19.応接間にて
――――どうしてこうなった?
「凄く綺麗な銀?白色なのかしら?でもお年を召した方の白髪とはまた違うのよね?」
「本当に。見たことがない色よね?瞳の色も赤?よりも少し黄みがかっているのかしら?」
「銀朱、というらしいわ。レオンハルトが滔々と説明してくれたわ」
私、『聖女』リューディア。
今はスーラジス王国で捕虜兼第三王子レオンハルト様の婚約者をしております。そしてここはスーラジス王国の王宮内の応接間。あまりにも私には場違いな部屋。見たことのないような応接セットに調度品。目の前のテーブルに並べられているティーカップやお菓子も初めて見るような物ばかりです。
そして周りには三人の華やかな女性が、とても上品なドレスに身を包んで座っておられて、私を見ておられます。
「緊張しないでいいのよ、リューディア。身内だけだから」
「あ、はい」
優しく微笑んで声を掛けてくださったのはレオンハルト様のお母様、即ちこのスーラジス王国のアンネリア王妃様だ。
「まだ無理でしょう、お義母様。追々ね」
「そうですわね、私もまだまだですし」
第一王子殿下妃のヴィラス様と第二王子殿下婚約者のランティア様。そして私。
部屋の中には警護と思われる女性騎士が三人と侍女の方が数人。そして顔見せも兼ねてノアとブラウも私の後ろにいてくれている。もうそれだけが救いだ。
スーラジス王国に入国して、王宮に着いたのが二日前。到着してすぐにこちらへ、と連れて行かれた部屋には前もって聞いていた予定通り、国王陛下、王妃様、第一王子殿下に殿下妃、第二王子殿下と婚約者様。そして双子の王女殿下というスーラジス王国の主要王族が集合していた。
こんな人達がいるのか、というほどの美男美女揃い。王族らしい落ち着いた品の良い服とドレスに身を包んでいる。そんな中に動きやすさを重視した聖女の服で入っていった場違いな私。気後れしないでいる方が無理でした。
レオンハルト様とサナハト補佐官に言われるままに挨拶を交わし、皆の目の前で婚約証明書にサインをする。その後に国王陛下と王妃様が何故かとても嬉しそうに良かった良かったと婚約を認めるサインをしてくれた。一体どんなふうに話がされているのだろうか。
少し頭を抱えつつ、長旅だったからと休むように言われて案内されて連れて行かれた部屋は王宮内の客室、ではなく、レオンハルト様の私室の隣の部屋。
「婚約者なのだから」
ニッコリ笑って告げられて、ゆっくり休むようにと指示された。いやいやいや、ゆっくりできませんて。
ノアとブラウは「どこでもすることは変わりませんから」と淡々と仕事をこなしてくれた。
昨日は一日部屋から出ず、ゆっくりと過ごさせてもらった。捕虜なのにいいのだろうか、と思いつつも身体は正直で、魔力的には何ともないのだが、一週間程度の馬車の移動はやはり身体的に負担がかかっていたのか、横になると何度も眠ってしまった。ノアとブラウがいて安心している、ということもあるのだが、何となく居心地のよい空気の感触がしてスーッと意識が落ちるのだ。
ゆっくり休ませてもらって目覚めた今朝、朝食が終わると(これもまた豪華で驚いたが)女官らしき方が入ってきて、王妃様とのお茶会に誘われた。驚いて固まっているとレオンハルト様も部屋に入ってきて「身内だけだから気楽に行ってくればいいよ」と軽く言われた。
「でも王妃様のお茶会に参加できるようなドレスもありませんし」
と断ろうとすると(事実、服は動きやすい聖女服しか持ってきていない。だって必要最低限でいいって言われてたから)大丈夫だよ、と部屋に続いている小部屋に案内された。
そこは衣装部屋のようで、所狭しとドレスや小物が並べられていま。
「これは全部リューのだから」
「………え?」
「こちらで準備するって言ってたでしょう?好きなの着てくれてかまわないから。あ、そこに動きやすいのもあるからね。今のとそんなに変わらないから」
そう言われて指差された方向を見ると確かに今までの聖女服とそう変わらない造りの服もあった。変わらなそうに見えるけれども、どう見ても、いや見るからに質が違う。今までのよりも落ち着いた感じのデザインと色だが、絶対にこちらの方が質が良い。これが大国の力か。
「これもいるかと思って準備したけど」
そう言ってレオンハルト様が手にしたのは白い布だ。所謂ストールである。
「あ、ありがとうございます。助かります」
「こういうのでよかった?何か生地とか指定あったのかな?」
手に取るととても柔らかい軽い生地だった。
「いえ、指定はないです。白色なら何でも」
魔力を発動させる際に頭から被るためのストールだ。布自体には何の意味もない。ただ単に黒い色に変わっていく髪を隠すために巻いているのだ。
そう言えばまだこの国に来て一度も魔力は使ってないことに気づいた。本当にいいのだろうか。
考えていると頭の上から声がかかった。
「母上とのお茶会ならこれがいいんじゃないかな」
レオンハルト様がドレスを一つ手に取っている。シンプルなデザインのドレスだ。いくらシンプルとはいえ、ドレスを着たことなど数回しかない自分にとってはかなりの難易度だ。でも自分で選べないことも確かなので大人しく従う。
「……がんばります」
「無理しないでいいからね。何かあったらすぐに母上に伝えればいいから」
「わかりました」
という会話から数時間。今私はこうやって着慣れないドレスに身をつつみ、ノアとブラウと共に案内された部屋には王妃様だけかと思ったら(仮)のお義姉様方もいらっしゃいました。そして見たこともないような調度品に囲まれお茶をいただいております。
一応ハリーナ王国では伯爵家令嬢(養女だが)ということで必要最低限のマナーは叩き込まれた(ありがとうございますお義父様、お義母様)。なりたくもない第二王子の婚約者ということで夜会の作法やダンスも本当に必要最低限だが覚えている。そこだけは感謝かもしれない。
冷や汗だらだらの時間が過ぎていきます。
本日もありがとうございます。
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