16.神殿にて
「ど、どういうこととは?」
「娘の魔力が中々回復しないことだ!一体どれだけの光魔法を使わせたのだ?ここまで回復しないとは」
「回復しない?」
「そうだ。今日本来なら頼まれたお方の家に出向いて治療の予定だったのだ。それなのに迎えに来たら光魔法が使えないから行けないと」
父親である伯爵が説明する。聖女である侯爵令嬢はこちらを睨みつけている。
「そ、そんな回復しないほど使わせてはいないはずです!一度『聖玉』への祈りを捧げてもらっただけで。他の仕事はしていないはず」
そうだ、一度だけ祈りを捧げただけだ。その後教会の奉仕やらも予定には入れていない。個人的に受けていたら知らないが。
「どうなんだ?」
伯爵は娘に尋ねている。
「……『聖玉』への祈りだけよ。他には何もしてないわ」
「っならどうして!?」
それはこちらが聞きたいくらいだ。
あの『聖女』以外は教会などの奉仕の他にこうやって家から要請として、個人的に高位貴族達から治療などの依頼を受けているらしい。もちろんお金が動いている。こちらにも少しまわすことで今までは何も言わずに見逃してきた。そしてそちらに魔力を使うからと『聖玉』の仕事は入れずにきたのだ。まぁあの『聖女』の祈りだけで『聖玉』はずっと光り輝いてきたから問題はなかった。
あの『聖女』は教会や街中で奉仕活動もしていたし、貴族からの要請の治療もこちらからまわしてさせてきた。その仕事にプラスして『聖玉』への祈りも毎日欠かさずにしていたはずだ。何一つ文句は言ってこなかったし、魔力が回復してない、とも一度も言ったことはなかった。
教会や貴族からも苦情など上がったことはなかった。寧ろお礼しか言われなかった。ということはきちんと光魔法で対象者を治していたわけであって、魔力がなかったことは無い、ということだ。
だから『聖玉』への祈りの分の魔力など大した事ないのだろうと思っていた。他の『聖女』『聖者』でも簡単にできる仕事だと。
だが、どうだ?この有り様は。皆一度祈りを捧げただけなのに、数日経っても誰も魔力が回復しない。一体どれだけの魔力を使うのだ?
「あ、あの『聖女』は、リューディアは毎日祈りを捧げていたではないか!魔力が回復しない、なんて聞いたことはないぞ?!他にも光魔法を使っていたし……」
「リューディア?あぁあの白い奴か。確か隣国に行ったとか」
「知らないわよ彼女のことなんて!話したこともないし!とにかく私は回復してないの!光魔法が使えないの!だから今日は無理よ、お父様」
「……っ仕方ないな。どうにか断わっておくが、三日後にまた入れておくから回復させておけよ!大神官、娘に他の仕事はさせるなよ!」
そう言い残して部屋から出ていった。娘も回復させるために眠るから出て行けと告げたため、侍女に追い出された。
「……ちっ、まぁいい他の者に頼むか」
そう言って隣の『聖女』の部屋をノックしたが、先程と返事はほぼ一緒だった。寧ろ『聖女』にも会えない。回復しなくて眠っているから、と侍女に入室を断られるのだ。それも全ての者に。
おかしい、どういうことだ?流石にこれはおかしすぎる。一体何が起こっているんだ?
廊下に突っ立っていると後ろから声を掛けられた。
「おい!」
振り向くと中々めんどくさい奴がいた。第二王子のナーヤス殿下だ。
「これはこれはナーヤス殿下、何か」
ありましたか、と尋ねる前に強い口調で遮られた。
「あいつの部屋に誰か入ったのか?」
「……あいつ、とは?」
「あいつはあいつだ!リューディアだよ!」
またあの『聖女』のことか。
「……い、いえ。彼女が出て行ってからは誰も入ってはいないと思いますが」
本当にめんどくさい。今はそれどころではないというのに!なんであんないなくなった女の部屋に入らねばならないのか。
「そんなはずはないだろう!なら何で宝石たちがないんだ?」
「……は?宝石?」
何の話だ?
「私がやった宝石だよ!あいつには持っていくなよ、と釘を差したし、わかったと言っていたから置いていったはずだ。だがあいつの部屋のどこを探してもない!いなくなった今、部屋に入れる奴など限られるだろう?どこへやった?」
「……い、いえ、本当に何も知りませんし、部屋にも入ってません。宝石を持っていたなんて初めて知りましたし」
そうだ、そんなものを着けているところなど見たこともないし、持っていたとしても普段邪魔になるからと着けていないはずだ。
ナーヤス殿下はしばらく考えてから、腑に落ちない顔をしていた。
「……まぁいい。とにかくあいつの部屋の物は絶対に触るなよ。後でまた探しにくるから」
「……はい」
そういい捨てて王宮の方に向かっていった。一体何だったんだ?
「……まったく…」
この忙しい時にいらんことを言い出さないで欲しい。こちらはそれどころではないというのに。
はぁと盛大な溜息をつき、歩き出す。これからどうするか、どうなるか考えるだけで頭が痛い。
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