かったです。大丈夫だとは思いますが、かなり深い傷でしたので、もしこれから先、調子が悪くなったりしたら言ってくださいね」
「ありがとうございます。でも聖女様はずっとここにいらっしゃるのですか?」
奥様から尋ねられて、自分でもよくわからないので後ろに立っているレオンハルト様の方を向いてみた。
彼は今日も本来なら他のお仕事が忙しいはずなのに、ノアとブラウの二人が付いているから大丈夫だと改めて言ったのに、だめと言って付いてきてくれた。
帰ってからのサナハト補佐官が怖いのですが……。
レオンハルト様はそうだねと考えながら答えてくれた。
「基本的には二、三日に一回は顔を出せると思うけど、何か急ぎの案件だったら教会の他の聖女達か大司教に伝えてもらえば、駆けつけることができると思う」
「そうなんですね、わかりました」
奥様も頷いたが、後ろでサラ達も嬉しそうにやった!と声を出している。レオンハルト様が許可したということは私も堂々と来られるわけで。
「もしよければなんですが、もらって貰えれば」
奥様の方からおずおずと何かを出してきた。布?いやハンカチだ。それもかなり素晴らしい刺繍がされている。
「これは?とても手の込んだ物ですが」
思わず聞いてしまった。
「実は私が刺した物でして」
「え?奥様が?」
はい、と頷くとサラも隣に来ていて
「彼女、刺繍が得意なお針子さんなんです。素晴らしいでしょう?大きなドレスメーカーの仕事も請け負ってますし、刺繍の腕前はこの街一番といってもいいかもしれません」
「そうなんですか?でもそんな素晴らしい方の物をいただくわけにも」
「いえ!主人を治していただいたお代をと思っていたのに、聖女のお仕事だからと受け取っていただけなかったので。他に私がお渡しできる物といったらこんなものしかなくて」
確かにこの前、治療費をと言われたが、サラ達にも確認したが、聖女の仕事なのでいらないと受け取らなかった。これは受け取ってもいいのだろうか?チラリとレオンハルト様の方を見ると微笑んで頷かれたので、貰ってもいいのだろう。
「こんなものだなんて、とても素晴らしいです。では遠慮なくいただきますね、是非使わせていただきます」
広げてみると、優しい花々の刺繍だ。角の部分にひときわ大きく刺繍されているのは白い花と赤い花。そして黒獅子だ。これはどう見ても……。
「聖女様をイメージして刺させていただきました。あの、それで良かったでしょうか……?」
どうやら黒獅子を勝手に刺してよかったかを気にしているようだ。いやいや白と赤の花はわかりますが。横からひょいとレオンハルト様が覗き込み、その刺繍を見てにこやかに
「とてもいいね。もしよければ同じ物をもう一つ頼めるかな?もちろん仕事として頼むから」
「そ、そんな!貰っていただけるだけで光栄ですのに!」
確かに普通にこうやって教会にいるが、この人はこの国の第三王子殿下であって。気軽に話したり物を渡せる立場ではないのではないだろうか。私にしたらこの国に入った時からほぼほぼ隣にいるので、感覚が麻痺しているが。
仕上がったら教会に連絡するというこで話しがついて、犬の獣人の方と二人、何度も頭を下げて帰って行った。歩き方もおかしい所はなさそうだ。良かった。
メイラがどうぞ、とお茶を出してくれた。ノアとブラウも手伝っている。本当にどこに行っても優秀な二人だ。
今日は奉仕活動などの日ではないので、教会も静かだ。たまに急患を診て欲しいと飛び込みの依頼はあるが、無い時は併設されている孤児院で指導をしたりしているそうだ。今日はハンスが孤児院で教えているそうだ。
「ハリーナ王国ではどのようなお仕事日程だったのですか?」
メイラが興味津々で尋ねてきた。
本日もありがとうございます!
明日もお待ちしております!




