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3.自室にて 2


「にゃあ」

 

 そう鳴いた茶色い猫はリューディアの膝の上でお座りの体勢になる。


「ありがとう、じゃあ始めるわね」

 

 リューディアは猫に手を伸ばし顔の辺りから身体にかけてゆっくりと撫でながら、自分の口元を茶色い猫の額にくっつける。ふぅと息を吐き思いっきり息を吸い込む。猫独特の香りが身体に染み込んでいくのがわかる。


 くっついてから五分ほどが経過しただろうか、リューディアはゆっくりと顔を離す。


「ふぅ、今日もありがとう。どう、戻ったかしら?」


 リューディアは自分の髪を触りながら後ろに立っていたノアに尋ねる。彼女も謂われるのがわかっていたかのように銀髪を持ち上げて、何かを確認している。


「大丈夫です。綺麗な白銀に戻っておられます」


 先程まで一部分だけ黒かったはずのリューディアの髪が全て同じ色になっている。綺麗な白髪だ。


「今日は『祈り』が少なかったからね。ブラウもありがとう」

 そう言いながらもう一度膝上の茶色の猫に口づける。一瞬綺麗な優しい白色の光に包まれた。


 にゃあ、と嬉しそうに鳴いた猫はキュッと目を閉じたかと思うとその身体の輪郭が崩れだし、あっという間に人間の姿になり、侍女服を着たブラウが現れた。


 この世界には「獣人」と呼ばれる人間がいる。所謂人と獣の特性を両方持っている者達だ。獣といっても、大型のものから小型のものまで様々だ。それこそ、虎や獅子もいれば鳥や爬虫類、犬や猫など。


 「獣人」の中でも色々なパターンがあり、見た目が殆ど変化しない者(瞳だけとか)、半分くらい変化する者(猫なら耳と尻尾だけとか)、そして目の前のブラウのように完全に獣体になる者。


 ちなみにノアも猫の「獣人」で、黒猫に変化する。 


 そして私はその変化後の姿を触らせてもらって、柔らかな毛並みを堪能して、自分の魔力を回復させる。


 ――――所謂「吸わせて」もらうのだ。


 光魔法の使い手である『聖女』『聖者』は魔力を使うとその身体のどこかに何かしらの変化が現れる。魔力を使えば使うほどその変化量は大きくなる。


 他の『聖女』らとは交流がないので、皆どのような変化があるのかは知らないが、リューディアはその髪に現れる。


 白髪が魔力を使えば使うほど黒髪になるのだ。流石に毎日の祈りだけではそこまでは変わらない。首元の一房分くらいだ。ただ普通の『聖女』ならばそのくらいの変化を元に戻すのに五日から七日かかるらしい。多分何もせずに寝てすごしているのだろうけど。


 リューディアも最初は寝て過ごしていて、綺麗に戻すのに三日から五日ほどかかっていたが、ある日魔力を使った時、そこにいた猫を撫でて癒やされているとみるみると髪色が戻ったのである。


 その時は偶然かとも思ったが、付き人のノアとブラウに理由を話し、協力してもらって今のように顔をくっつけていると魔力が回復し、黒くなった髪が白色に戻ったのだ。何回しても戻ったので間違いないようだ。

 その日使った魔力量にもよるが、大体十分から十五分ほどで戻るのもわかっている。今日は早めに追い出されたのでいつもの半分も使ってないのだろう、あっという間に回復した。


 もちろん『吸わせて』もらうだけでなく、最後にはリューディアからも『気』を返している。魔力を使っているわけではなく、ノアとブラウ曰く、リューディアが触れてくれるだけで気持ちがとても良くなるらしい。どういう理屈かはわからないが、とりあえずお互いにいい事づくしなのであまり気にしてはない。


「では早速準備にとりかかりましょうかね」


 立ち上がり、自分の部屋の中の物とにらめっこを始める。


「必要最低限、ってどれくらいかしら。元々ドレスなんかはいらないし、下着と動きやすい服と」

「ちなみにスーラジス王国で何をさせられるのでしょう?やはり光魔法を使うようなことですかね?」

 ブラウも手を動かしながら尋ねてくる。リューディアは一旦手を止め考える。


「……そうねぇ、捕虜扱いだろうから奉仕活動で回復とか治療魔法かしら。まぁ衣食住さえ保障してもらえるなら、いくらでもかまわないんだけど」

「私達もリューディア様と一緒ならそれでいいのですけど」

「……あまりにも無理難題出されたら、あなた達だけでも逃げてね」

「「駄目です!」」


 二人の声が綺麗に重なる。


「何を言ってるんですか!逃げる時はリューディア様も一緒に、ですからね!」

「そうですよ!」


 ちょっと強めの二人に驚きつつもクスッと笑って


「そうね、そうよね。まぁ大丈夫でしょう」


 そしてまた手を動かしだす。するとノアがそう言えばと棚からいくつかの箱を取り出す。


「これのことですよね、ナーヤス殿下がおっしゃっている宝石類って」


 4つほど並べた箱にはネックレスや髪飾りが入っている。一応ナーヤス殿下の婚約者ということだったので、年に何回かは贈り物が届く。いらないと言っても届く。所謂世間体だ。

 王子殿下であろう者が婚約者に何も贈らないのでは他の貴族に示しがつかないということで、義務的に贈ってきているようなモノ、なのだとはわかっている。


 リューディアも箱を手に取り中身を確認する。


「……これ、のことよね、多分」

「ここに置いていけばよろしいのでしょうか」

「わざわざ返しに行かないといけないモノでしょうかね」


 ノアもブラウも中々に辛辣だ。


「……返しに行くのもめんどくさいのよね。一々面会の許可を取らないと駄目だろうし。うーん」


 一応相手は王族だ、会いたいと行ってはい、と会えるわけではない。もっと仲の良い間柄ならすんなり会えるだろうが、私とナーヤス殿下はそんな仲は無い!


 三日後には出発だし、時間は殆ど無いに等しい。しばらく考えてから、あ、と思いついた。


「ノア、明日行きたいところがあるから先触れを出しておいてくれるかしら?」









本日もありがとうございます。

ブックマーク押してくださった方々、ありがとうございます!


明日も更新予定です。

お待ちしております。

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