15.それぞれの場所にて
~~~~宿屋・レオンハルトの部屋にて~~~~~~
「あまりにも急に話を進めすぎていませんか?」
「そうか?」
腹心の部下であるサナハトが少し呆れながら問いかけてきた。
聖女リューディアとの話し合いを終え、自分の泊まる部屋に戻ってきた。今は二人だけだ。
「あまり急くと不審がられますよ。計画が失敗しても困るのでしょう?」
「失敗したら困る。ここまで調べて準備したのに」
「そう思われるなら少しは自重してくださいね。フォローするのも大変なのですから」
「わかった、気をつけよう」
部下とはいえ、乳兄弟でもあるサナハトは私にとって兄みたいなものだ。もちろん本当の兄も二人いるが、普段立場上中々砕けた物言いはできない。サナハトは兄のようでもあり、友達のようでもある部下なのだ。彼もまたそれをわかっていてくれているから、きちんと耳の痛い忠告もしてくれる。そしてそれは正しいのだ。
「彼女は気づいてはいないと思うのだが」
「聖女様は気づいていませんが、侍女のお二人は気づいてますよ、獣人ですから。先程三人で廊下に出た際に問われましたので隠す必要もないだろうということで話してあります。ただ問われた事のみ、ですので全ては話しておりません。あとの判断は殿下にお任せします」
「……わかった。とりあえず王都に入るまでは」
「そうですね、入ってしまえばあちらも手を出しにくいでしょうし、表立っては出せないはずです」
「なるべく急ごうか」
「はい。では私は下がります、隣にいますので何かありましたらお呼びください」
サナハトは頭を少し下げ、部屋から出ていった。
机に置かれている水を一口飲み、溜息をつく。
「大丈夫だ。まだ気づかれてはいないはずだ。このまま王都に入れば……」
窓からは大きな月が覗いていた。
~~~~~ハリーナ王国・神殿にて~~~~~~~~
「今日も誰も来ないのか?」
「……は、はい」
ここは神殿内の祈りの間の隣の部屋。声を荒げているのはこのハリーナ王国の大神官と呼ばれている男だ。
「……まったく。とりあえず誰でもいいから連れてこい!」
「そ、それが皆様他の事が忙しいと……それと魔力が回復していない、と」
「『聖女』の肩書きを持つ者が祈り以上に優先させる事などないだろう!?それに魔力くらいすぐ回復するはずだ!もういい!私が呼びに行く!」
部下に頼ったのが間違いだった。貴族でもないこの部下だと今の『聖女』や『聖者』達には強く言えないのだろう。仕方ない、皆貴族の娘や息子なのだ、大神官が言うしかない。
とにかく誰でもいいから祈りを捧げてもらわねば、『聖玉』の力が無くなっていき、この王国の加護も難しくなる。あの『聖女』がいた時は何も言わなくても毎日祈っていた。光魔法を使って祈りを捧げている『聖女』は魔力の回復に日数がかかると言われているが、あの『聖女』はそんなことはないかのように毎日捧げていた。
だから光魔法とはそんなに魔力を消費しないのだろうと思っていた。『聖玉』に込められている力もそんなに使われる事はないのだろう。毎日少し減った分だけ補充しているのだと思っていた。
あの『聖女』がいなくても七人もいればどうにかなるだろうと思っていた。一応それほどではないが皆光魔法は使える者達だ。神託などはないが、素質はあるのだからと代わりに寄付をしてもらって『聖女』に認定した。
だが誰も祈りを捧げにこない。順番にと思い、来る日を指定したが一巡目はとりあえず来たが二巡目以降誰も来なくなった。
すると『聖玉』の力が目に見えて弱くなった。誰の目で見ても輝きが無くなってきたのだ。それはすなわち込められている祈りが足りないということだ。『聖玉』の力が弱くなるとどうなるか、それは誰にもわからない。
今までそんなことが無かったからだ。
くそっ、と大神官は心の中でつぶやきながら廊下を歩く。
私の代でこんなことになるとは……『聖女』『聖者』が仕事をしないと私の任命責任も問われるではないか!
とにかく祈らせて『聖玉』の輝きを戻させないと。くそっ!
『聖女』の一人がいる部屋の扉をノックする。中から声が聞こえた。
「大神官のノールです。ここを開けていただきたい」
しばらくすると侍女らしき女が出てきた。
「聖女殿に話がある。入らせてもらう」
「ちょうど良かった、私も話がある」
あまり聞き慣れない男性の声が聞こえた。ここは聖女の部屋だ、普段男性の出入りなどないはずなのだが。ん?と思い部屋の奥を見るとソファに聖女が座り、その向かいに男性が立っていた。どこかで見た、と考えた。
あぁそうだ、聖女の父親の伯爵だ。まぁ父親ならここにいても、と思ったが、何だか聖女の様子がおかしい。
「お久しぶりです、伯爵。どうかなさいましたか?」
「どうもこうもない、一体どういうことだ?説明してもらいたい」
激昂している伯爵に大神官も訳が分からなくなってしまった。
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