29.自室にて 2
[リュー……ちょっと、こそばゆいのですが……]
「!あ、すみません、私ったら」
つい色々な場所を触ってしまっていたが、よくよく考えると黒獅子はレオンハルト様なのであって、黒獅子の腕やお腹を触るということは、そのレオンハルト様の……。
ボン!と顔から火が出そうとはこのことか。
「……すみません、なんてはしたないことを」
[いえ、いいのですが。どうせなら姿が戻った時に]
クイッと顔を寄せて来て、頬に黒獅子の鼻先が当たった。言葉と行動についていけない。頬を押さえて赤くなる。すると今度は反対側の頬に尻尾の先がファサファサと触れる。
あぁだめだ。身体全体で癒やされていくのがよくわかる。もう一度顔を毛皮に埋めて、思いっきり深呼吸をする。多分これで魔力が戻ったように思う。起き上がろうと手を置いた場所が先程の違和感の場所だった。
「……これは、傷跡、ですか?」
黒獅子は、ん?といった感じでこちらを見てきた。
[あぁこれですか?そうですね、昔に負った傷跡です。そこと左腕に]
確かに毛皮に隠されてはいるが、お腹と左腕に傷跡があるような手触りだ。これだけの跡が残るということは、かなりの深い傷だったのだろう。
「昔とおっしゃいましたが、その時はどなたかに光魔法による治療を頼まなかったのですか?」
そうすれば傷跡など残らないと思うのだが。平民ならわかるが、彼は王族だ。これ程の傷なら先程の『聖女』方やお抱えの医療師達が放ってはおかないだろう。何故治さなかったのか。
[そうですね。実はこの傷は他国でついたモノでしてね。その場での光魔法による治療は中々難しかったのですよ。すぐに医療師などには見せられなくて]
あぁなるほど、そういうことか。結局は自然治癒だったのかしら。
「何年くらい前の傷か聞いても?」
あまり前でなければ治せるかも、と思い尋ねてみた。
[……そうですね、大体三年程経ちますかね]
三年か、ならまだ治せるかも。ん?三年?何だろう、一瞬何かが引っかかった気がした。お腹と左腕の傷と三年前。あれ?何かが繋がるような……。それにこの傷跡に残る魔力は……。
ファサ!と少し強めに尻尾の先が頬に触れた。
[大丈夫ですか?何か?]
「あぁいえ、すみません大丈夫です。三年位前の傷でしたら治せるかも、と思いまして」
[……無理はしないでくださいね。私の傷を治すために魔力を使うより、他の事に使ってもらって結構ですよ。それに]
「それに?」
[治してもらうとなったら傷跡に触れますよね?それに黒獅子姿ではない方がよいと思うのですが、私としては嬉しいといえば嬉しいですけど]
今度は黒獅子の顔全体を使って擦り寄ってきた。
ん?黒獅子姿ではない?レオンハルト様の人間?の姿?確かに傷に触れながら治療することになる。ということは……ボッと音がしたような気がした、今日何度目だろう。
レオンハルト様のの左腕とお腹に触れなければならない。そのことは自分にとってどれだけ難しいことか。どうしてだろう、治療ならどんな人でも今まで気にせず触れてきたはずなのに。いざレオンハルト様に、となると考えてしまうのは。
「……もうちょっと経ってからでもよろしいでしょうか。もうちょっと慣れるために努力いたします」
黒獅子は何だがすこし嬉しいそうに笑っている。
[お待ちしておりますね。じゃあそろそろ戻りますね]
スッと輪郭が崩れたかと思ったらあっという間レオンハルト様の姿に戻った。横になっているレオンハルト様に思いっきり寄りかかっていた。
「す、すみません!」
ワッとなって起き上がろうとするとクイッと引き戻された。
「大丈夫ですよ。私にとってはご褒美ですから。それにリューはとても軽いですから」
「そ、そんなこと」
正面を向いたレオンハルト様がスイッと右手を伸ばして、リューディアの髪に触れる。
「うん、大丈夫そうですね。黒色はなくなってます」
「良かった。ありがとうございます。やはり速いですね。黒獅子様のおかげです」
「どういたしまして。こんな協力ならいくらでも」
レオンハルト様は立ち上がり、私の目の前に手を出してきた。
「立てる?」
素直にその手を取り、立ち上がる。と同時にノアとブラウが入室してきた。凄いタイミングだ。
「あ、そうだ、レオ様」
「何?」
「三日後の教会は私とノアとブラウの三人で行って来てもよろしいでしょうか?」
一応許可をとらないと。
「だめ」
「え?」
思わず聞き返す。まさかだめと言われるとは思わなかった。
「私も一緒」
ニコッと微笑んで返されたその言葉に素直にわかりましたと答えるしかできなかった。
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