27.教会にて 4
どうやら今の治療中に落としていたらしい。レオンハルト様が拾って被せにきたのだ。
「……そんな理由があったんだ。てっきり魔力切れかと……」
「え?何と」
何か小さな声で呟かれたので聞き返すと、ニコッ微笑んできた。
「あぁ何でもないよ。大分黒くなってるから、きっちり被っていてくれる?」
「あぁすみません、途中で落としてましたか。そんなに黒くなってます?」
久しぶりに上級の回復術を使った。黒くならない方がおかしいか。
「そうだね、二房くらいかな。見える位置ではないからそこまでは目立たないけど」
わかりましたとストールをきちんと巻き直して髪を隠す。するとレオンハルト様は背後からそっと寄ってきて耳元に顔を近づけてきた。
「後で癒やしてあげるからね」
低い、身体中に響く声はリューディアの顔を赤くするのに充分な破壊力だった。さらにストールで顔も隠す。レオンハルトはクスクスと笑っている。
ノアが飲み物を持ってきてくれて、一口飲んでふぅと息をつくと、後ろから、あの、と小さな声が聞こえた。振り向くと他の『聖女』『聖者』の三人が立っていた。
どうしたのだろうか?まさか文句を言われるとか?初めてきた教会で好き勝手してしまったし、勝手に三日後に来てとか約束してしまったし。あ、そう言えば三日後にまたここに来られるようにレオンハルト様にお伺いしないと、とか思っていると、一番前にいた茶髪の聖女がガシッと手を掴んできた。
驚きつつ、ここの国の人達はよく手を掴んでくるな、とかいらないことを考えてしまった。
「か、」
「か?」
「感動しました!素晴らしいものを見させていただきました!ありがとうございます!」
「……え?あ?その、こちらこそありがとう……ございます?」
ぶんぶんと音が鳴っていそうな程、手を繋いで振ってきた。あとの二人も、ありがとうございます!とかわるがわる握手を求めてきた。
「素晴らしかったです!勉強になります。これからも是非」
「ありがとうございます、また是非見させていただきたいです!」
「あ、はい」
どうやらとても好意的というか、なんというか……。あのツンケンとしたハリーナ王国の『黄金の聖女』とは絶対的に違うというか。
「よろしければ色々と教えていただいてもよろしいですか?これからも来ていただけるのですよね?」
「あ、えっと、その」
来ていいのかしら?と助けを求めるように後ろにいるレオンハルト様をチラッと見る。
「毎日は無理かもしれないけれど、リューが一番活躍できるのはここだからね。無理しない程度に」
レオンハルト様のその言葉に私も、わ!となったが、それ以上に三人は喜んでくれた。ガイ大司教も頷いている。
三人は順番に挨拶してくれた。そう言えば先程は時間もなくて、名前も聞いていなかったと今になって思い出した。
茶髪の最初に案内してくれた人がサラ。もう一人薄い金髪の女性がメイラ。そして男性の方がハンス。皆平民出身でガイ大司教の神託で見つけ出されたらしい。サラが23歳、メイラが21歳。ハンスが32歳らしい。皆様年上なので敬称をつけようとしたら、ここはあくまで実力主義なので、呼び捨てでいい、と三人ともに言われた。間違いなくリューディア様の方が素晴らしい魔力の持ち主だと。
ならばお願いとして私のことも敬称無しでと頼んでみた。最初は難色を示されたが、レオンハルト様からもお願いしてくれたので、それならば、と了解してくれた。
ノアとブラウのことも紹介して、とりあえず先程バタバタになった場所を皆で片付け始めた。椅子などかなり動かしたし、床にもかなりの血痕だ。このままにはしておけない。じゃあとハンスの指示のもと、一度椅子を動かして、床の水拭きから始めた。
「俺達も手伝わせてくれ」
先程治療した獣人の方を連れてきた皆様だ。最初は治した犬の獣人の方も手伝おうとしたが、それはだめ、と説得し、奥様と二人、安静にしていて欲しいと帰ってもらった。
残った四人の男性と私達四人とノアとブラウ、あと近くにいて何だ何だと様子を見に来てくれた方々が手伝ってくれてあっという間に綺麗になった。
「本当にありがとうなぁ。やっぱり聖女様って凄いんだなぁ」
彼を担いできた男性が頭を下げてきた。
「いえ、私達はお手伝いをするだけです。最終的には本人の治りたいという意思ですから」
「それでもだよ。あんなに光るもんなんだな」
「あぁそれは私も思いました。凄い光でしたけど、リューディアはいつもあれだけの光を放つのですか?」
男性に続いてメイラが質問してきた。
「いえ、普段あそこまでは。今回のような深い傷の時だけですね」
へぇ、そうなんですねとか色々質問攻めにあった。
「流石の力ですな。でもよくハリーナ王国があれほどの『聖女』を手放しましたな?」
リューディアが皆と歓談している後ろの方でガイ大司教とレオンハルトが二人並んでいた。二人にしか聞こえない程度の声で会話している。
「………ハリーナはリューの、リューディアの本当の力をわかっていない。というか、リューディアがあまりにも簡単に色々なことをこなしていたから、どんなに大変なことを彼女がやっていたか気づいていない、と言った方が正しいかな」
レオンハルトは少し怒ったように言い放つ。
「なるほど。ならばそろそろ気づかれる頃では?」
「だろうな。彼女がいなくなったあとの神殿は大変だろうからね。何人か『聖女』はいるみたいだが、リューディアほどの力の持ち主はいないし、あの国全体を支えるだけの光魔法は中々の質と量がいるだろう。残り全員で頑張ってもリューディア一人分にもならないだろうよ」
「ハリーナから返還依頼がくるのでは?」
「……くるだろうな。だがこちらは正式な手順でリューディアを手に入れたんだ。返すつもりもないし、はねのけるさ」
レオンハルトは少し楽しそうに付け加えた。
「それに彼女は私の婚約者だからね。二度と離れる気はないよ」
それならよろしいんですけど、とガイ大司教も微笑んでいる。そう言えばと、確認するように問いかける。
「……彼女はあのことを知っているのですか?」
「………知らない」
「言ってないのですか?」
「………言ってない」
「言うつもりは?」
「ない、わけではない……」
「まぁそこらへんは殿下次第ですからなぁ……」
頑張ってくだされ、とレオンハルトは肩を叩かれた。
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