20.応接間にて 2
「でもリューディア、あなた作法は素晴らしいわ。あちらの国での聖女ってきちんとしてるのね」
「私の場合は養子先の家で教えていただいたので」
「あらそうなの。それはその家に感謝ね」
「ならリューディア、ダンスは?踊れるのかしら?」
「基本的なものなら」
少し笑顔が引きつっているのがわかる。
そうもうすでに敬称などなく、リューディア呼び。一昨日お会いした際に、家族になるのだから、と王妃様からのお達しで、堅苦しいのはなし、と。私からは様をつけるのだけは許してもらった。さすがに無理です。
こんな他国からポイッとやってきた平民の捕虜など相手にされないと思っていたら、反対にあれもこれもととても優しく接してきた。
王妃様にいたってはこんな可愛い娘がもう一人増えるなんて!と抱き締められた。いやいや(仮)ですよ。大丈夫ですか?どこまで伝わっているのか、と無言でレオンハルト様を見るとニコッとかわされた。うーん、どうなんだろう。
「リンリアとレーリアも来たがったのだけども、ちょうど家庭教師の時間だったのよね。また機会をもうけるからぜひ」
レオンハルト様の妹君である双子のリンリア王女とレーリア王女。このお二人も反対することなく受け入れてくれているようだ。これまた美人姉妹で眩しいくらいである。今日は学業優先のためお茶会には参加されていない。
三人でもいっぱいいっぱいなのに五人なんてありえない、良かった、と心の中でガッツポーズをしたのは内緒だ。
教会や街中での奉仕活動より疲れそうな時間が過ぎていく。魔力的には何も減ってはいないが精神的なものがゴソッと減っていくのがわかる。
お茶を頂いて、一息ついた時、一瞬だが王太子妃ヴィラス様の動きと顔色が気になった。思わず声を掛けてしまった。
「……ヴィラス様、大丈夫ですか?」
部屋の中の人、皆がこちらに注目する。あ、しまった。
「どうしたの、ヴィラス?気分でも?」
王妃様の問いかけに答えない訳にもいかないのだろう、申し訳ないことをしたかも。
「いえ、大丈夫です」
笑って返しているが何か気になる。王妃様も私の感情に気づいたのか続けてきた。
「そう言えばリューディアは光魔法の使い手なのよね?それは身体の不調部分とかがわかるの?」
「見ただけではどこかまではわからないですけど、少し手を触らせていただけたりすれば」
「じゃあ私を診てくれる?」
そう言って右手を出してきた。いいのだろうか。騎士の方も女官の方も誰も止めない。仕方ない、断るわけにもいかないので。
「失礼します」
軽く王妃様の右手を両手で包み込み、目を閉じる。光を流し込むような感じで感覚を研ぎ澄ます。周りからの視線を感じる。時間にして一分もかからないくらいで瞼を開ける。
ワクワクしている感じの王妃様が目に入る。
「……右足」
「え?」
「右足首に何かを感じるのですが、捻ったりとかされましたか?」
私の言葉に王妃様と王妃様付きの女官の目が開かれた。
「……凄いわ、当たりよ。一週間ほど前にちょっと捻ったの。でも誰にも言ってないのよ。知っているのは後ろの女官くらいよ。陛下にも言ってないの」
「医療師様とかには?痛みはないのですか?」
治療はしてないのだろうか?痛みはあるだろうに。
「そこまででもなかったし、医療師や光魔法使いの手をわずらわすほどでもなかったから。これくらいではね」
苦笑しながら話してくれた。
「もしよろしければ治療させていただいてもよろしいですか?足首はくせになりやすいですし、少しの痛みでもそこを庇って他の所にも影響が出るかと」
と、いつもの奉仕活動のように話してしまって、あ、と思った時には皆の視線が集中していた。
「あ、すみません、出過ぎた真似を。それこそこちらの医療師様や使い手の方に……」
失礼ですよね、と言いかけたところで、王妃様が笑って
「じゃあお願いしようかしら?リューディアの負担にはならない?大丈夫かしら?」
「大丈夫です。少しだけ足首に触れてもよろしいですか?もしあれなら触れなくてもいいのですが、触れさせていただいた方が早いのです」
わかったわ、とドレスを少し上げてくれた。女官の方が足を置く台のようなものを持ってきてくれた、ありがたい。載せてもらって両手で軽く右足首に触れる。
目を瞑って深呼吸をする。
「回復」
声と同時に白い光が足首あたりに巻き付く。ワッと言った声が周りから聞こえてくる。光が消えるあたりで目を開ける。そこまでではなかったのですぐ終わった。
「どうでしょう?痛みはなくなったかと思うのですが」
王妃様は台から足を下ろし、立ち上がる。
「凄いわリューディア!痛みが一つもなくなったわ。」
「良かったです。でも無理はしないでくださいね。大丈夫だとは思いますが痛みがまた出てきたら言ってください」
「ありがとう、ほらあなた達も診てもらったら。何もないのが一番だけど」
王妃様がヴィラス様とランティア様に声を掛ける。なら、と近くにいる方のランティア様から、となり手を触らせてもらう。一通り巡らせてみたが何のひっかかりもなかった。
「ランティア様は大丈夫かと。でも何かありましたらすぐ言ってください。ではヴィラス様、よろしいですか?」
はい、と手を差し出してくれた。元々はヴィラス様が気になって声をかけたのだ、何もなければいいのだが。
二人と同じように右手を軽く包み込む。静かな時間が流れる。
「…………」
「どう?」
王妃様から声がかかった。ヴィラス様は少し不安そうにこちらを見ている。
「ちょっとお聞きしたいことと、一つお願いしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
本日もありがとうございます!
明日もお待ちしております!




